逃れられぬ光
ナミを適当にいなし、着替えるように伝えたレイルスはペローナたちが脱出のためにサニー号へと持ち運んでいた荷物を適当に甲板へとぶちまけて袋を確保していた。くまのことはもちろん気になるが、まずは塩である。良くも悪くも切り替えのできるレイルスにナミの方が混乱しているくらいであったが、レイルスからゾンビの弱点とオーズをどうにかするために他のクルーがあの巨体と対峙していると聞いて、慌てて女子部屋へと引っ込んだ。大きめの袋を五つほど用意したレイルスはそれを持って船から飛び降りる。足の傷にかなり響いたが、奥歯を嚙み絞めて堪える。「んあーくそ!」と声が漏れたのはご愛嬌である。
右手を海水に突っ込んで手を濡らしたレイルスは乾き始めた血がポロポロと剥がれるのを見向きもせずにその手を持ち上げる。船着場に広げていた袋に水でするすると、血が滲んだ不気味な円が麻の袋に描かれる。全ての袋に円を書き終えたレイルスはそれを船着場に適当に結びつけて海面へと浮かべる。陣が海水で消えてしまう前に人差し指をチョンと陣にあてて、錬成を開始する。ぶくぶくと海面が泡立ち、袋が膨らんでいく。海水から水分を飛ばし塩を作成しているのだ。数分もしないうちにパンパンになった袋を引き上げて、濡れた水分を飛ばすために船着場に海水で新たに陣を描く。表面についた塩をほろっているときに降りてきたナミは、屈んでなにやらしているレイルスを怪訝に見つめる。
「なにそれ?」
「塩」
「え、あいつらそんな量の塩乗せてたの?」
「まあうん」
説明が面倒になったレイルスは話半分に頷く。しゃがんだまま、よっと声をあげて袋を持ち上げるもなかなかの重さ。無事な左肩に紐が食い込むのを感じてレイルスは顔を顰めたがそれに気がついたナミがレイルスから袋を奪った。怪我人のくせにどうして躊躇いもなく重労働をしようとするのだろうか。ナミは呆れと苛立ちまじりに金色のつむじを見下ろした。
「無茶するわね!持つわよそれくらい」
おも、と言いながらも袋を三つも持ってくれたナミに素直に礼を伝えたレイルスはそれでも20キロ以上の塩を持ち上げる。そしてナミと共に目の前の長い階段を見て一つため息を吐き出して、揃って走り出したのだった。
オーズの腹にはコックピットがあり、その中にモリアが乗り込んでいるという状況。考える脳が足りていなかったオーズに司令塔ができるのはまずいと考えた一味がやはり塩の必要性を考えていたときに建物へと塩を集めに行っていたブルックが現れる。食糧庫で牛乳を発見したというブルックは先ほどよりもよっぽど元気になっており、その変わりようにウソップが「効きすぎだろう!」と突っ込んだ。
「イムが言ってた通りになってきやがった……!早めに塩を探しに行ってもらっててよかったぜ……」
ブルックもレイルスの言っていた未満しか集めて来られなかったことから、レイルスの先読み能力に似た発言に驚いていた。連携してオーズを止めようと戦い続けるクルーだったが、フランキーが建物に叩きつけられて気を失ってしまう。
「『サンダーボルト・テンポ』!」
このままでは踏み潰される、その瞬間にオーズの上に雷が落ちる。
「クリマタクトだ……!ナミさんが無事なのか!?」
サンジが凄まじい勢いで視線を巡らせてナミの姿を探す。危機一髪フランキーを救ったナミは折れた橋の途中――ウソップとサンジが一緒に落ちたものだ――で身を隠すようにして小さくなっていた。その傍らにはレイルスも見える。わぁ雷。レイルスはまた一つ現実逃避をしていた。
心配でたまらなかったナミとレイルスの無事を一気に確認できたサンジは途端にアホになってしまったようで、隠れるナミの様子にも気がつかず大声でナミとレイルスを呼ぶ。当たり前のようにオーズに場所がバレてしまいナミはヒッと声を引き攣らせた。レイルスは黙って袋を下へと次々と放り投げる。現在地からの方がオーズの口には近いが、ナミとレイルスの腕力ではどう考えても投げ入れることは無理である。レイルスは一味の現実離れした力に望みを託した、丸投げともいう。
「あ、あんなに……!?」
レイルスの手元から投げられる袋に、ブルックは息を呑む。自分の数倍もの量を本当に持ってきたレイルスに驚いて顎が外れんばかりに驚愕する。ゾロは面白そうに「やるな」と笑って、塩と共にナミまで連れてきたレイルスを見上げた。レイルスはオーズの腹に穴が空き、そこに人影を見つけて舌を出して気持ち悪さを表現した。
「女ァ……!!ゴムゴムのぉ……!」
「なに、なに!?まさか伸びるの!?」
オーズが腕を引き、何か仕掛けようとしていることを理解したレイルスはナミの言葉にギョッとする。届きそうにない距離だと思っていたがだとしたらまずい。伸びたルフィの腕のことを思い出してキャーキャー悲鳴をあげるナミを引き寄せてオーズの挙動を見守った。今までオーズとやり合っていたメンバーは何度も腕が伸びなかった事実を目の当たりにしていたが、それを見ていなかったレイルスがナミのそばにいたことは不幸中の幸いと言えた。最大限の警戒を持って、攻撃に備える。
「『銃〜』!!」
伸びた!ナミの悲鳴とともにレイルスは空中へと飛び出した。なるべくオーズから影になる位置に向かって飛んだ意図をナミも掴んだようで、グッと悲鳴を飲み込んだ音が耳元で聞こえる。凄まじい破壊音と共に、先ほどまで足場にしていた場所が瓦礫となって吹き飛んだ。レイルスは落下し、ナミを抱えながらまた己の血で手のひらに陣を描くが、間に合うか。
驚いたのは下にいたメンバーだ。今の今まで伸びる気配すらなかったオーズの腕が、本当にルフィのように伸びたのだ。大丈夫だとたかを括っていたせいで顔色を悪くして全員がナミとレイルスの安否を確かめるべく声をあげる。
「あ!」
ロビンの能力によって助けられた2人が目に写ったチョッパーが安堵に声をあげる。助かるとわかったナミは、それでも怖かったのだろう。レイルスにしがみつく勢いで抱きついていた。
「大丈夫?ナミ、イム」
「あ、ありがとう……死ぬかと思った」
「ありがとう」
立ち上がろうとしたレイルスを咎めるようにナミが引き止める。ナミはあの瞬間、レイルスがナミを庇って体を下に入れたことに気がついていた。なんて無茶をするんだこいつはと鳥肌が立つ体の震えが止まらない。レイルスは落下前に錬金術でなんとかしようとは思っていたが、間に合わなかった可能性の方が高かったため素直にロビンに礼を伝えた。
2人の温度差に気がついたロビンはケロッとしているレイルスに少しだけ呆れた。立ち上がれなかったレイルスはそれでも視線をオーズに向けて、伸びるのであればリーチは当てにならないのかと思案し始めていた。
投稿日:2022/0121
更新日:2022/0121