若人は行進する

 マンシェリーとレオはひまわり畑に向かっているというレベッカ達と合流、レイルスとハイデリヒは引き続き城内を捜索すると伝えるとヴィオラから待ったがかかった。
『あなた達が探しているという資料がある場所だけど、行くにはドフラミンゴが持つ鍵がいるわ……場所に関してはカブ、案内をお願いできる?』
「任せてくらさい!」
 ヴィオラに指名されたカブは元気に返事を返す。あからさまに嫌そうな顔をしたレイルスにハイデリヒは肘で突いて諌める。総じてトンタッタは純新無垢な言動を取るためすっかり苦手になっていた。ため息を吐いて諦めの表情を浮かべたレイルスは電伝虫に語る。
「で?鍵で開けないと爆発する仕組みとか?」
 ヴィオラの目を模した電伝虫が大きな目をさらに見開く。
『そんなことはないわ!でも扉が重厚な鉄でできていて、とてもじゃないけれどこじ開けるには』
「アー、その辺りは得意分野だから平気」
 レイルスはヴィオラの言葉を遮って悪い顔で笑う。確認のために海楼石ではないかだけ問いかけたが、それはないと言質をとったためレイルスは立ち上がる。そして思い出したように電伝虫へあ、と声を発した。
「もし海軍と話す場面があっても、下手に海賊の肩は持たない方がいいよ」
 返答を待たずに受話器を置いたレイルスにマンシェリーが不安気に見上げてくる。レイルスはそれを見ないふりをしてさて、と空気を入れ合えるように手で太ももを叩いた。
「マジでついてくるの?」
「だから僕もそこが目的地だって言ったろ?」
「そういえばそちらの大人間もウソランドの仲間れすか?」
 レオの問いかけにハイデリヒは片膝をついてレオに目を合わせるようにする。王子のような振る舞いにマンシェリーはこっそりと胸をときめかせる。緩やかに笑みを浮かべたハイデリヒは革命軍であること、他にも仲間がいることを伝える。「え!」トンタッタの3人は驚きの声を上げた。レイルスは1人先に通路へ出て、扉の前にしゃがみこんで地面にぐりぐりと口紅で錬成陣を描き始める。口紅はジョーラが持っていたものを拝借した、妙にフローラルな香りのするものだ。うーん臭い。香水の類が苦手なレイルスはベンゼン環を脳裏に思い浮かべながら容赦なく高級なコスメを石レンガで削る。
「おーい、そろそろ出て」
 わいわいと話し始めていた4人に声をかけながら立ち上がる。口紅の残量を確認しハイデリヒから借りていた上着に押し込む。可能であれば海に捨てられたジャケットを回収したいとぼやき、レイルスは全員が退出したのを確認して扉を閉め、足でトンと錬成陣を踏む。バチバチという音とともに扉が石で覆われていく。幹部が復活すれば簡単に壊れるだろうが、弱っているなら十分だろうがっしりとした閂がかかる。
「ギャー!!なんれすかそれぇ〜!!」
 目をギラギラとさせて興奮した様子を見せたレオが出来上がった閂に飛びかかる。「すごい!ピーカの能力れすか!?」と叫ぶレオにつられてカブとマンシェリーもすごいすごいとレイルスを称賛する。げっそりとしたレイルスはその顔のまま「はいはいどうも」とハイデリヒに向き直る。ぽっかりと口を開けて驚くハイデリヒにレイルスはお前もかと顔を顰めた。
「ど、どういう」
「それどころじゃないでしょうが今!はい行くよ!」
 耐えきれんとばかりに走り出したレイルスに、一瞬遅れて「待って!」とハイデリヒが続く。すぐさま追いついたカブはレイルスの肩にぴょんと飛び乗り「あっちれす!」と前方に指を向けた。背後からレオとマンシェリーが「絶対後でおしえてくらさい〜!」「約束れすよ〜!」とレイルスの背中へ声をかけた。なんとも呑気な2人にレイルスも流石に少し笑いながら、後ろ手で手を振った。

 カブが案内する通路は所謂抜け道で、道中ドフラミンゴの部下と相対することなく目的地までたどり着くことができた。ヴィオラの言っていた通り扉は分厚い鉄製。パンクハザードのゲートを想起させる重苦しさを発し、侵入者を拒んでいる。だからだろうか見張りはいない。ノックするようにして重厚な扉を叩いたレイルスはふむと考えるように顎に手を当てる。
「どう?」
「鉄扉だね、ただ中が機械仕掛けになってるのかごちゃごちゃしてそう」
 徐に扉から離れ、レイルスは足元の地面を手で撫で付ける。戦いのせいか砂埃がレイルスの手の平に付着しざらりとした感覚を残していく。
「うん、こっちかな」
 納得したように頷いたレイルスは手に取った口紅をまた地面にガリガリと滑らせて円を描く。興味津々とばかりにカブが地面へ降り立ち間近でレイルスが描く赤い円を眺めている。ハイデリヒも己の影が邪魔をしないよう照明の位置を確認しながら覗き込むようにしてレイルスの挙動を観察している。
「扉そのものは鉄以外にも含まれるものが多くて面倒、横の壁も同じく石に鉄、機械の配線やらが混在してて扉より複雑。ただ地面は扉を支えるためなのか分厚い石になってるだけで特段混ざりものはない」
 嫌な音がなった口紅を確認するとどうやら使い切ったようだったためレイルスはぽいとそれを背後へと放る。コラと怒りそうになったハイデリヒだが、背後を見て壊れた花瓶や原型を留めない壁を見て考えを引っ込める。こんな戦場でゴミも何もないだろう。ぺちと地面に手を当てたレイルス、バチバチという音に盛大に驚いたカブは奇声をあげて近くにいたハイデリヒの靴にへばりついた。ずるずると石が動き、ぽっこりと穴が空く。そして躊躇いなくそこに滑り込んだレイルスにカブとハイデリヒは「ええ!?」と仰天する。2人が中を覗き込めば、どうやら滑り台のようになだらかに坂になっているようだ。真暗というわけでもなくぼんやりとだが光も見える。目を合わせた2人は意を決して穴へと身を滑らせる。つるりとした石の表面は徐々に傾斜をなくしついに横ばいになる。ポッカリと綺麗に空いた丸い穴。それを背景にレイルスが腰掛けているのを見たと思ったら一瞬後レイルスはぴょんとそこからまた飛び降りてしまう。
「自由……」
 思わず呟いたハイデリヒはそういえば島で共同生活をしていた時もかなり自由奔放だったなと思い出して疲れた顔をした。カブはハッとしたように声をあげる。
「こ、ここれす!あの螺旋階段……間違いないれす!資料室!」
 音を立ててハイデリヒの肩から飛び立っていったカブは嬉しそうな声で部屋の中へと飛び込んでいく。レイルスは予想通り縦長の作りになっていた資料室の全貌を見てほうと感嘆の声を漏らす。あれだけ揺れも大きく戦いの中になったというのに資料室は殆ど無傷と言っていいほど理路整然としていた。中央にある木製の螺旋階段、円形に広がった空間の壁には至る所に梯子が取り付けられ、ぎゅうぎゅうに本や資料が詰め込められている。量を見るに10年やそこらで揃う量ではないと察したレイルスは流石のドフラミンゴもこれまでの国の財産を放棄はしなかったらしいと知る。使える物はなんでも使う賢くも残酷な人間がドフラミンゴなのだろう。
「う、わぁすごいや!」
 レイルスが降りてきた穴を見上げればハイデリヒが目をキラキラとさせて室内を見渡している。その純真な眼差しはレイルスを過去に置き去りにした弟に酷似しており知らずにレイルスの顔が渋いものになる。振り払うように部屋を一瞥したレイルスは埃のかかり具合や資料の色褪せ方を見て今いる場所は古いものしかないのだろうと察して足をすすめる。ハイデリヒもレイルスが動いたのを見てハッとし、咳払いをして背筋を正した。

 - return - 

投稿日:2023/0113
  更新日:2023/0113