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 ドレスローザを壊滅状態にまで追い込んだドフラミンゴによる暴挙は、海軍に手によって隣国へと発信された。リク王は国民たちにより復権を乞われ国は少しずつ日常を取り戻そうとしていた。海軍大将である藤虎が頭を下げたことは瞬く間に知れ渡り、七武海の存在が問題視され始めていた。暴君くまにはじまり、アラバスタのクロコダイル。そして此度のドフラミンゴ。藤虎の率いる部隊が国内の復興に力をいれているため、麦わらの一味は数日経った今でもドレスローザに滞在が可能となった。キュロスの好意により、彼のかつての家であるカルタの丘で身を潜めることとなった一行は戦いの傷を癒やすべく各々横になっていた。
 一瞬で眠りについた面々のなかでレイルスはやっとローから解放されて息を漏らす。移動する最中もがっしりと腕をつかまれていたためレイルスはローの徹底具合に諦めて連行されてきたのだ。
 途中ローが拾ってきたベラミーと、錦えもんが見事見つけてきたワノ国の侍であるカン十郎を加えた各々が思い思いに身体を休めていたときに、その男は現れた。真っ先に気が付いたゾロが切りかかるも、ワインを投げ渡されてすぐさま刀を引っ込める。即座に酒だと気がついて受け取ったゾロに呆れたローはしらっとした目を向けていた。
「サボ……!皆、ルフィのお兄さんよ!」
「ええ!?」
 ロビンの紹介にそれぞれが驚愕に声を上げる。革命軍の参謀総長といえば、悪名高いことでそれはもう有名なのだ。ウソップなど寝ていなければ絶叫を上げていただろう。サボに視線が集まる中、水を差すようで申し訳ないと言った声色でレイルスの名が呼ばれる。
「レイルスさん」
「あ」
 サボの後ろにはハイデリヒもおり、バスケットを手に提げている。ルフィの兄というインパクトのある肩書に起きている全員が驚いているために顔を出しにくかったのだろう。気まずそうなハイデリヒの笑顔が引きつっていてレイルスはふむと思案した。薬等が詰め込まれているそれを受け取ったゾロが首を傾げた。ルフィの兄の存在に驚きながらも、こちらの男は敵では無いのかと確認を怠らないゾロにサボは喉の奥で笑う。
「そっちは?」
 やや剣のあるゾロの声にレイルスはうんとうなずいて答えた。
「私の弟」
「はぁ!?」
「嘘」
「嘘かよ!!」
 あははーと笑うレイルスにゾロは喰ってかかる。ハイデリヒもまさかそんな冗談を言われるなんて思ってもおらず「僕の方が年上だよ」とやや呆然としてぼやいた。ロビンはハイデリヒとも面識があったためひらりと手を振る。革命軍にロビンが身を寄せていたころよくレイルスのことを話題にして語っていた仲だ。
 サボはハットを脱いでルフィの眠るベッドに腰かけて弟の寝顔を見つめた。ロビンはルフィを起こそうとするもサボに停止される。顔さえ見られればいいという兄の顔にロビンも何も言えなかった。
 革命軍はそろそろドレスローザから立つそうだ。CP-0がこの国に引き返してきているらしいという情報を得たためだ。ただでさえドレスローザ復興と数の多いドフラミンゴファミリー移送のため、海軍の援軍が向かってきている中で世界政府まで相手にしていられない。麦わらの一味もはやく出航をするべきだと助言をしたサボにロビンは礼を伝える。
「どっちにしろ長居するつもりはねぇよ……にしてもエースの他に三人目の兄弟がいたとは」
「まったくだ、初耳だぜ」
「だろうな、一番驚いたのはルフィだろう。俺はずっと死んだことになってた」
 そしてサボの口から語られる幼いころの記憶。山でエースとルフィ、山賊と過ごした輝かしく楽しい日々。海賊になるために高め合い、兄弟の盃を交わした大切な思い出。ゴア王国で起こった貴族による惨い事件、そして天竜人によって撃たれ、それらすべての記憶をなくしてしまってからの生活。偶然にも拾われた先はルフィの父親である革命軍ドラゴンの元だというのだから運命とは数奇なものだ。
 皮肉にもすべてを思い出したのはエースが死んだと聞いた時。新聞に載せられたその顔は、知らない海賊ではなくよく知る兄弟の面影を強く残していた。思い出すにはすべてが遅くサボは大切な兄弟を一人失ってしまった。当時のサボをよく知るハイデリヒは、顔を俯かせる。頂上戦争が終わったことで一度本部へと戻り、サボが目覚めないと皆が心配していた。起きたサボは失っていた記憶を取り戻し、死んだエースが兄弟だったと語る。ハイデリヒはそこで、サボにレイルスという女と会ったことを話した。そこからはサボと共に大量の情報からレイルスの痕跡を探す途方もない日々だ。成果がでない毎日を思い出すだけでも涙が出る。ロビンが合流してから二年後にずれた一味の集合のことを聞いてはいたが「レイルスは来てくれないかも」と衝撃の一言を告げられてしまったせいで捜索の手は緩むことなく継続されていた。
 サボの昔話を聞いた涙もろい連中はボロボロと泣き出す。レイルスはルフィと街中で遭遇した際に脳裏によぎった疑問の答えを聞き静かに納得する。そんな状況では当たり前だがあの戦争の場に駆けつけることなどしたくてもできなかっただろう。しんみりとした空気に室内がずんと重くなるが、酒を一気に飲んでしまった錦えもんを空気など関係ないとばかりにゾロが怒鳴りそんな空気は霧散する。サボは朗らかに笑いルフィはいい仲間に恵まれたようだと安堵した。まるきり兄のその表情は誰に見られることもなくルフィへと向けられる。そんなサボにフランキーは続きを促した。
「そのあと……何とかエースの墓を探して、会いに行ったよ。もともとハイデとロビンからも聞いていたが、改めて不死鳥にあんたのことを聞いてから俺はあんたに感謝しっぱなしだ」
 レイルス。と呼ばれた本人は目を見開く。ロビン以外は状況が理解できないのだろう、補足するようにハイデリヒは手を挙げて口を開く。
「頂上戦争の直前に、マリンフォードの隣国にいた僕のところにレイルスさんは現れたんだ。火拳のエースの報道を聞いて乗り込むって聞かなくて、すぐ飛び出していったけど」
「なるほど、だからマリンフォードに行けたのか」
 フランキーは言葉少なに納得する。そして隻腕となった原因となる戦争の激しさをおもい顔を顰めた。不死鳥と聞いたレイルスは嫌まさか、いやそんなはずと思いながらサボを引きつった顔で見上げる。
「ありがとう、あいつの穴……その左腕で塞いでくれたと聞いた」
 頭を下げるサボにレイルスは頭を抱えた。あの鳥、クソ野郎。べらべら喋るじゃないか。ぐーと妙な音を喉から発したレイルスを全員が驚愕の顔で見つめる。
「は!?腕ってお前……赤犬に燃やされたんじゃ」
 フランキーが目を見開いて驚く。ゾロはレイルスを睨んだ。観念したようにレイルスはちらりと顔をあげ、手を顔から避け先のない腕に掌を滑らせる。
「……それで取れたから、死体弄りに使っただけ」
「だけって……」
 ロビンは驚愕の真実に口を覆う。近くにローもいたのだ。もしかしたら、その腕を拾っていれば今隻腕ではなかったかもしれないという「たれらば」が全員の脳裏に過るもレイルスはそれを見越したように首を振った。
「あの戦場で火拳のエースにも白ひげにも恩があった。返せたかはわからないけど、あのマークを燃やされてよしとする男ではなかったとは思う……からまあ後悔は微塵もないし、独りよがりな行動だから感謝されるのはちっと肩身が狭い」
 本当に嫌そうにそういうレイルスにサボは目を見開く。そして次の瞬間にははは、と笑った。エースのことをよくわかっている。あの男が父親と仰いだのだ、背中に刺青を大きく入れる程度には大切にしていたのだとサボはよくわかる。腕の刺青だってその証拠だと知るのはおそらくサボとルフィだけだ。マルコも背中のことについては楽しそうに語っており、エースを埋める前に再び白ひげのシンボルをあらためて入れたと誇らしげに教えてくれた。元白ひげのクルーは皆とても感謝しているとも。感謝の延長で、航海術のないレイルスを次の島まで運んだという魚人のクルーもおり、お陰でパンクハザードからドレスローザへ向かってきているという情報もつかむことができたのだ。
「なら俺も勝手に恩に思っておくよ、レイルス。本当にありがとう」
 ルフィに似た笑顔で笑うサボにレイルスは肩を竦める。
「ルフィはそれ知ってるの?」
「教えたらべろべろに泣かれた」
「ああ、あんときのか」
「こいつ泣いたら長いだろ、昔っからだ」
 再会と同時にその泣きっぷりを見せられていたサボは嬉しそうに笑う。麦わらの一味もパンクハザードから出港してすぐのころルフィがレイルスに巻き付いて永遠と泣き続けていたことを思い出した。納得の理由である。
「じゃあ帰る、これ一応ルフィのビブルカード作っておいた。欠片はもらっていくよ」
 ゾロに渡した紙を千切りハットを被ったサボは扉に手をかけて笑う。
「ほんじゃ、ルフィにゃ手を焼くだろうがよろしく頼むよ」
 ゾロだけが、アラバスタで出会ったエースの言葉を思い出しふっと笑った。さすが、兄弟だ。似たことをエースも言っていた。
「見送る」
 レイルスがよいしょと立ち上がりともに外に出る。そわそわとしていたハイデリヒはレイルスの気遣いに笑ってロビンに手を振った。


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投稿日:2023/1008
  更新日:2023/1008