若人は行進する

 涙を流して全身全霊で礼を伝えてくるトンタッタ族を、やっぱり苦手だと思いながらいなすレイルスがそれじゃあと別れようとした時に電伝虫から声をかけられた。
『待ってエルリック!状況を説明するわ』
『エルランド〜!!』
 ウィットンの涙声が時折挟まりながらも、戦況を伝えられる。そこでレイルスは初めてヴィオラの持つ千里眼の能力を知り慄いた。なんでもありだ本当に。麦わらの一味が置かれている状況、敵戦力とその位置、民間人と海軍の動向。ドフラミンゴファミリーにて国内の監視を任されていたヴィオラは報告もうまく、レイルスはほとんど口を挟むことなくただ傾聴の姿勢をとった。
「フランキーが工場にて幹部と一騎討ち、外壁が海楼石なせいで手こずってる。石を操る能力者はゾロが相手……ここで寝そべってるのが麦わらの一味とコロシアムの有志が伸した幹部で、たった今マンシェ……」
「マンシェリーれす!」
「の能力で復活寸前だった、この城の最上部でローがドフラミンゴと戦闘中で、下のひまわり畑でロビンとこの国の兵士が最高幹部を相手取ってる。ルフィはまださっきの場所で足止めね」
 レイルスは現状を噛み砕いていく。ハイデリヒも革命軍として思うところが多々あるのかじっと難しい顔で思案を開始した。
「一つ確認を」
『何かしら』
「その鳥カゴ?出られないってことだけど、海水をぶっかけようが糸は消えないってことでいい?」
『……海水を多く含む河口には糸が降りていないから分からないわ、それに確かめようにも海は檻の外よ』
 ヴィオラの情報収集能力に舌を撒きながらレイルスは膝の上に肘を乗せて顎に手を当てた。レオとマンシェリー、カブはわかりやすい考えるポーズに両手で口を覆ってレイルスの邪魔をするまいと健気にじっとする。そんな様子に気が付かないレイルスは最悪をヴィオラに語る。
「海水は恐らく有効だろうけど現状海水を使っての脱出は不可能。それより想定しておいた方がいいのは糸が不動じゃない場合かな」
『不動じゃない?』
「私が今まで見てきたドフラミンゴの糸は自由自在に動いていた、視認できるものもできないものも総じてドフラミンゴの意のままだった」
『……ええ、制約はありそうだけれども長く側で見ていても万能にも思えたわ』
「なら尚更、最悪動いて人を襲うって考えた方がいい」
 レイルスの言葉に全員が息をのむ。
「周囲に視認できない細い殺人糸が漂っているかもしれないし、ドフラミンゴが操って籠が襲ってくる可能性もある……国民は?どこに避難してる?」
『海軍が広場に……ただ、無差別にドフラミンゴが人を操ったせいで国を出ようとしたのか海岸へ向かっている人も多いわ』
「災害時の避難指定場所は?」
『ピーカが全ての避難場所を潰してる……残っているのはひまわり畑くらいだけど、あそこにも最高幹部のディアマンテがいるし、地形変化のせいで簡単にはたどり着けないわ』
「……工場しかないな」
「え?」
 ハイデリヒが不思議そうに声を発する。顎から手を離したレイルスにつられて、トンタッタの3人はそろりと口から両手を離した。
「海楼石でできているのであれば、ドフラミンゴの糸であろうと切られることはない、糸が暴れ出した時に逃げられそうにない老人や子供、もう怪我をしているような国民は工場の中に避難させるのが一番いいと思う」
大きさや形状を見ていないし、機材なんかが多くあるようなら危ないかもしれないけどとレイルスはごちる。
「ドフラミンゴは現状国民の状況を把握する余裕がない、ローを相手取ってる中で籠をどうにかする暇はないはず、現に城で好き勝手動いている私が放置されてるから他に割ける余力はないと見ていい。ルフィもあの様子ならすぐローと合流するからしばらくは問題ない」
「……じゃあドフラミンゴの戦いが止まったら国民が」
「危ないだろうね」
「そんな!」
 マンシェリーが絶望の声を上げた。
「フランキーが工場の制圧はする、だからそれが終わって且つドフラミンゴの戦いが継続している間に国民を避難させ始めるのが吉。可能であれば完全制圧後に中にある危険物外に出して、収容可能人数増やすようフランキーかトンタッタに伝えて……海軍にも避難場所として提示して誘導させた方がいい」
『……エルリック』
 ヴィオラとは違う低く渋い声が電伝虫から響く。顔も渋くなっている。誰だこいつとレイルスは顔を顰めた。「リク王様だよ!!」ハイデリヒが慌ててレイルスを嗜めるように注意した。
『ありがとう、君がいうようにできる限りの避難を行う』
「……そう」
「あ、あの!」
 マンシェリーが声をあげ、アピールするようレイルスの膝へと飛び乗った。
「チユチユの力で、怪我をした大人間たちが一時的に動けるようにできるれす!」
『なんだそれすげぇ!』
「ウソップいたの」
『ずっといたわ!!心配してたんだぞお前ェ!!』
 錦えもんとカン十郎もいると叫ぶウソップはついでとばかりにグリーンビットにて気絶した時に放置されたことを怒り始めた。レイルスは「ハイハイごめん」と適当過ぎる謝罪をしながら改めて考え始める。ハイデリヒはウソップの話を聞きながらなんて非情なんだとレイルスをじとっとした目で見つめた。
「能力的には石男が厄介だな……ああだからこの国目新しい石造りの建物ばっかりなのか。ゾロを無視して国民か、頭を取りに来るかも」
 実際ドフラミンゴの王政となってから国の街並みは一変した。レイルスの指摘通り、今思えば石造りに拘ったのはピーカの能力を最大限に活かすためだろうとわかり、各々苦い顔を作る。
『頭?』
「あんただよ、王様……高台にいるんだよね」
 確認のようにレイルスが呟いた言葉に電伝虫が静かに頷く。いまだにこのカタツムリに慣れないレイルスは怪訝な顔で見つめてしまった。レイルスの言葉を理解したハイデリヒが「だめだ!」と叫ぶ。
「リスクが大きすぎる!」
「でも、国民から目を逸らすのに国王という的は必要だよ」
 レイルスが続けた言葉に高台にいるメンバーも理解したのだろう、空気がひりついた。それを無視したレイルスは平坦な声で説明する。
「ドフラミンゴファミリーにとって今邪魔なのは海賊、革命軍、そして反乱の意思を持ち始める可能性のある最大母数の国民……そしてこの場で排除することで民衆の心を一番折るのは国王の死だ、衆目の元殺せば大多数の国民を戦闘不能に追いやれる。国民が生きることを諦めれば自然と海軍も仕事が増えて力を削げる」
「だったら尚更リク王様にも逃げてもらうべきだろ!」
「だからこそ、的になって立ち続けるべきだよ。立っているだけで国民を鼓舞する力がある。まだ生きていることを教えてやるべきだ」
 違う?とばかりに膝の上で暗い顔をしていたマンシェリーにレイルスは問いかける。恐る恐る、しかし確かにマンシェリーは頷く。トンタッタにとってもリク王の存在はとても大きく、かけがえのない柱だ。リク王が生存してくれていたからこそトンタッタも今日に向けて戦い続けてこられた。ドレスローザの歴史を聞いていたレイルスもこの戦場においてリク王の持つ価値の大きさを理解していた。マンシェリー自身も、王族としてその役割を十分に理解しているからこその肯定。混乱と陰謀が渦巻く中で、道標として国王は国民を守らなければならない。
『……君のいう通りだ、もとより私はここから動くつもりはない』
『そんな!お父様!』
『ドフラミンゴの性格なら痛いほど身に染みている……やつはエルリックのいうように、多く人の目がある中処刑という形で私を殺すだろう』
 悔しそうにハイデリヒが唇を噛む。端正な顔を歪め、どこか痛そうにも見える表情からレイルスはそっと目を逸らす。レイルスとリク王が語る言葉のどこにも否定できる余地がないからだ。
「まあ、餌にはなってもらうけどゾロが喰わせやしないよ。ドフラミンゴの方もルフィが行かせないだろうから堂々とそこに居な」
 首を回しながらレイルスはため息を吐き出す。国王本人の意思確認のつもりで振った話が思ったよりも重苦しい空気となってしまったことを顔には一切出さなかったもののレイルスは少し反省したのだった。


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投稿日:2022/1231
  更新日:2022/1231