黄金の夜明け


 名乗った後、目を回すようにして布団に沈み込んだぼろぼろの体を思い出してロビンは遠くを睨むように目を細めた。この場の誰よりも罪悪感を持ってはいけない、しっかりしなければと意識して深呼吸をして後ろ向きな感情を吐き出す。チョッパーに容体を聞いた時から覚悟はしていたのだが、傷だらけの彼女が目を覚ました時の衝撃はクルー全員少なからず大きかった。見立てではまだ起き上がることは難しいとチョッパーが診断を下していたが、騒ぎに駆けつければ顔を真っ白にした彼女、ホーエンハイムと名乗った少女が起き上がっていた。サンジがいまだに熱っぽくあの少女のことを語っているが、確かに珍しいあの色の瞳には目を引くものがあった。夕日に照らされた水面にも似ていて、月明かりの下の黄金のようでもあって。瞬きをするたびに同じ色の長いまつ毛がふるふると上下し、自然と目を向けてしまうのもしょうがないと言える光がそこにはあった。
 エニエス・ロビーでホーエンハイムは、すでにボロボロの格好で捕らえられていた。手枷だけではなく足枷まで海楼石の枷はそれだけ海軍が警戒を持っていたことを意味している。隣で座らされていた間にも彼女の傷口からゆっくりと血が流れ出ていくのを見ているしかできなかった。何もできなかったし、一味のことと自分のことで頭が占拠されていたロビンはそれどころではなかったとも言える。にも関わらず、ためらいの橋に向かう途中、同じくスパンダムに引きずられていた彼女が、殴られそうになったロビンの盾になったのだ。それまでピクリとも動かなかったのに、なんだったらスパンダムも死んだかと焦ったようにしていたぐらいに動かなかったのに、だ。間違えてバスターコールをかけたと騒ぐスパンダムを説得しようとして殴られていたロビンに、覆い被さるようにして代わりに殴られていたホーエンハイムの体温を、ロビンは未だ鮮明に覚えている。髪に覆われてその時彼女に意識があったのかはわからない。それでも偶然でもなんでもなく、彼女の体はしっかりとロビンを庇うように力が込められていた。
「ねぇロビン、ロビンもホーエンハイムなんて名前の賞金首知らないわよね」
 船尾で海を見つめながら回顧をしている間にナミが横に並んだことには気がついていた。寄り添うような距離がくすぐったくて、ロビンから話しかけることはしなかったが向こうが先に痺れを切らしたようにこちらを覗き込んでくる。その距離がまた、口角が上がってしまうくらいに嬉しい。ロビンはもう、そんな心を隠す必要もないのだというように微笑みながら口を開いた。
「ええ、エニエス・ロビーにまで連れて行かれるような賞金首ではないことは確かね」
「そうよねぇ、ここ最近の新聞でも見たこともないしW7のアイスバークさんも知らないみたいだったし」
「CP9もあの子については全くと言っていいほど言及していなかったから……ただスパンダムは私同様に殺さないように注意はしていたようだったけれど」
「うーん、ますますヤバそう」
 ナミのバッサリとしたいいように思わず笑ってしまう。それでもあまり嫌そうでないところにも、穏やかな気持ちにすらなってしまう。ロビンはまさか己がこんな風に思える日が来るなんて思ってもいなかった。いや、遠い昔はどこかで望んでいたのかもしれない。それでも心の奥底では高望みだと、願うだけ無駄だと。そんな風に言い聞かせていたのだ。唐突にそれが叶うと、嬉しさもあるが躊躇いもあるものだとロビンは初めて知った。
「でも、やっぱり良い子そうよ?」
「そりゃロビンのこと庇ったんだから、極悪人って訳ではないだろけど」
「それだけじゃなくて」
 一味が医務室に向かったのは、すでに彼女が起き上がってから。それまでの間は船医であるチョッパーと2人きりだったはずだ。それなのに、拒絶することなく彼のことを受け入れていた。一味の誰にも、彼はなんだという質問を投げつけなかった。目が覚めて何も理解できていない状況だったとしても、普通ではないことが目の前で起きていたのにそれを寛大に捉えてみせた。というのは美化し過ぎているかもしれないが、それでもチョッパーは微塵も悲しそうな雰囲気を出していなかったし、なんなら少しだけ嬉しそうにそわそわとしていたのだ。彼がよくバケモノ扱いを受けて悲しんでいるのを影から見ていた身としては、それを嬉しくも思えたし、それだけでも偏見や常識に囚われない広い視野を持った人格者であることは把握できた。
「ほら、海賊ってだけで嫌がらなかった」
「……それって普通じゃないってだけじゃない?」
「そうともいうかもね?」
「も〜!」

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投稿日:2021/1231
  更新日:2021/1231