慈悲の印
バルトロメオの船は遠目に見ても異様だった。ウソップ曰く「ウチの船じゃないのにルフィが乗っていそう」というゴーイングルフィ先輩号。名前からして異色を放っている。船首にはルフィ、船尾にはチョッパー、船中央には目つきの悪いメリー。顔の主張が激しすぎる。喜ぶルフィと感涙するフランキーを横目に「あれ乗るの?」と嫌がるレイルスの背中を押したロビンは逃がさないぞと言わんばかりの圧をもってレイルスの背後を陣取った。ヨンタマリア号での宴会中、レイルスにべったりとくっついて離れなくなったベビー5はぶんぶんと手を振って別れを惜しんだ。あまりにもベビー5が離れなかったので、最初は怖がっていたトンタッタ族も次第に近寄っていき、最後にはウィットンとベビー5で喧嘩に発展していたほどである。あの2人の押しの強さと無垢さはよくない、レイルスが流されるとロビンは正しく理解した。
大層別れを惜しまれて、麦わら大船団と別れた一行はバルトクラブのクルーに仰々しく扱われながらもゾウへの航路を進んでいた。
「おいルフィ、どうやら俺たち懸賞金上がってるぞ」
「あ!?いくらだ!」
「おい俺は」
新聞を開いていたゾロの声にルフィとローが食いつく。それはそうだ、レイルスを仲間にするためにはその賞金額を相手より先に越えなければならない。詰め寄られたゾロがうっとうしそうに顔を顰めたが、それどころではない両船長は新聞を横取りしようと躍起になる。頬を染めて満面の笑みを浮かべたバルトロメオがやや不思議そうにしながらも口をはさむ。
「おらの部屋に手配書あるんで、どんぞどんぞ……おいトラファルガーお前のは捨てたが5億に上がってた」
「5億だと、間違いないのか」
「は!?超えてんじゃねぇか!」
「レイルス〜、おまえはもうちょい気にしろ〜」
「あら王手ね」
ロー満足そうにあくどい顔で笑い、ルフィがバルトクラブのクルーに促されるままに船長室へと駆けていく。一連の流れをぼんやりと眺めていたレイルスはウソップとロビンの言葉に「ああ」と頷いた。おろおろとするバルトロメオにフランキーが爆弾を落とす。
「先にレイルスの懸賞金の額を超えた方がレイルスを仲間にできるって約束してんだよ」
「んな!!んだばもしトラファルガーが万が一……億が一ルフィ先輩よりも先にエルリック先輩の額を超えるようなことがありゃ……」
「レイルスはハートの海賊団になっちゃうわね」
「解釈違いだっぺ!!」
顔を真っ青にして叫んだバルトロメオの言い様にロビンがぶふ、と噴き出す。ドレスローザでのレイルスの活躍はもちろんであるが、ヨンタマリア号でのベビー5とのやり取りを一部始終目撃していたクルーから聞かされていたバルトロメオは痛くその行いに感動し涙を流したばかりだった。流石ルフィ先輩が誘い続けるお仲間、もうすっかりバルトロメオの中ではレイルスは麦わらの一味であった。そんな心境に水を差したローをぎゃんと睨み上げたバルトロメオは己の部屋から聞こえてきた「俺も5億かよ!!どうすんだこの場合は!」というルフィの声に頷き、そして海軍を呪おうと決意した。ルフィの声にローは「あ?」と機嫌を一気に降下させて勝手に船長室へと踏み入っていく。
「他の皆さんの懸賞金も上がってますんで、よければどんぞ」
「おっし、俺らも行くか」
これからに関わることだというのに妙に感心のうすいレイルスの腕を引いたフランキーを先頭に、全員が船長室へと足を運ぶ。金で装飾された額縁に皺ひとつなくきれいに収められた手配書にレイルスは「マニアが過ぎる」と慄く。ちゃっかりとレイルスの手配書まで額に入れられていた。
「頂いたサインもこちらに!」
「あらレイルスったらサイン色紙使ったの?」
「ロビンのはニワトリ?なんで?」
「トサカ君だから」
バルトロメオに目をむけてそういうロビンに、ああと納得してしまったレイルスはサインらしいサインがウソップとフランキーしかないなと己を棚にあげて白い眼をした。乗船し暫くは船内の案内、という名の麦わらの一味をリスペクトしたオマージュ部分の説明を受けたあと、恐る恐るサイン色紙を差し出されたレイルスは容赦なくそれに錬成陣を書き込んで船に叩きつけていたのだ。至る場所に張り付けられたガムに耐えられなかったためである。炭のように黒くなりポロポロと剝がれていったガムに気が付いたロビンは無表情でレイルスへと拍手を送っていたため、あの時のものだろうと思い出し笑ってしまう。ロビンもガムだらけの船内に少し嫌気がさしていたタイミングだったため心からの拍手だった。
写真と額が更新され、それぞれが悔しさや嬉しさに声を上げる。5億で落ち込んでいたルフィがハッとして顔を上げてレイルスの手配書に張り付いた。
「レイルスは!?上がってんのか!?」
「5億……!?」
レイルスはそれなりに目に付く行動をとっていたにも関わらず大幅なアップではない。しかしルフィとローによって5000万の更新は致命的なものだった。
「同じかよ!!おしい!」
「なんっでお前も上がってんだ!」
「怒鳴んないでよ理不尽だな」
ルフィに肩を掴まれてガタガタと前後に揺さぶられたレイルスは疲れた顔をしている。ゾロより先に新聞を見ていたレイルスのため、この結果のことを知っていたのだ。ローが凄まじい目つきでレイルスを睨んでいるがレイルスは「しょうがないでしょ」と肩を竦めた。
しかし写真まで変えられていたのは知らなかった、と自身の手配書へと目を向ける。乱れる髪をかき上げて、目下を見下ろす金色の瞳。正面から不敵な笑みを浮かべるレイルスはその額にふさわしい堂々とした空気を放っている。着飾った黒いドレスが傷つき破れていることすらレイルスの放つ異色を際立たせており最初に手配書を目にしたバルトロメオは聖書の挿絵かと錯覚を起こしたほどだ。写真の構造から、キャッツの前に躍り出た時だろうと検討をつけたレイルスはあの場面で写真を取ることを優先した海軍に絶句してしまう。もっとやることあっただろう。
今回の件で際立った行動をしていない限りは全員一律5000万ベリーのアップとなっている。ドレスローザから先に出航した面々もサンジ以外はそうだが、国民からも海軍からもレイルスの存在は多く認識されていた。それだけ多くの人の命にかかわっていたというのに、なぜかレイルスの懸賞金は5000万ベリーのアップのみ。バルトロメオがサンジとレイルスの手配書の不審点について指摘するもルフィにとっては関係がなかったようでんー、と口を尖らせて唸っている。特にサンジは生け捕りのみの記載まである。異例の手配書だが、船長はレイルスの手配書を見るばかりだ。
「レイルスもドカッとあがりそうだなぁ。お前大人しくできねぇし」
「レイルスもルフィには言われたかねぇだろうよ」
「ほんっとうにそう」
まるでどうしようもない子供を相手にするようにレイルスの肩をポンポンと叩くルフィにイラっとしたレイルスはウソップの声に同意してルフィの手を叩き落とした。
投稿日:2024/0907
更新日:2024/0907