揺るぎない支配者

 ローの能力にて再び跳んだ先で、ルフィが元気いっぱいにこちらに手を振っているのを目にしたレイルスはほら食べられてない、と五体満足であるルフィをみてウソップをつついた。しかしそれでも警戒は解けなかったのだろう、ウソップはゾロを盾にしてまるでゾロが話しているかのようにその腕を取って好き勝手し始める。
「やいそこのナミ似の女!そいつはうちの船長だ!取って食おうってんだな、そうはいかねぇぞ肉食女!先に来た仲間ともどもすぐ返さねぇとこの三刀流が火を噴くぞ……鬼ぎりゃぁ」
「んぶ」
 ウソップの気の抜ける技名にレイルスは耐えきれず顔をそむけた。ぐるっと振り返ったゾロはそれまでの困惑などかなぐり捨てて凄まじい殺気をレイルスへと向ける。レイルスはそっとフランキーの影に隠れた。
「あきれたな、何か勘違いをしているようだ」
「なにぃ?」
「もうやめろお前も」
 がし、とウソップの首を絞め落とそうという意志を持ったゾロの腕がやっと寸劇を終わらせる。振り返った先で2つ、こちらに敵意を向けているであろう気配が目に映ったというのもありゾロは身体を翻した。ぐんと首を引っ張られたウソップは「しまってるしまってる」とギブアップを示し解放される。
「丁度いい、目的地だ……あれが砦の門と門番」
「ワンダ!そガラらはクジラの森の侵入者か!?」
「悪意はなかった、手違いで歓迎の鐘が鳴らず1人がクジラの森へ迷い込んだ!皆に知らせてくれ!麦わらの一味が来たと!!」
 ワンダと呼ばれた犬のミンクの言葉に門番二人が驚愕の声を上げて慌てて門の中へと走っていく。門が開いたと思ったら、これまで全く気配のなかったその先から、大量のミンクの歓迎の声が轟いた。これにはレイルスも口を開けて驚いてしまう。敵意はないと思っていたがまさかここまで好意的だとは。足を進めようとしたレイルスをローが止める。腕を掴まれたレイルスは足を止めて振り返った。
「一応、ベポのことがあるからな」
「ベポ?」
「お前近寄りたくなかったって言われてたろ」
「あー……」
 そういえば、とレイルスは苦い顔をする。ローの見解では気配に敏感であるミンク族ならばベポと同じような印象を与える。実際キャロットと呼ばれたウサギのミンクもわざわざ背後に位置していたレイルスへと真直ぐに攻撃を仕掛けてきたのだから可能性としては高いと判断していた。もっとも、時間経過とともにその妙な気配はましになって来ているのだが、とローは横目でレイルスを見下ろした。
 レイルスはローに言われた言葉を理解した途端、そう言われれば心なしか己だけ周囲から向けられる視線が懐疑的なような気がする、とローの背後に身を隠した。そうこうしている間に砦の奥がざわつき、その中心からきらびやかに着飾ったナミが走ってくるのが目に映る。その足元にはチョッパーもおり、両者ともここにたどり着く前に多くのミンク族に「ガルチュー!」と絡まれていた。挨拶のようなものだろうか、好意が駄々洩れなためウソップも「めちゃくちゃ懐かれてる!」と目玉を落としそうなほどに驚いた。聞いていた話と全く違う。
「お前等人間嫌いの種族なんじゃないのか?」
「私たちからみればゆティアらは毛の少ない猿のミンク。同じミンク族の一種だ。そのものを嫌うなら種族ではなく個々を判断する」
 いいことをいうなぁとレイルスはワンダの言葉に感心した。だれもがこう考える柔軟さを持っていれば戦争は起こらないだろう。大抵の人間は嫌悪や憎悪で目が眩むと主語が大きくなりがちだ。
「みんなぁー!よかったレイルスもちゃんといる!」
「レイルス〜!!おいでいっでごめんよぉ〜!」
 名を呼ばれたレイルスがやや不服そうにして、走ってくる2人にローの背後から手を振る。なぜ名指し。チョッパーなど目があったとたんドロドロに泣き始めた。ドフラミンゴに立ち向かっていくレイルスを見たのが最後なため人一倍心配をかけているゆえであったが本人にその自覚はない。レイルスの態度を見ていたフランキーはドレスローザで船を降りようとしていた癖によくもまぁと肩を竦めた。
「おうお前等!よかった会えて!」
「サンジもブルックもモモも無事かぁ!」
 ルフィのその言葉に、ナミの表情が曇る。走ってきた勢いのままルフィへと抱き着いたナミは震える声で謝った。持ち上がった顔は涙が浮かんでいる。
「サンジ君が……」
 只ならぬ気配に何かあったのだと、ルフィも顔を顰めてナミを見る。ここで話すものではないとすぐに涙をぬぐったナミは、笑顔を浮かべて砦の奥へと仲間を連れたった。

 ローと共にクジラの森へと行くこととなったレイルスはやや疲れて肩を落としている。ローと共に心臓を回収しに行くというレイルスにナミとチョッパーが盛大にごねたのだ。レイルスからすればミンク族に警戒を与えたくはないという思いと、いい加減心臓を取り返さねばまた脅されるという危機感からの判断だったのだがそれでも二人は頑固だった。
「せっかく、せっかく会えたばっかりなのに!?サンジ君のことだってあるのに!?」
「やだー!ローの仲間に取られるかもしれないだろ!?やだー!!」
「残念まだ同額なんだなこれが」
「関係ない!……ちなみにいくら?」
「5億」
「んご……!!かかかかんけいねー!」
 がったがたに震えていたがチョッパーはしがみついてレイルスの首にしがみついた。全くもって説得させられないレイルスにしびれを切らしたローが「後で合流する」と約束してやっとレイルスは解放された。なぜローの言葉の方に納得するのか。レイルスが戻ると明言しなかったからであるがレイルスはなんだか釈然としない顔をした。
 ビブルカードを辿って森を進んだ先、茂みの中からひょっこりと顔を出したツナギの集団にローがニヤッと顔をほころばせる。ローにとっても数か月ぶりの己の部下。もう会えないとすら思っていたのだから再会は素直に喜ばしいことだった。
「キャプテン!」
「きゃぷてーん!!ほんとすげぇドフラミンゴに勝つなんて!」
「あ!?レイルス!?お前今までどこに居やがった家出娘!!」
「さっすがキャプテンレイルスまで見つけてくるなんて!」
「ハートの海賊団全員そろった〜!」
「やっと心臓観察から解放される!」
「ちょっと待てなに心臓観察って」
 不気味な言葉にレイルスが嫌そうな顔をする。がっしりとしがみついてレイルスとローのことを抱き上げたベポがすりすりと、覚えたてのガルチューにて再会を喜ぶ。レイルスの疑問にイッカクがペンギンを指さして事情を説明する。
「キャプテンからあんたの心臓託されてたペンギンがあんたの生死を毎日確認してたんだよ、ついでに話しかけてたのを私は見た」
「俺も見た、霧吹きで水やってた」
「怖すぎるんだけど」
 ゾッとした顔でペンギンを見たレイルスは鳥肌をたてて恐怖した。花でも育てているつもりだったのか、水やりまでしていたというとんでもないタレコミにローも顔を引き攣らせる。まさか日課を見られているとは思っていなかったペンギンはローにまで引いた眼を向けられて「そんな目でみるなぁ!」と情けない声を上げる。いろいろと心配になってしまったローは容赦なく能力でクルー全員へスキャンを展開した。

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投稿日:2025/1013
  更新日:2025/1013