あなたは切札
盲目である藤虎にすべての攻撃を大声で宣言しながら行うルフィは傍から見ていても異様で、宣言と異なる攻撃をすれば謝罪すらしてみせるルフィに藤虎の方が我漫が効かなくなった。その間も能力で浮かべた瓦礫は空に留まったまま。銃口を突きつけながらも藤虎はルフィの真意を知ろうとする。
「さっきから一体なんのマネですかい、蹴るぞ殴るぞと……同情ですか。あっしは海軍本部大将、みな怪物だといいますよ。今更憐れみなんざかけられたんじゃ溜まらねぇ……目の見えねぇ奴が戦場にいちゃ迷惑ですかね!あっしを怒らせてぇんなら成功だ、あっという間に首が飛びやすよ」
怒りのあまり藤虎の声が震えている。低く地鳴りのようなその声は藤虎の刀捌きをより険しく激しくしていくようだった。しかしそんなことなど気にも留めないのがルフィだった。
「うるせぇ!俺は目の見えねぇ奴を無言でぶっ飛ばすなんて出来ねぇ!!俺、おっさん嫌いじゃねぇからな」
場違いな言葉に藤虎が数秒ののちに噴き出して笑う。あちゃあとウソップは頭を抱えた。麦わらの一味からすればルフィらしい言い分ではあるがもちろん藤虎には通じない。立場ありきでこの場にいる藤虎だ、それを一蹴するルフィの言葉に怒りを覚えないわけがない。重たい一撃がついにルフィに襲い掛かる。まるで空間を一瞬で捻じ曲げて破裂させたような痛烈な一撃、ドレスローザの外壁を粉々に砕いた威力にバルトロメオとウソップは「きゃー!」と悲鳴を上げた。
ロビンがそっとレイルスの傍により声をかける。
「なんの能力だと思う?」
ちら、とロビンに視線をむけたレイルスは世を恨むようなひどい顔で口を開いた。
「一定範囲の重力浮力引力のいずれかの操作じゃない?」
「あら投げやり」
「にもなるわ、なにあれ無茶苦茶」
そう言いながらも麦わらの一味の能力に関しては許容して見せたレイルスである、喉元過ぎれば熱さを忘れるタイプであるため藤虎の能力の規模に驚いてしまって現実逃避に走っているだけあるため、慣れれば藤虎の能力についても飲み込んでしまうだろう。
空中へと飛ばされたルフィを巨人であるハイルディンがキャッチする。そのままであれば海へと飛ばされていたであろうルフィだが、拘束されたことに気が付いて「離せ!」と目を三角にして怒り始める。恩を仇で返すとまでは行かないが理不尽極まりない。ギャンギャン吠えるルフィをキャベンディッシュがそのまま連れて行くように指示を出した。
「ようしルフィ、交代だ」
「ちがうちがう!だからやめてくんろゾロ先輩!こっちにゃこっちの都合があんだ!」
極悪な笑みを浮かべて刀に手をかけるゾロをバルトロメオが制止する。戦いが長引けば長引くほど不利を被るのは海賊側であることを逃げる立場であることを、剣闘士たちはよく理解していた。促されるままにレイルスも港へと足を向ける。振り返った先で追いかけてはこない藤虎を見て、上空へと目を向けたレイルスは最悪海を凍らせてドームにでもすればどうにかなるだろうかと考えたが、弾丸のように凄まじい威力で破壊されて終わりだろうなと力なく笑う。どうしたもんかと考えながら、レイルスは凄まじい数の船がきれいに整列して橋を造っている光景をスルーする。喜んで感動しているウソップの横で見事なまでに無感動なレイルスに気が付いたバルトロメオは「クールだんなぁ!痺れるべ!」と密かに涙した。
50隻もの船で連結橋をつくり5キロ先にて麦わらの一味を運ぶ船を停泊させているという荒業と言ってもいい作戦。悪くはない発想だったが、藤虎を前にしたときにはそれも意味をなさない。瓦礫の山で船ごと海の藻屑となるだろうことは誰もが理解していたが今はこうするほか道がない。
そして恐れていた事態が轟音を纏って迫ってきた。瓦礫の球体がドレスローザ上空から、走る海賊たちを追って海へとその影を落とし始めたのだ。橋はいい、船さえ残るようにどうにかするしかないとレイルスは上を見上げて足を止めようとする。しかしそれを許さなかったのがキャベンディッシュだった。監視されていたのだろうとレイルスが思うほど即座に声を掛けられ、気が付いた時には身体を持ち上げられて白馬に横向きに座らされていた。
「止まるな!君たちには何としても先に行ってもらわねばならない!」
がっしりとレイルスの腰を掴んで自分の前に座らせたキャベンディッシュは前だけ見据えて馬を走らせる。ぎょっとしたレイルスはしかし、落下を止めた瓦礫に気が付いて口を閉ざした。
「落ちてこない」
「あ!?本当だなんでだ!」
レイルスのぼやきに気が付いたウソップが上を見上げる。すでに射程距離だろう瓦礫は海賊たちの上空で未だに漂っている。
「……ドレスローザの国民だ!」
誰かがそう声をあげ、背後からさらに追ってきている民衆に気が付く。怪我をして動けない人を除いたすべてだろうと思わせるほどの人の群れが、ロープでつながれただけの不安定な橋に躊躇いなく足を乗せて藤虎の攻撃を防いでいた。何かを訴えているのだろうか、喧噪のように声まで聞こえてくるが混ざった声は歓声にしか聞こえない。キャベンディッシュ越しにドレスローザの島へと目を向けたレイルスは、ボロボロになりながらも情をもって送り出してくれたのであろう国民の人となりに思わず笑う。
なるほど愛と情熱の国。その真髄に触れたような気がした一行はその顔に笑みを浮かべながら瓦礫の下を直走ったのだった。
投稿日:2024/0309
更新日:2024/0309