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「本当にどうなってんの」食料がテーブルに並ぶと途端に席につき、眠ったままで食べ物を口へと詰め込むという常人離れした行動を見せていたルフィにレイルスは何度目かの呆れた声を漏らした。寝たり食べたり泣いたり怒ったり。慌ただしいルフィにゾロもどれか一つに絞れと怒鳴るが当然のようにルフィは聞かない。
「いやはや、レベッカ殿の父親がどこぞの王子だと……それと、エルリック殿が建てたという病院もなぜか藤虎が建築したことに……」
賞金首では無い錦えもんとカン十郎が街へと食糧調達へと赴き、そこで聞いた話は事実と異なるものだった。特にレベッカのことについての怒りは大きいようで、ルフィはテーブルを叩きつけて怒り出した。レイルスは興味がなさそうに「ふーん」と呟いてパンを齧るも、筋書き通りに藤虎が従ったことを少し意外に思っていた。ちなみに一人で街に行くことを許されなかったレイルスに見張り兼護衛として着いていった錦えもんとカン十郎は、初めて錬金術を目にしたためにそれはもう目玉が飛び出るほどに驚いて腰を抜かした。
レイルスは、病院を錬成する前にある提案をヴィオラにしていた。今後ドレスローザはどう足掻いても海軍の庇護下に置かれる。現段階で海軍への不信感が強くとも、これだけ被害が大きく出たのであれば海軍の援助は必須となり、ドレスローザもこれを拒む余力はない。だからこそ少しでも早く国民の不信感を減らすためにも復興にいかに海軍の手助けがあったのかわかりやすく示したほうがいい。だから突如出現した病院は海軍が建てたことにするべきだとレイルスは考えていた。
ヴィオラは納得できないという顔をしていたため、同時にレイルスが懸念として残していたトンタッタの住む島、グリーンビットに残る戦闘の爪痕について語った。要するに、海軍に花を持たせる条件としてグリーンビットの復興も行うようヴィオラを通じて取引を持ちかけていたのだ。ヴィオラがどのように藤虎に話を持っていったかは不明だが、悪いようにはなっていないだろうとレイルスは確信している。何せ海軍も信用回復のためにそれこそ必死なのだ。ここで王妃より話に上がったグリーンビットを見て見ぬふりをするなどできるはずもない。なんせ一番あの島をめちゃくちゃにしたのは藤虎にほかならない。
「私は目立ちたい訳でも偽善活動した訳でもないし、ちょうどいいかな」
ルフィはレイルスを見て「ならいいけどよ」とむっつりしながら肉を飲み込む。ヒーロー扱いされたくないという心境であればルフィもよくよく理解できたからだ。それにルフィは個人的に名前が挙げられた藤虎のことが別に嫌いではなかった。あの男であれば降って沸いた身に覚えのない手柄を喜ばないという確信もある。
しかしレベッカの件については衝撃の言葉がキュロスから告げられる。
「その噂は私が流したのだ」
レベッカの出生を知るものは少ない。だからこそ、平民、いや犯罪者である自分の血が流れていることがいつの日かレベッカの幸せを妨げることになるのだとキュロスはいう。レイルスはあからさまに顔を顰めた。
「本来王族と結ばれるべきではなかったのだ、だからこれでいいんだ」
「良いわけねぇよ!レベッカはそれ知ってんのかよ」
「手紙が渡っているはずだ、私の人生の全てを正直に綴った。レベッカには長い間苦しい思いをさせてしまった……私のような人間とは縁を切って、明るい場所で楽しく暮らしてほしい。それが父である私のできる唯一の償い」
本心だと、本気の覚悟がその形相に見える。誰もが口を挟むこともできずキュロスの決意を聞く。
「レベッカはまだ子供だ、一時の感情で将来の幸せを逃してほしくない……リク王様にもご理解いただいた」
「勝手だね」
意外な人物が言葉を発したことに、怒りで顔を歪めていたルフィがポカンと口を開く。レイルスは周囲の視線を気にすることなくテーブルに肘をついて、手の甲に顎をのせて刺すような視線でキュロスを見上げた。
「子供の幸せ?償い?綺麗事並べてるけどあんたが後ろ指刺されるのが嫌だってだけに聞こえる」
「……わかった口を!」
「もう子供って年齢でもないのに親の都合を押し付けるなよ、父親であることを否定された子供が幸せだって?分かりたくもないわそんなもん」
たかが前科者というだけで何を弱気になっているのだとレイルスは思ってしまう。何よりその過去を精算したからこそ国に仕え、リク王が娘を託すまでの信頼を勝ち得ていてどうして今更そんな発想になるのだろう。レベッカがそう望んでいるのであればレイルスもここまで噛み付かなかっただろうが、子供の思いを知ろうともせずに勝手に全てを決める男の言葉には我慢がならなかった。
レイルスの父親は、子供も妻も置いていなくなった。夫婦の願いがあったからこそだということをレイルスは知っていた、けれど母が死んだことを知ってからも結局父は帰ってこなかった。あの時の絶望を、悲しみをレイルスは未だ鮮明に覚えている。少しくらい子供の気持ちも汲んでほしいと思うのは我儘だったのだろうかとあの頃はよく思っていた。弟を置去りに一人旅をしていたレイルスは、人のことは言えないかと嘲笑する。結局似たもの親子なのだ、エルリック家は。父は子供3人に、レイルスは弟2人に、弟たちは幼馴染である少女に同じ仕打ちをしている。
「ごめん頭冷やしてくるわ」
冷静になったレイルスは席を立つも、ちょうどその時バルトロメオが家の扉を開く。同時にキュロスの持つ電伝虫が鳴った。
「ゾロ先輩!おおルフィ先輩お目覚めになられたんで……ハァ!」
引き攣ったような声をあげてバルトロメオはガチリと固まる。麦わらの一味がこんなにも勢揃いしている。その事実に気が付いて呼吸がおかしくなったのだ。
バルトロメオにとってレイルスは、どのような立ち位置の人間であるかを知らないために長年頭を悩ませてきた存在だった。どれだけ新聞を調べてもシャボンディ諸島で再集結した中にレイルスの名前はなく、けれど頂上戦争で確かに尊敬してやまないルフィを助けたという実績を残している。仲間なのかそうではないのか。思い切ってロビンに問いかけたところあっさりと「もうずっと勧誘してるの」という答えを聞いてからレイルスに対しても鬱陶しいほどにキラキラとした目を向けていた。その情報はバルトクラブに持ち帰られ、クルー達は新事実に狂喜乱舞していたのは余談である。
「おお!?6人も麦わらの一味が揃うと眩しすぎて見えねぇべ!」
両手で目を覆いブリッヂでのけぞったバルトロメオはそのまま頭を床に叩きつけてクネクネと体を揺らした。なんだこいつとレイルスは冷ややかな目を向ける。毎日欠かさずルフィの見舞いに来ていたバルトロメオだが、タイミングが合わなかったためにレイルスに会うのは初めてだったりする。第一印象が底辺に近いことを残念なことにバルトロメオは察せない。
「さっさと要件を言えよ!」
「そ、そうだった……海軍のテントが騒がしくなってきた!ボチボチここも危ねぇべ!大参謀お鶴中将と前元帥センゴクが到着したべ!」
「お鶴にセンゴク!?」
「そんな大者まで何しにきやがった!帰れ!」
ウソップが目を三角にして吠える。ドフラミンゴの移送のためではなかろうかとレイルスは顎に手を当てて考え込む。バックに四皇カイドウがいるのだ。万が一にもインペルダウンへ運ぶ途中に移送艦が襲われでもしたら一溜りもない。だからこそ出来うる限りの戦力で対応すると見た方がいいだろう。お鶴に関しては七武海入り前のドフラミンゴとよく対峙していたという噂も有名だった。センゴクについては不明だが。
「レオ、そっちの要件はなんだ」
『その海軍が動き出しました!』
トンタッタから、藤虎がなぜか一向に攻め入る気配がないと聞いていたため全員疑念は抱いていたがここにきてやっと重い腰を上げたらしい。一時的ではあるが、ゾロ達と共に鳥カゴを押し返そうと共闘もしたとも聞いていたため、土下座の件も含めて随分と不器用な生き方だとレイルスは感じていた。大損をするタイプだと思ったのは記憶に新しい。
「……」
「おい、ゾウまで大人しくついてこないならお前の心臓握りつぶすぞ」
「ここにきて脅すのか!?」
悩む素振りをみせたレイルスにすかさずローが釘をさす。とんでもない脅し文句にウソップが胸を押さえてぎょっとする。ジトっとした目をローへと向けたレイルスはしょうがないなと言わんばかりの態度で頷いた。ものすごく嫌々だったためそれをみたルフィとローはそろってイラっとした顔をした。
サニー号が既に出港しているため、ドレスローザに残された面々はバルトロメオの船に世話になることが決まる。レイルスとキュロスのやりとりはその慌ただしさの中に紛れて流れてしまった。
投稿日:2023/1124
更新日:2023/1124