誰かにとっての黙示録

「まずいことが起きたぞ今」
「あいつの腕がなんで伸びるんだ!ゴム人間はこの世に1人だろ!?」
 驚く一味の様子から、腕が伸びる人間は何人もいるものではないらしいということをレイルスは理解する。しかしそれ以上の状況を把握しようにも敵は驚く一味を待ってくれるはずも無く、オーズの攻撃の風圧でコロコロと転がされたレイルスはロビンの能力で支えられながら目を回した。遠目にそれを見ていたサンジは「羽根のように軽ゥい!!風に攫われちまう!!」と洒落にならないことを言って何故か興奮していた。
「影革命!」
 そして丁寧にもモリアがその種明かしをする。影とは実態に追従するもの、しかしオーズの影にはモリア自身の影を潜り込ませておりその影を自由自在に操っているのだという。モリアによって伸ばされた影に伴ってオーズの腕も伸びた、そういう理屈らしいがレイルスにはピンと来なかった。
「つまり、常識とは逆で……モリアがオーズの手足の影を伸ばしたから実態がそれに合わせて伸びたんだ!」
「じゃあ、オーズはゴム人間になったわけじゃなくて、変幻自在な体になったのか……勘弁して欲しいぜ、あの巨体で」
「ああ、このままじゃ全く近寄れねぇ!」
「実際ゴムより厄介さ、こいつの影を丸くすれば……オーズも丸くなる!」
 驚愕する一味に気を良くしたようにモリアはオーズを丸くしてみせた。恐ろしさというより奇天烈さが目に付いたレイルスは驚く一味の中で顔を1人顰めた。
「珍妙……」
「言ってる場合か!転がってくる、おい逃げろ!」
 引いた目を向けるレイルスを怒鳴って、ウソップが真っ先に走り出す。そうして巨体を転がしてくるオーズに一味はあわてて逃げようとするも、オーズ自身がその体を止める。自分の喧嘩だからモリアは手を出すなということらしい。そんなやりとりをしている敵の隙を見逃す一味ではない。
「すみません……お願いを一つ、聞いてください」
 ブルックが自分を飛ばしてくれという捨て身の作戦を提案してきたこともあり、そのために各自が準備を整える。ウソップが巨大パチンコを極限にまで引っ張り、ロビンは腕をロープのようにして延ばしてブルックをしっかり握りこみ、ナミは雷雲を発生させる。
「骸骨剣、『ガボット・ボンナバン』!」
 勢いよく飛び出していったブルックはなんとナミの電撃を纏ってオーズの肩を銃弾のように貫いた。オマケにロビンによってとてつもない回転を加えられた形で。驚愕にレイルスは「どういう原理だ!?」と今まで押し込めていた言葉がうっかり飛び出た。
「隙ができた!攻撃を繋げ!」
「上出来だ骨!」
 しかし一切痛みを感じないゾンビは、怯むことなく壁に突き刺さっていたブルックに踵を落とす。レイルスも思わず息を呑んで落下してくるブルックを凝視する。砂埃を立ててブルックが瓦礫の山に消えていく。レイルスは瓦礫が降り注ぐ中、果敢にもブルックの落下地点へと単身乗り込む。
「イム!危ないわ!」
 ナミの声が背中にかかるも、爆音に紛れて呼ばれたと思わなかったレイルスはそのまま進む。全員攻撃を避けることが精一杯でレイルスにかまう隙がなく、苦い顔のまま見送るしかできない。二、三度大きめの瓦礫に潰されそうになりながらも、なんとかブルックの元にたどり着いたレイルスは瓦礫の山に頭から突き刺さるブルックを見つけ、無遠慮にその足を引っ張って瓦礫から引き抜いた。
「生きてる!?」
 声をかけるものの、ブルックは微塵も反応を示さない。これはどうやって生死の確認をすればいいんだと、一瞬狼狽えたがブルックが「うう」と唸ったことでレイルスはブルックが無事であることを確認した。レイルスでも軽々と運べるほど重さを感じないブルックを引きずりながら、レイルスはブルックをオーズの足元から避難させる。レイルスが再びオーズに目を向けた時、状況はまた一変していた。
「ちょっと、影の操作やめてもらえないかしら」
 ロビンが能力でモリアの動きを防いだのだ。コックピットの中で腕に首を絞められているモリアを見上げてレイルスはおお、と感嘆の声をあげる。しかしそれも束の間、モリアの影の攻撃がロビンを襲いかかる。そして、いつの間にかロビンの背後にいたモリアが、ロビンの影を地面から引き剥がし始める。足を引っ張られたかのように転ぶロビンの足から伸びる影に、モリアが鋏を入れた途端ロビンはその場で倒れ込んでしまった。
「ロビンちゃん!?」
「これで3人目消去」
「あああ!!ロビンまで影を取られた!!」
 離れた位置でそれを目の当たりにしたレイルスは目を見開いて地面に崩れ落ちるロビンを見つめた。大丈夫、なんだろうか。影を取られたことで起こる影響は、本当に日の光に当たった時のものだけなんだろうか。取られた時点で気を失うような衝撃があるのであれば、体に悪影響は出ないのだろうか。途端にマイナスな発想が頭の中をめぐるも、それを振り払って考えるべきことに思考を沈めていく。
 自分の影を好きな場所に移動させられる。またその影と自由に位置を交換できる。影は分裂し攻撃もしてくる。影を切る取る能力は本体しか持ち得ないようだが、場所を入れ替えられるとあればあまり欠点にはなり得ない。この危機的状況だからこそ、レイルスは頭を回転させる。
 影と言われて思いつくものが、一つ。
 足元に転がっていたガラスのかけらを手に取り、深呼吸を1つ。人知れずレイルスはそれを左手に突き刺した。

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投稿日:2022/0122
  更新日:2022/0122