白昼の冠
紆余曲折を経て王宮へと戻ってきた船長2人はドフラミンゴの座る場所に転がされているものに気がつく。一つはハイエナのベラミー、そしてもう一つは真っ白な糸で包まれた「何か」だ。すぐにその何かがレイルスだと気がついたローとルフィはギリ、と奥歯を噛み締めてドフラミンゴを睨みつける。レベッカがひまわり畑まで運んだ鍵にて、海楼石の手錠を外すことに成功していたためローはいつでも能力を使えるように備える。「万が一ってこともある、2人ともここに何しにきた?」
「お前をぶっ飛ばしにだ!!」
「同じだ!」
「おいミンゴ!レイルス生きてんだろうな!」
「こいつは大切なコレだ……じゃじゃ馬が過ぎたんで大人しくしてもらっているだけさ」
コレと言いながら、自身の親指の爪を人差し指でカチカチと叩いてみせたドフラミンゴは「殺しはしない」と静かに笑う。糸の中の気配がかなり薄い。見聞色でレイルスがかなり弱っていることに気がついた2人は顔をより険しくする。心拍が緩く、意識を失っていることを確認したローは救出することを優先させるべきかと、胸くそ悪い拘束をされているレイルスを改めて確認して舌打ちを零す。
ルフィはもう一人、血塗れで倒れるベラミーに声をかける。空島へと向かう前の島――ジャヤにて一度戦ったことのあるベラミーとはコロシアムで再会していた。ドフラミンゴの部下になったと言っていたが、なぜ血塗れなのだろうかとルフィは拳に力を込めながら苛立ちを抑え込む。
「ベラミーを離せ」
「それは勝者が決めること、こいつは俺に殺されに来たのさ……なぁベラミー」
ファミリーの幹部になるためにコロシアムの大会に参加していたベラミーだが、予選にてバルトロメオに敗退。すでにその時点でドフラミンゴの失望を買うには十分だったものの、最後のチャンスとして与えられたルフィ暗殺の命令にすら叛いたために殺されて当然だとドフラミンゴは笑った。ベラミーもそれをわかっているかのように項垂れて顔を上げない。ベラミーにとって昔からの憧れであったドフラミンゴ。そんな男の部下になり、これからの世界を渡っていくという「夢」を見たベラミーは、その夢のために戦っていたのだ。失敗した自分への苦しみ、簡単に切り捨てられる駒だったという自覚。それらがベラミーの涙となって勝手に溢れていた。空島の存在をルフィに示されてから夢を追うために変わったと思っていたベラミーの心にドフラミンゴは容赦なくナイフを立てた。
「人は生まれ持った性を変えられない、お前はどこまで行ってもチンピラなんだよベラミー」
「何言ってんだベラミーは変わった!!」
「もう、もういい……殺してくれ」
ベラミーの顔は殴られたために腫れて原型を留めておらず変色していた。一方的に嬲られたのだろう様子にローも顔を顰める。怒りのあまりルフィが蹴りを繰り出すも、ドフラミンゴはベラミーを盾にしてそれを防ぐ。満身創痍のベラミーに攻撃を当ててしまったルフィは混乱しながら大声で謝り、ローに落ち着けと怒鳴られる。相手の怒りや焦燥を煽って冷静さを失わせる、それがドフラミンゴの手だとここに着く前に散々ルフィへ言い聞かせていたと言うのに綺麗に手のひらで転がされ始めたルフィにローも青筋が浮かんでいた。ただでさえ時間勝負になっていると言うのに、とローは転がされてピクリとも動かない白い糸の塊を見る。床に面している部分が少し赤い、血が出ているのだろう。ただでさえ珍しい血液型だと言うのに処置が遅れれば手遅れになる可能性をローは舌打ちとともに弾き出す。
「ドフラミンゴは、非情かつ冷酷な男……いつでも一瞬の隙を狙ってる」
落ち着けとローが説明した側から、トレーボルに煽られたルフィががなる。単純明快を絵に描いたような性格のルフィとあの手この手で策略を練り相手を弄ぶドフラミンゴファミリーの相性は最悪だった。
「非情とは言ってくれるじゃねぇか、お前が言うほどでもないさ」
顔には笑みが浮かんでいるもののドフラミンゴからはとてつもない怒気を感じたローは思わず口を閉ざす。パンクハザードでのSAD施設の破壊、忠臣のヴェルゴに加えてモネの命を奪われ、ドレスローザではおもちゃを解放されてしまい最終手段を取らざるを得なかった。必須ではない、けれどこれまで長年かけて築いていた国王という地位だったことも間違いではなく、そこに怒りを感じないわけではないのだと語る。
「怒りを通り越して笑っちまってるだけさ……しまいには俺の首を取れる気でいる。お前らが現れてから散々だ、まるで13年前の絶望を再び味わっているようだ」
「あの事件がなけりゃ!俺はこうしてお前の前に現れることもなかった!」
「あの事件がなかったらお前は3代目コラソンとしてここにいたさ」
方便だ。ドフラミンゴは珀鉛病を治すつもりはなかった。コラソンだけがローの病気のため、あそこまで本気で動いてくれていたのだ。たとえ助けるつもりだったとしても、それはコラソンにオペオペの実を食べさせて不老手術をさせるついで。それに13年前の出来事を引き起こした張本人が絶望と表することにローは凄まじい怒りを覚える。グッとそれを腹の底へと押し込んで、仇へと刀を構えた。
糸分身を作り出し、ベラミーを糸で操るドフラミンゴは椅子に座したまま。殺してくれと涙するベラミーに顔を歪めたルフィは、チラと未だ横たわったままの白い塊に目を向ける。チョッパーがサニー号で出航してしまった以上、大怪我を負っていると手に負えない。ローがいるとはいえ、血液の問題はあるのだ。魚人島にてサンジとレイルスの血液型が同じだと聞いていたルフィはこの国に同じ血液型の人間がいるのだろうかと一瞬不安に駆られた。
「よそ見か麦わら」
「うぉ!やめろ!ベラミーを離せ!!」
「代わりの効かない人間だ、エルリックについては俺がちゃんと使ってやる……有効にな」
「あんにゃろう!レイルスを物みたいに言うんじゃねぇ!トラ男!もうぶっ飛ばす!!」
「馬鹿!秘策だと言ったよな!熱くなるなとも言ったぞ!!」
「今やる!!『ゴムゴムの』……!!」
「テメェ、覚えてろ!!」
そう言ってルフィはローへと向かって攻撃のモーションを取る。錯乱したようにしか見えないルフィの行動にトレーボルがゲラゲラと笑っているが、ドフラミンゴは警戒したように笑みを引っ込めた。ローの能力が展開する。
「『シャンブルズ』!」
ルフィの渾身の技が、ドフラミンゴの腹部へと炸裂する。ドフラミンゴとローの位置が入れ替わったのだ。トレーボルの隙を突くこともでき、ローの攻撃も見事的中する。しかし、ここぞという場面で使えと伝えていた作戦をこうも序盤で使うこととなったローは怒りのままルフィへと噛み付いた。
「麦わら屋!最悪だお前は!」
「お前もその世代だ!!」
ふわ、とレイルスを包んでいた繭玉が中身を失ったようにゆっくりとつぶれた。
投稿日:2022/1211
更新日:2022/1211