逃れられぬ光


「フランキー」
 階下へと向かう階段を探し無駄に広い屋敷を爆走していたフランキーは、街角であったかのような普段通りの何気なさで呼び止められて、咄嗟に足を止めることができなかった。10mほど進み、おやと引っかかるものがありその場に戻るために踵を返せば目をパチクリとさせてフランキーを見つめる金眼を目があう。
「い、いたー!!無事かー!?」
 凄まじい勢いで接近され、かつ大声で問いかけられたレイルスはギョッとして一歩後ずさる。ちょうど上がってきたのであろう階段に足を戻したレイルスの背後からモクモクと黒い煙が立ち上がっている。
「ぶ、無事じゃねぇー!?」
 目の前で急ブレーキをしたフランキーは、しかしレイルスの顔の右半分が真っ赤に染まっていることに気がついてガーンと口を開ける。顔と言わず髪まで血に染まったレイルスは船にいた時よりも顔色を悪くしてそこにいた。
「影は!あるな!?」
 フランキーでは手当はできない。血のつきかたからまた右肩に怪我を増やしたのかと検討をつけたフランキーは、彼女の足元に伸びる影を確認して太い腕に座らせるようにしてレイルスを抱え込む。爆発の音がした場所はおそらくレイルスが上がってきた地下からだ。そんな場所のそばにいられないとほとんど足を止めることなく、すかさず全力で走り出す。外に出るという手もあったが置いてきたブルックもぼろぼろだったことを思い出し、怪我人はまとめて守った方が賢明かとゾロが戦っている場所へと足を進める。レイルスは無断で抱え込まれることについては諦めて、フランキーに問いかける。
「どういう状況?」
「麦わらとコック、それに剣士が影を取られた!そんで航海士の嬢ちゃんは透明人間に結婚させられそうになってやがる!」
 後半が微塵も頭に入ってこない濃い情報だったが、なんとか噛み砕いたレイルスはもしかしなくてもとんでもない状況の中レイルス探しまでさせてしまったらしいということを把握する。面倒をかけてしまったと頭を下げるもワイルドなフランキーらしく「ついでだァ!!」と一蹴されてしまう。
「さっきの爆発は大丈夫だったか?」
「私がやったから大丈夫」
「……スーパーだなお前!!」
 フランキーも安置所と言われてある程度を想定していたため、思わぬ返答に一瞬呆けながらも、すぐさま賛辞の言葉をレイルスへと向ける。褒められたのかどうかいまいち把握はできなかったがとりあえず「どうも」とだけつたえたレイルスは、目的地があるらしいフランキーに運ばれるまま口を開く。
「サンジは?一緒に攫われたんだけど……」
「影取られただけでピンピンしてやがるよ!」
 自分の心配をしやがれこんちくしょうと謎の罵声を吐いて、ちょっぴりうるっときたフランキーは鼻を啜る。片腕で軽々と抱え上げられる頼りない少女が、血まみれになりながらも人の心配をしている様は痛々しくもとても涙腺にくるものがある。そんなフランキーに気が付かないレイルスは、ナミだけが安否不明なのかと頭のなかを整理する。
 屋敷の頂上階、そこで戦っていたゾロとリューマの元にたどり着いたフランキーとレイルスは床で伸びているブルックに「お帰りなさい!」と迎えられる。それどころではないので2人揃ってスルーしたその言葉だったが、ブルックも返答を聞く前に斬撃が飛んできて悲鳴を上げてしまう。慌ててブルックを回収したフランキーがすぐに逃げられるよう2人を脇に抱える。
「おや?可憐なお嬢さんが……パンツ見せてもらってもよろしいですか?」
 煙の舞うなか、リューマに声をかけられたレイルスだったがこちらもこちらで空気を読まない発言。確かにブルックの影であるとゾロは心底思った。
 ちら、ブルックは脇にいるレイルスを見やってすぐさま顔を逸らした。それはもう迫力のある顔をしていたので。なんならすぐに舌打ちすら溢れていた。レイルスも説明されずとも目の前のゾンビがブルックに関係していることだけは理解した。船では理解が追いつかなかったセクハラまで思い出して怒りは2倍増しとなっている。
「ヨホホ、手厳しいですね」
「去勢するぞおっさん」
「嬢ちゃん気持ちは分からなくはないが顔に似合わねぇ暴言吐かんでくれ!」
「うっせぇ水刺すな!!」
 理不尽にゾロに怒鳴られたレイルスは、しかし言葉を返す前にフランキーに抱え込まれて屋外へと離脱させられる。ゾロとリューマの戦いで瓦礫の落下が多く、とてもではないがこの場にいては巻き込まれてしまいそうだったのだ。2人の戦いは静かで、一撃一撃を丁寧にぶつけ合っているようなそんな種類のものだった。建物を斬り伏せ、斬撃が飛び交い、足場の悪い屋根の上で戦いは進む。同じく剣士であり、自分の影が入っているブルックは思うところも多いのか息を呑んでいる。
 決着は意外にもすぐについた。リューマが突如燃え上がり、負けを認めたのだ。リューマから刀を受け取ったゾロは満足げである。リューマの元からブルックへ向けて何かが飛び出してくる。
「影が……!」
 歓喜の声をあげて自分の影を確認するブルックを見て、なるほど影を死体の原型が留まらないほどのダメージがあれば影が戻るのかとレイルスは興味深そうにブルックの足元を見下ろしている。先ほどまでなかった影が当たり前のようにそこにある。これがなかったせいでブルックは日の光に怯えこの霧の中から出てこられなかったのだと思うと当たり前とは言い難いものがある。現にフランキーはデリカシーなく、自分の動きに合わせて動く影を見てはしゃぐブルックに「当たり前じゃねぇか」と言いすてて責められていた。
「お前足枷取れたのか」
「何?よかったじゃねぇか!」
 ブルックの喜びを横目に、ゾロがレイルスの傷の具合を見ておこうと屈んだ時にそれに気がつく。言われるまで気が付かなかったフランキーが自分のことのように喜ぶ。
「ええ、私の影のこともう終わりですか!?」
 レイルスはブルックの不満そうな顔を見て内心を察しながら「とれた」とだけ伝える。まだ頬を濡らす血は乾いていないようだが、出血自体は止まっているらしい。
「骨の影と嬢ちゃん、俺たちの任務は完了だな」
 ニヤリと笑ったフランキーに、ヨホホと嬉しそうに笑うブルック。サンジの目的であったレイルスの救出も叶ったため、ゾロも心なしか満足そうに不敵に笑ったのだった。



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投稿日:2022/0116
  更新日:2022/0116