逃れられぬ光


「手配書の似顔絵にそっくりだな!」
「どこがそっくりだー!?」
 オーズは腕に麦わらの一味の手配書を貼り付けており、それと見比べて目の前のサンジを「黒足のサンジ」と判断した。これには見ていた全員がちょっと可哀想な目でサンジを見てしまう。烈火の如くサンジは怒り狂った。
 ついに始まってしまったオーズとサンジの戦いは、サンジがその巨体から繰り出されるパンチを避けるだけの一方的なもの。その光景を見せられたものは揃って顔色を悪くしてごくりと喉を鳴らす。砂煙の中それでもしっかりと立つサンジに驚けばいいのか安心すればいいのか分からなくなってきたレイルスはここで見ているだけではどうしようもないとそろそろと滑るように屋根から降りようとする。
「危ねぇ……!おいあいつ死ぬぞ!?」
「グェ」
 それなりに高さはあるが大丈夫かと落下地点を確認していたレイルスだったが、ゾロに腹部を抱えられて捕まえられる。同じくその時サンジがオーズに捕まり鷲掴みにされてしまった。それを助けようとしたウソップがオーズに火薬星を浴びせるも、虫でも捨てるようにオーズはサンジを地面へと叩き落としてしまう。あまりの落下速度にレイルスもゾッとして腹に回るゾロの腕を掴む。標的をウソップたちに変えたらしいオーズの気を引くためにフランキーが腕から銃弾を飛ばすが、巨体な割に俊敏なオーズはそれを難なく回避して屋根の上を睨みつけて瓦礫を投げつけてきた。足場としていた屋根に剛速でぶつかってきた瓦礫に、4人は空へと身を投げる。
「フランキー!こいつ持ってろ!」
 いささか乱暴に空中でフランキーへと投げられたレイルスは、硬いフランキーの腕に受け止められるもこちらも落下中。攻撃へと転じたゾロだったが身体の割に俊敏なオーズに避けられてしまい、牙を一本折るにとどまる。何度見てもとんでもない攻撃力に、レイルスはゾロの無茶苦茶具合にしばし茫然とした。空中という力を込められないはずの場所で斬撃を飛ばすなどどうなっているのだろう。高い位置から落下するゾロをロビンが能力でキャッチし、タイミングを見計らっていたウソップが両腕を上げた状態のオーズの口に塩を入れ込む。しかし。
「あ?」
「少なすぎたー!?」
 レイルスの予想は的中しており、結局一味全員が瓦礫の上に倒れてしまう。レイルスを抱えて自らがクッションになったフランキーではあったが、フランキーの体の大部分が鉄となっているため衝撃はそれなりに大きく、レイルスも息をつめた。
 それでもフランキーが庇ってくれたおかげか、気絶せずに済んだレイルスはオーズが腕に貼られた手配書を数えて一味のメンバーを確認しているのを目視する。衝撃のせいかうまく体が動かず、起きあがろうとして地面へずるりと落下した先が、ちょうどフランキーの影になっていたようだ。レイルスに気が付かなかったオーズは足りない一味を探しに離れていく。それを見送ってしばらくしたのちに動くようになった体に、レイルスはのっそりと起き上がった。
「ありがとうフランキー、大丈夫?」
「ああ、嬢ちゃん結構タフだなおい……」
「庇ってくれたおかげだよ」
 お前重症だろうと目で訴えるフランキーの視線を無視してフランキーが起き上がる手助けまでし始めたレイルス。フランキーのおかげだとまっすぐに伝えてくる言葉がくすぐったくなったフランキーはグゥと唸った。背中で受け止められたらよかったんだが、と無茶苦茶なことをいうフランキーの言葉を理解できないレイルスは彼の体が前面だけ改造されているのだということを知らない。
 兎にも角にもあのオーズをなんとかせねば。地響きを感じる手の平を握りこんでレイルスは痛む体を無視して立ち上がる。他のメンバーも順に起き上がっている様子を見てレイルスは肩の力が抜けた。同時に彼らのタフさにちょっと遠い目になった。全員オーズに結構な勢いで殴られたりはたき落とされたりしていたというのに、致命傷を負っていないなどどう言うことだろう。
「イムちゃん……!!よかった無事、じゃねぇ!?」
 オーズに一番ダメージを負わされたであろうサンジが素早く駆け寄ってきて絶叫する。ワナワナとレイルスの血に塗れた顔と髪を見て声をなくすサンジに、レイルスは彼の方が傷だらけであると眉を下げる。なんで走れるんだろうか、とんでもない体の作りなのかもしれないとレイルスは少しサンジを疑った。
 黒いスーツが所々じっとりと赤黒く汚れている。レイルスが気を失った後に何があったのかは知らないが、それでもレイルスがあの場でサンジと共に脱出できていれば負わなくてもよかったであろう傷だろう。レイルスは口から謝罪が飛び出そうになるも、それを飲み込んで「平気」とだけ告げた。加えてサンジが万が一にもレイルスの傷口を抉ったなんで知ったら自殺しかねないと、レイルスは薄らとだが感じ取っていた。大正解である。それに今はそれどころでは無い。
「人間大のゾンビはどれくらいの塩で浄化されるの?」
「あ、ああ……これひとつ口に入れてやれば」
 そう言ってウソップは残っていた特製の塩の塊を一粒レイルスへと差し出す。手のひらでそれを転がし始めたレイルスを見てサンジも口を閉じる。反省も後悔もさせてくれる気はないらしい。強かすぎるレディは男の立つ瀬すら無くしてしまう。しかしそれをレイルスのせいにするのはお門違いである、不甲斐ないのはサンジ自身の至らなさだと言葉を飲み込んだ。しかし相当我慢を強いたのだろう、顎に梅干しのような皺を盛大に作っていた。それが目に入ったウソップは綺麗にサンジを二度見した。
「10キロ以上はいるかな……」
「屋敷に食糧庫が……そちらで塩を探してきます」
 大きい屋敷ではあるがその量の塩があるかどうか。屋敷はブルックに任せることを決めたレイルスは一つ頷く。それを一緒に探しにいくのだと捉えたブルックは続けられた言葉に顎を外す。
「じゃあそっちはお願い」
「えええ!?一緒に行くのでは……?」
「私は別口で塩を持ってくる」
「あてがあんのか?」
 断定的な物言いにゾロが眉を跳ね上げるも、レイルスの自信は揺るがない。屋根の上から海が近いことがわかっていたレイルスは煽るように「持てるだけ持ってくるよ」と笑う。勝気なその笑みは船の上では見たことのないもので、チョッパーは怪我を理由に止めるタイミングを見失ってしまった。手当をする隙も、近くでオーズがウロウロとしている今はないだろう。見るからに右肩の怪我が悪化していることは気になるが。誰かがついていくべきかと口を開いたウソップだったが、その前にレイルスが「じゃ」と走っていってしまう。
「いや決断早ぇ!」
「おいこら走るのはダメだイム〜!」


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投稿日:2022/0119
  更新日:2022/0119