揺るぎない支配者
ウソップが国の門、物見やぐらの上から見たという町は見事なまでに破壊しつくされていた。明らかに人為的な倒壊の仕方、張り付け台と思わしき血にまみれた拷問具。信じられないほどに大きな足跡と思わしきクレーター。獣と思わしき爪で切り裂かれた痕、仲間割れか獣の類がこの国を襲ったのか。憶測が飛び交う中ロビンが倒壊を免れていた建物の中から現れて口を開いた。その手にはレイルスが渡したばかりの金色のルーペ。食器や建物の傷跡の劣化具合から計算して見せたのだ。「確かなことは……この国はほんの1、2週間前に突如滅びたんだわ」
「じゃ、じゃあサンジ達はそれに巻き込まれたっていうのか!?」
その可能性は高い。無表情で話を聞いていたレイルスだが、突然地響きのように足元がぐらついてふらついたところをローに支えられた。地震ではない、象がなにかしら動いているのだと判断したレイルスの思考を裏付けするように遠目に山のようなものが出現する。
「な……」
なにあれ、そうレイルスが言葉を口にする前に信じられない総量の水が上空を覆った。
「水の塊!?」
「洪水になる量よ、高い場所へ!」
ぐい、と身体を引かれるままにレイルスはローの脇に抱えられる。後方に顔をむける形となるため、迫りくる凄まじい量の水がレイルスの視界を奪う。パッとレイルスの脳裏にヒットした情報がレイルスの表情を明るくさせた。
「水浴びかぁ!あれ鼻だ!でっか!」
「それどころじゃねぇだろいい加減にしろよお前ぇ!」
レイルスの頭に容赦なくチョップをお見舞いしたウソップは、必死に走るこちらの身になれとレイルスを怒鳴った。ローもイラっとしたのだろう。グッとレイルスを抱える腕を絞めた。
「『シャンブルズ』!」
水に攫われる前にローが全員を建物の上へと移動させる。とても水がぶつかったとは思えないほどの衝撃を建物に与えて流れていく洪水にウソップは腰を抜かして座り込んだ。ローから解放されたレイルスは呑気に町の様子を見下ろして感心した声を上げる。
「なるほど道だと思ってたけど水路も兼ねてるのか」
「町も森も、この水位に順応しているみたい。妙に高い位置に咲いていた花も説明が付くわ……そういえば海水に強い種しか見なかったわね」
「つまりこれが日常なのか」
「通常サイズの成体の象で一度に約10リットルの水を吸い上げられる、このサイズの象だとどれくらいだろう……ああでも普通の象との比較じゃダメか」
「……なんでだ?」
ゾロがつい、気になってレイルスの独り言に突っ込んでしまう。
「脚おかしかったでしょこの象」
「……ん?そうか?」
「後ろ脚を上ってきたけど、これだけの高さがあったのに関節の一つもなかった。海中に沈んでるにしても、普通の象の脚の長さよりずっと長いよ。まあ関節がないのかもしれないけど海歩くならそれなりの長さあるでしょ。単に大きいだけの象じゃないのは確か」
「お前俺に抱えられといて随分余裕だったんだな」
「命綱感謝します」
へらっと笑いながら敬礼して見せたレイルスにゾロがぴきりと額の血管を浮かせる。どこにそんな余裕があったというのだろうと思うも、そんな状況下でも目を凝らし頭を回すレイルスの根性に呆れ怒りが霧散してしまう。
「じゃあこういうこと?」
ロビンが海水に指先を浸して、足場にしている建物の屋根に象の絵を描く。かろうじて象だと判断できたのは鼻らしき長いものがくるっと曲がっていたからだ。鼻と同じようなものがあと2つほどあるが。下に4本長く伸びているのが足なのだろう。レイルスは一瞬固まってから頷いた。
「タブン」
「相変わらず味のある絵だな」
「滲んでホラーだろこれ、バケモンかよ」
「海水触ってまで描くなよほらぁ!ぐったりしてんじゃねぇか!」
フランキー、ゾロ、ウソップが口々にロビンの絵を見て各々反応を見せる中、ローは興味深そうにその絵を眺めた。そしてレイルスの推察がおそらく正しいだろうことを理解する。深度の浅い海にのみゾウが出現するとすれば、この島は幻などにはなっていないはずだ。ウソップに甲斐甲斐しく指先を拭かれ復活したロビンはとてもいい笑顔でゾロの耳たぶを引っ張った、レディの絵を化け物扱いした罰である。じゃれつく彼らを横目にウソップがさらに高い場所まで登っていきあたりを見渡した。
「こんなびっくり豪雨日常でたまるかよ、はやくみんなを見つけて退散すべきだこんな島……おいルフィがいるぞ!町の奥に!さっきのナミ似の女もジャンプウサギも一緒だ!」
無事ルフィは回収されたらしい。クジラの森とやらで始まっていた戦闘がルフィによるものだったことが判明してしまった。ルフィと合流するかベポ達の元へ向かうか、ローに視線を向けたレイルスの耳にウソップの引きつった悲鳴が届いた。
「ああ〜!!ルフィが少し喰われたぁ!!」
「えぇ!じゃあやっぱりあいつら……」
「食人族……」
ロビンの言葉に否定を続けていたゾロとローまで真剣な顔で黙り込んでしまったためマジかこいつらとレイルスは半目になった。もしミンク族が人肉を食べる種族だとしたらもっとその事実は知れ渡っているだろうし、ヒューマンショップでも買われることはないだろう。レイルスは二年前、シャボンディ諸島でケイミーが売られかけた時それぞれの種族の相場をトビウオライダーズがリストで所持していたのをしっかりと見ていた上に記憶していた。
「相場70万ベリーにならんよそれなら」
「それもそうか」
まれに攫われては売られかけるベポがいたためにレイルスの言葉を理解したローが冷静になったのか同意を示す。
「食べられて暴れてないなら大丈夫なんじゃない?」
見える位置にいて戦闘音が聞こえてこないことを指摘したレイルスに麦わらの一味もああ、と納得する。ルフィが暴れれば間違いなくその音が聞こえるだろう。だがこのままルフィを放置するのもいささか不安が大きいという結論に至り、結局そろってルフィ元へと向かうことになったのだった。
投稿日:2025/0830
更新日:2025/0830