十字の手旗
ブルックから情報を得たフランキーとロビン、そしてモリアの能力を直接目にし、ルフィの影が500年前に生きていた伝説の巨人、オーズに入れられたところを目撃したウソップとチョッパーは急ぎサニー号へと戻ってきた。影を取られてしまい、船へと戻されたルフィとゾロ、サンジを起こすためである。影を取られた衝撃で2日は目覚めないと言われていたが、ウソップの一声で三人は目を覚ます。「美女の剣豪が肉持ってやってきたぞ!」
「美女……」
「肉………」
「剣豪……」
「だめだこいつら!」
奪われたのは影だけではなく、船の中は荒らされて食料も保存食を除き全て持っていかれていた。
「ところで……ナミさんとイムちゃんがいねぇようだが……」
「すまねぇ、ナミは途中で連れてかれちまって……」
「んなぁに〜!」
ナミは透明人間に花嫁にすると執拗に迫られ連れ去られたことを告げたウソップは、鬼の形相のサンジに責められる。喉が閉まりながらもウソップは「イムはお前たちと一緒じゃなかったのかよ!」と慌てたように声を絞り出す。てっきりルフィたちと一緒であれば船に戻されてると思っていたのに、あの怪我人はどこにも見当たらない。サンジはその言葉にハッとしてウソップをガタガタと揺さぶっていた腕を離す。そうだ、確かに自分が最後に彼女を抱えていた、そして気を失う瞬間最高に幸せな気持ちを味わっていたようなそんな気が……なんて思い出しているうちにたらりと鼻血が鼻から溢れ、目の間にいたウソップに大層気持ち悪がられた。
「だとしたら俺の話を聞いてくれ、イムについても検討がついてる!」
そういったウソップは、ルフィの影が奪われる場でのホグバックの言動を思い出す。イムに対してあの男だけが言及をしていたのだ。それもとても不穏な予測ができてしまう言及を。
「イムは……ここにいねぇってことはやっぱり影は取られてねぇんだ!」
「やっぱり?どういうことだ」
「ゾンビの『体』を用意してるホグバックが、イムの名前をルフィから聞いて新しい助手の名前はイムだって言って喜んでたんだ」
ホグバックにはシンドリーという助手がいる。屋敷にあったシンドリーの写真が大量にあった部屋で見つけた記事から既に彼女自身も亡くなっていることが判明している。その死体に影を入れられたゾンビであることは想像に容易い。ゾンビを作るには影と、死体がいる。ごくりと喉を鳴らして、最悪の予想を震える声で告げた。
「あいつら……イムを殺してその体に影を入れるつもりだ!!」
ウソップの言葉に全員が空気を険しくした。だが影を取られてサニー号に戻されていないという時点で、ウソップのいう道しか残っていないということは全員が理解できてしまった。大きく舌打ちをこぼしたゾロは手配書もなく戦えそうもない傷だらけの、それも足枷をつけた女がなぜその使い道とされたのか、いやでも理解してしまう。影を取られた被害者たちも言っていた、奴隷という言葉。奴らもレイルスを戦えもしない奴隷だと勘違いをした。レイルスと別れるその時まで腕で抱えていたサンジは静かにタバコを肺へと吸い込む。
「……穏やかじゃねぇな」
てっきりナミの時と同じく大声を出し怒るものだと思っていたウソップはそろりとサンジを見上げる。前髪に隠れて顔は見えなかったが、タバコを摘む指先は力が込められすぎたせいで白んでいる。そのことに気が付いたウソップはグッと息を飲み込んだ。ロビンを助けてくれた、ルフィがチョッパーの時並みに執拗に勧誘をかけている怪我人。ウソップにとってレイルスは、顔色悪くベッドに座り込む怪我人という印象しかない。しかしその姿が故郷にいる幼馴染にどこか重なるところがあって、いや全然似てないぞと思うたびに勝手に気まずくなっている相手だった。それでも海を見た時のあの目の輝き方や、一度向けられたブルックを庇うような言動と鋭い眼光に、いい奴なんだろうことは知っていた。太陽の下で照らされたレイルスの髪も目も、恐ろしいほどしっくりきていたというのに。こんな薄暗い場所、全く似合わないとウソップはそう思いながら決意を新たに武器を握りしめた。
フランキーが聞いたブルックの話はレイルスの話を聞いて暗く落ち込んでいた一味の雰囲気を明るくさせた。ブルックがルフィたちイーストブルーからきたメンバーが出会った、ラブーンの待っていた海賊だと知って反撃の気持ちを奮わせた一行は、はやる気持ちのまま各々で役割を確認している。稀に確信をつくルフィの「モリアぶっ飛ばせば影戻ってくんだから、別にお前たちの影入ったゾンビ探さなくていいだろ」のセリフのためにナミ、ブルック、そしてレイルス奪還へと向かうこととなる。
「ナミさんも急ぐが命の危険とあっちゃイムちゃん優先だ……!!俺はイムちゃん探しとナミさん奪還へ向かう!」
「俺も目の前でナミを連れて行かれた責任がある!サンジについて行くぜ!!」
ナミを連れ去った透明人間がナミの風呂まで覗いていたと聞いたサンジは全身を怒りの炎に焼かれながら声高に宣告する。あまりの様子にゾロがそれ以上刺激してやるなと周りを諌めるほどの興奮具合であった。
フランキーとゾロはブルックの元へ、ルフィとチョッパーはルフィについていき影奪還のアシストのため足を進める。行き先が途中まで同じであったサンジ班とルフィ班だったが突如現れたゴースト――触れるとネガティブにされてしまう恐ろしい力を持つ――が目の前に現れたことで先頭を突っ走っていた2人が崩れ落ちた。
「生まれ変われるなら、ボウフラになりたい……!」
「俺なんか……眉毛巻かれすぎてアホになっちまえばいい……イムちゃんを守れねぇクソ役立たずが……」
突然おかしなことを口走り始めたルフィとサンジに、ゴーストの力を初めてみたウソップとチョッパーは驚く。ロビンはサンジの言葉にやはり気にしていたのかと彼の痩せ我慢に近い奮闘を覗いてしまっていたたまれない気持ちにさせられてしまった。チョッパーはルフィがボウフラを知っているなんてと場違いにもひっそりと感心した。しかしそんなことを呑気に思っている場合ではない。解決策のないゴーストに対して逃げるしか選択肢をなくしてしまう。
打開策を考える暇もなく、突然の衝撃が彼らを襲う。建物が崩れたせいで追手ごと落下することとなったのだ。サンジとウソップは階下へと落下しフランキーとゾロと合流。そこで道を塞ぐ巨大な壁……壁に見えるほどに巨大なルフィの影入りゾンビと遭遇したのだった。
投稿日:2022/0112
更新日:2022/0112