奇抜に嗤う

「我々も一度ひまわり畑に行くのはどうれすか?」
「うっわびっくりした、ついてきてたの?」
 まだ中に残るハイデリヒのために今度は穴ではなく扉を錬成して外にでたレイルスは、さてどうしようかと廊下を一瞥したタイミングでまさに耳元で声をかけられてギョッと驚く。我が物顔で肩に座っていたカブは気がついていなかったのかと呆れた顔をしてペチペチとレイルスの頬を叩いた。
「レオ達と合流できればヴィオラ様に話を聞けるかもしれないれすよ!」
「ああ、王妃様?」
「きっとエルランドの探し物も見つけてくれます!」
 自分が合流したいからこその提案かと思いきや、レイルスのことを考えそしてヴィオラへ対する信頼を口にしたカブにレイルスは頭を抱えそうになる。非常事態ではあるとはいえ、王族と指名手配犯にコンタクトを持たせようとするな。そもそもレイルスは最初にウィットンを誘拐したという前科もある。余談であるが電伝虫はレオに持たせたためこの場にはない。
 トンタッタ族の歴史からもわかる。彼らがいかにドフラミンゴに騙され続けてきたか。長い間奴隷として扱われていた歴史もあるというのに学ばない彼らをどう見ていいかわからずレイルスは珍しく言葉に詰まる。判断基準はわからないがカブの中でレイルスはもう立派に味方であるらしい。そう簡単に信じるなと言ってやりたいが、それがトンタッタの美点であろうこともレイルスには理解できた。疑うよりも信じることの方がずっと難しい。小さくも逞しいこの種族は裏切りにあった過去を背負っていても尚その姿勢を貫いている。数時間関わった程度のレイルスが口を出していい程度の話ではない。
 レイルスにとってそういうところも含めてトンタッタ族の純真すぎる部分は苦手なのだろう。こめかみをグリグリと親指で押しながらレイルスは痛みそうな頭を無視して渋々頷いた。ドフラミンゴの寝室部分については王宮が切られた時点ですでに落下しており、内部にいてもたどり着くことができないというのも理由の一つではあるがピーカによって位置を変えられた王宮内の探索は無謀であることをハイデリヒが身をもって証明しているのが大きかった。推測で探索できるレベルではないことからヴィオラを頼るというのが一番の近道であることは間違いないだろう。悪魔の実の能力もそうだが、長年ドフラミンゴの部下として過ごしていたという経歴がある。慎重なドフラミンゴの情報をどれだけ持っているかは謎だが、少なくともレイルスやハイデリヒよりは確実にドフラミンゴという男の性格を知っているだろう。どういった条件を提示するかだな、レイルスは脳内の天秤をゆらゆらとさせる。錬金術師らしく等価となる何かを考えながらレイルスはカブの案内のもとひまわり畑へと向かうこととした。

――数分後
「ねえこれ道合ってる?」
 ドバドバと冷や汗を流して目を逸らすカブに容赦のない力でデコピンを食らわせたレイルスは「ンギャァ」と痛がる声を無視して周囲を改めて見渡した。ひまわり畑というからには外にあるのだろうとレイルスは認識しているがどこからどう見ても外へ続く道がない。道どころか窓すら見当たらない、ピーカによってよく知るはずの王宮内はそれはもう入り組んだ迷路のように成り果てていた。最初に迷うことなく書庫にたどり着いたことが奇跡だった。
「ここに外へと続く降り階段があったんれすよぉ〜」
「ないけど」
 スンスンと鼻を鳴らしながら涙目で訴えるカブに微塵も容赦をしないレイルスである。カブを責めはしたもののレイルスもこの城内の作りではしょうがないかと思ってしまうほどに城内部は混沌としていた。降り階段を降りていたと思ったら途中から登りに変わっていたり、右に曲がったと思ったらぐるっと一周させられていたり。カブも「厨房がなぜ2階に!?」「地下牢の一部が地上にあるれす!」と終始驚いていた。ハイデリヒが迷っていたというのも頷ける。しかし驚いているにもかかわらず、なぜかひまわり畑への行き方については絶対の自信を持っていたためレイルスも大丈夫なのかと不安になりながらもついてきたのだ。
「本当になんであんなに自信満々だったんだ」
「ひまわり畑は何度も何度も行っていた場所で……」
「しゃーない、壁ぶっ壊して外出るか」
 手首を軽く回しながら近くの壁に近寄るレイルスだったが、書くものが何もないなとペタリと石壁に手を当てて思案する。レイルスの肩の上で「あのキラキラのをやるんれすか」カブはレイルスに弾かれたせいで赤くなった額を抑えながら期待に満ちた目でレイルスを見上げた。しかしそんな2人の間に怒声が飛び込んできた。
「いたぞ!麦わらの一味だ!」
「トラファルガーのクルーが一人でいるぞ!」
「どっちも違いますが!?」
 叫びながら飛びかかってきた男たちの勢いを利用してその顔面に肘をめり込ませたレイルスは目を吊り上げて珍しく声を荒げて否定する。どちらの海賊にも組みしていないのだが、ドフラミンゴの部下達はルフィとローどちらかの仲間であろうと言う点についてはブレないらしい。口々に「麦わらの」や「ハートの」、「海賊同盟」と言う言葉が飛び交いそのたびにレイルスの額にピキリと血管が浮いた。ついにドレスであることなど全く忘れたとばかりに大立ち回りをし始めたレイルスの髪の毛にしがみついたカブは「お、おちついてくらさい〜」と目を回しながらボコボコにされていくドフラミンゴの部下が積み重なっていくのを見ていた。



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投稿日:2023/0215
  更新日:2023/0215