奇抜に嗤う

『皆聞いてくれ、私は元ドレスローザ国王リク・ドルド三世』
 島中に声が轟く。リク王がスピーカーを通して国民へと語り始めたのだ。
『この国は今、現国王ドフラミンゴの始めたゲームによって逃げられない巨大な鳥カゴの中にある……さらにその凶暴な鳥カゴが街を切り刻み収縮を続けている』
 人々も突然の放送に耳を傾け始めたのか、声や悲鳴が和らぐ。この混乱状態の中でも多少なりともリク王の声を聴くべきだと思う国民がいる証拠だ。
『突如降りかかった現実に感情が付いていけぬまま、ただ命を守っている現状だと思う。だがこれは夢などではない!そして今日起きた悲劇でもない!』
 人々は押し合いへし合い、中には諦めて立ち止まっていたものの多くいた。病院には多くの寝たきりの患者が残され医者や看護師が途方に暮れている。その多くは、だからこそリク王の声がよく耳に届いた。
『私たちは10年間ずっと海賊の支配するドレスローザという名の鳥カゴの中にいたんだ……10年間ずっと操られるままに生きる人形だったのだ、これが現実なのだ!』
「大丈夫かこれ」
 多くの国民と同じように放送が耳に届いたレイルスは悲痛に塗れた王の声に顔を顰める。国民たちにとっては、確かに降ってわいた話であるものが多かったのだろう。おもちゃにされて支配されていたものも、まさか10年も前からこんな現状が国の裏で蔓延っていたなどと思っていなかったはずだ。最初からその悲劇を知っていたのは国王とその忠臣たちのみ。構図としては当時信頼を得られなかった国王と、その王を見限りしっぺ返しを受けた国民という形。恨み言にも聞こえかねないとレイルスはすこしひやりとする。王にそのつもりが微塵もなくとも状況が言葉にエフェクトをかけることはままあるのだ。
『だがそれももう終わる!』
 しかしそんなレイルスの心配など杞憂だという様にスピーカーから声が張り上げられた。
『誰も叶わぬと思っていたドンキホーテファミリーは、この国に居合わせた屈強な戦士たちの手によって今壊滅寸前!ファミリーの幹部たちはすでに全滅!打つべき敵はもはや現ドレスローザ国王ドフラミンゴを残すのみ!』
 わずかに、街のなかから歓声に似た声が上がる。
『相対するは海賊麦わらのルフィ!きっと彼こそが鳥カゴを破壊してくれる男……!私は元国王でありながら見知らぬ海賊に国の運命を託すしかない己の無力を、痛感している……だが!こう叫ばすにはいられない!』
 息を吸い込む音が、一瞬しんとした空気をひりつかせた。
『勝つも負けるもあとたった数十分!それまでは何としても逃げ延びてくれ!この縮みゆく国に誰一人押しつぶされることなく!走り続けてくれぇ……!息が切れても、足が折れても……!あと数十分、生き延びてくれぇ!』
 スピーカーである電伝虫に、国民は思わず目を向ける。あの強くたくましい国王の声に、水気を感じたからだ。10年前のあの悲劇の日、焼ける国を背景に大粒の涙を流していた国王の姿が目に浮かぶ。けれどあの時の、絶望に塗れた声ではない。王は諦めていない、ただただ国民の無事を憂いて、そしてもうすぐ終わる絶望を願って涙しているのだ。恨まれたとておかしくないと思っていた国民たちは、王が耐えてきたという10年を思う。それに比べてあとたったの数十分、国民のために涙をする王に多くのものの心が震える。
『希望はあるのだ!どうか諦めないでくれぇ!!』
 まさに国民を鼓舞する王の声に、自分たちを思って涙をする優しい王のために。国民は再び立ち上がる。愛と情熱の国、ドレスローザの国民がこんな国王の声に応えない訳が無いのだ。そう国全体が小さくなっていく鳥カゴのなかで誰もがそう感じて奮い立った。
 こうも立派な人を心配するだなんて余計なお世話だったとレイルスはふっと笑う。いい国じゃないかと心から思う。王が国民を思うように、国民も王を思っているからこそ皆が応えたのだ。そういえばかつて王と国民の在り方を不法入国者と語ったことがあったななんて思い出しながらさて、とレイルスは己の取るべき行動を見定めようと片腕をくるりと回した。
 ドレスローザの美しくも華やかな街並みは、もはやその原型すらどこにも見られない。レイルスの黙視できる位置に鳥カゴは収縮しており、海軍、国民、そして海賊が分け隔てなく助け合いながら走っている。王の言葉は偉大であるとレイルスは笑う。しかし糸に切り刻まれ、瓦礫と化した建物が糸に押されて人々の生存できる場所が少なくなっている。
 やるべきことを考えるためにも、麦わらの一味がどういった動きをするかを把握するべきだとレイルスは足を進めながら頭を回転させる。この極限状態で無駄な行動はできる限り避けたい。元凶であるドフラミンゴはルフィが相手取っている。糸に唯一対抗できるであろう工場の確保についてはフランキーに伝わっているはず。ロビンは先ほど避難のためにこの下に先に降りて行った。レイルスが動きをつかめていないのは怪我が酷いらしいウソップと、所在がつかめていないゾロだ。ついでにワノ国の侍。
 ロビンも重症に部類されるため、考えるべきはゾロだろうとレイルスは城下を見下ろして状況を把握する。レイルスとして一番望ましいのは、迫りくる瓦礫の山を吹き飛ばすなどして、スペースを確保することだ。しかしあの男にそこまで細やかな気配りを期待できない。であれば、ダメ元だろうが糸を切りに行くと想定しておいた方がよさそうだ。自身で考えておいてゾロならやりそう、とその行動が目に見えてレイルスはペチンと額を叩く。
 フランキーとゾロが鳥カゴの外側に近い位置にいるのであればレイルスが向かうべきは人がごった返すであろう中央だと判断し、レイルスは方向を確認するために上空を見上げる。幸いにして鳥カゴの中心はレイルスのいる位置に近い。視線をあちこちに回す中、ルフィとドフラミンゴが戦っている場所の建物が白く変色し、まるで生き物のように蠢いて居ているのが一瞬レイルスの目に映った。なんだあれはと集中しそうになるも、あちらはルフィに一任するべきだと己を叱咤して背を向ける。己の探求心から必死に逃れようとしたためにレイルスは「んがー!」と奇声を発していた。一瞬目に映ったルフィも見たことのない姿になっていたため余計にレイルスの関心がぐいっと持っていかれそうになったがそれでもレイルスは耐えた。

 - return - 

投稿日:2023/0416
  更新日:2023/0416