杖と花

「俺は逃げ回って覇気の回復を待つ……その間あいつがなにするかわからねぇ……けど、覇気さえ戻ればあと一撃で必ず片をつけられる」
 ルフィのその宣言にギャッツは目を見開いて仰天し、そしてルフィがその言葉を本気で宣っているということに心から称賛し何度も頷いた。
「よし!10分だ、頼むぞお前等!」
 いままでどこに身を潜めていたのか、周囲には荒くれものと称して間違いない装いのものが多く集まっていた。ギャッツ曰くコロシアム出場者であり、ドフラミンゴの策略にまんまとはまり、その賞金目当てにルフィたちに襲い掛かった者どもらしい。今では掌を返して麦わらのルフィに賭けると口々に言う。安く見えそうでも、その心根は本気なのだろう。この状況下で誰もがルフィに笑顔を向けていた。
「これだけいるんだ、ドレスローザの男はこの場を女一人に任せるなんざしない!」
「そうだ!」
「女は引っ込め!」
「ドフラミンゴを撃つ機会なんて美味しいもんくれてやるか!」
「隻腕じゃ荷が重いだろ、それに船長の危機だそばにいてやれ!」
「誰だ女だなんだ言った奴張ったおすぞ前でろ!」
「威勢良すぎだろ嬢ちゃん」
 ギャッツがしっかりとルフィを背負う。戦力はあるがドフラミンゴの前に果たして、と思うとやはりレイルスは残るという選択を取ろうとする。それを察したルフィは力の籠らないはずの腕をグンとのばし、容赦なくレイルスを巻き取った。
「は?」
 レイルスの胴へと巻き付いた腕を引き寄せたルフィは、自分ごとそのままギャッツの背中に乗る。ギャッツは一人増えても構わんとばかりに足を進め始める。当たり前だがレイルスは暴れた。
「話聞いてたでしょおいてけアホゴム!」
「きかねぇ」
「ドフラミンゴはここまで私を殺さなかった!賞金も付けなかった!殺す気ないの分かんでしょ足止めは私がした方がいいに決まって」
「きかねぇ」
「聞けよ!」
「きかねぇ」
 頑ななルフィにレイルスもつい勢いが止まる。その途端黙れとばかりにルフィはぐいとレイルスの顔を自分の腹とギャッツの背中の間に押し込んだ。「んぎゃ」と間抜けな声を発してレイルスは完全に抱え込まれてしまう。足だけをバタバタと暴れさせるレイルスは、シャボンディ諸島でレイリーに拉致された時と同じような様相になっていた。レイルスを抑え込みながら、ルフィは迫ってくる敵意を察して身構える。
「きた」
 ギャッツが何がと問いかける前に、その姿は目前へと迫る。瓦礫が降ってきたと思えば、ルフィ目掛けて襲い掛かるナイフ。四皇黒ひげのクルー、ジーザス・バージェスは虎視眈々とルフィを狙っていたのだ。突如迫る命の危機にもうだめだ、ギャッツが覚悟するも颯爽と現れた男がバージェスの顔面を蹴り上げた。
「あいつ……!三ツ星受刑者の」
「革命軍の参謀総長だ……!」
 ルフィの拘束がわずかに緩んだため、レイルスはぷはっと水面から上がるように顔を肉壁の間から出して息を大きく吸う。窒息寸前というほどにルフィにのしかかられていたため、やや血色のよくなったレイルスはルフィに無言で拳をぶつける。ごいん、とゴムの頭が左右に揺れた。
「殺す気か!?」
「わりい」
 レイルスが若干涙目なのもあってルフィは素直に謝った。本当に苦しかったらしい。ギャッツとルフィの身体に胴体だけを通すなんとも間抜けな状態になったレイルスだが、そんなことよりと先ほどの喧噪の正体を知るべく視線を周囲に這わせる。黒く大きな背中、ハット帽にパイプの配管。革命軍のNo2の顔がそこにありレイルスは「え」と驚きに声を発した。
「俺は革命軍のサボ、麦わらのルフィは俺の弟だ」
 ギャッツの動揺した声にレイルスも目を見開く。弟?革命軍の参謀総長がルフィの兄?ぽかん、と口を開けたレイルスは珍しく悪魔の実以外で驚きに飲まれ思考をきれいに停止させた。
「あいつに何か用か、バージェス」
「麦わらが弟ォ?どこかで聞いたセリフだ」
「火拳のエースもそう言ってたろ、俺たちは三兄弟だ」
「……そうなの?」
「おう」
 思わず小声でルフィに問いかければ、こくんと頷かれる。初耳だ、と驚くと同時にちょっと待てと顎に手を当ててレイルスはやっと思考を動かし始めた。元四皇、今は亡き白ひげの二番隊隊長であり、海賊王ゴールド・ロジャーの実の息子であったエース。革命家ドラゴンの息子であり、海軍の英雄ガープの孫であるルフィ。これでも盛りすぎだろうと思っていたのに、ここにきて革命軍参謀総長のサボまで兄弟だという。どんなとんでも兄弟だ。レイルスは唸ってルフィに頭をぶつけた。血は争えないってか、己の兄弟を棚上げしてレイルスはサボという男の背中を見つめる。金色の髪がハットの下から覗いている、がっしりとした体格と高い身長。横顔での判断だが顔立ちは確かに似ているが。これはあれだ、血のつながりがどうという兄弟ではなさそうだとレイルスは早々に判断した。流石に同じ組織に所属していればドラゴンとサボの血縁関係は早々に露見しているだろうし、頂上戦争の時にセンゴクもそれを口にしていたはずだ。一人納得をして鋭い目つきでバージェスを睨むサボを見上げる。
「バナロ島の決闘でお前等黒ひげ海賊団がエースを捉え、それがあの忌々しい頂上戦争の引き金になった」
 黒ひげは元々白ひげ海賊団のエースの部下だった。仲間殺しという最悪の形で白ひげを裏切り独立、旗を掲げ船長を名乗り始めた。エースはそのケジメをつけるために彼を追い、結果バナロ島で敗北して黒ひげに捕縛。黒ひげはもともと七武海入りを目指していたようでエースの首を海軍の土産とし見事その席へと座ったのだ。
「エースの人生だ、別にお前らを恨みはしないが……以後ルフィのバックには俺がついてる、よく覚えとけ!」
 力の込められたサボの声は周囲を威圧する。殺気すら篭るその声にすらバージェスはいやらしく口角を上げて舌なめずりをした。

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投稿日:2023/0504
  更新日:2023/0504