誰かにとっての黙示録
レイルスのこの一連の行動は誰の目に留まることなく完了された。チョッパーやサンジは大丈夫だろうか、砂埃の中を見渡すレイルスの視界に、急遽作成した即席の巨大パチンコを最大限に引っ張っているウソップの姿が目に映った。「おいオーズ!こっちむけ!」
そう声を荒げたウソップが何かをオーズへ飛ばす。口へと放り込まれたそれをオーズはごくりと飲み込んだ。ブルックとレイルスが持ってきた塩をオーズの口に入れることに成功したのだ。レイルスはそれに目を細めて、しかし真剣な様子で見守る。苦しみ出したオーズだったが、オーズの口から出てきたのは塩の塊を持ったモリアの影。投げ返された塩がウソップに激突し中身が散らばってしまう。レイルスはさらに目を細めた。
「ブルックとイムがせっかく……!!いやまだ塩は残ってる、チャンスは」
「ゴムゴムの、『スタンプ』!」
「ウソップ!」
思わず叫んだレイルスとナミ。オーズがウソップのいた位置に何度も足を振り下ろし、地響きが無常に響く。その音とともに心臓が嫌な音を立てたのをレイルスは感じていた。やめてと叫ぶナミまで同じように踏まれて、レイルスは顔を絶望に近い色に染めながらゆらりと足を進めようとする。頭では馬鹿なことをするなとわかっていても、体が勝手に彼らを助けようと前進したのだ。
「危ねぇぜ、寄るんじゃねぇぜ」
しかしそのレイルスの体を、強い力で止められる。突然のことにレイルスは暴れるも、一向に外れない体の拘束。見下ろせば青白さを通り越して真っ青で大きな手のひらがレイルスの胴体に巻きついていた。
「おい、デケェの。オメェは一体何を踏み潰してんだ……?オメェの足の下には誰もいねぇぜ」
「あ、あれ……助かった?どなたか存じませんが危ねぇところ……って!?」
聞こえてきたウソップの声にレイルスは押し付けようとしていた手のひらを寸でで止める。見上げた先には巨体の肩に洗濯物のようにぶら下がっているウソップ、反対の手にレイルスと同じように捕まえられているナミ。心底ホッとしたレイルスは思わず安堵の息をつく。どうやら2人は無事だったらしい。
しかしこの青いのは誰だ、レイルスは全く気がつかなかったが、ウソップとナミは何やら仰天した顔をしている。
「誰だ、オメェ!?」
オーズの問いかけに青い男が答える。
「俺の名は、モンキー・D・ルフィだぜ」
「る、ルフィ〜!?」
見た目は完全にゾンビの形相であるルフィを見上げたレイルスは「嘘だ」と冷たい声をあげる。
「ルフィって、どこが!?本当なのか、お前なのか!?」
「本当に、俺だぜ」
「いやその話し方も、何があったんだよ!?」
ウソップが立て続けにツッコミを入れるも、ルフィは淡々と返す。普段の高いテンションもどこぞに落としてきたのか、鋭い目つきでオーズを睨んでいる。そっとした手つきで解放されたレイルスは、改めてその全貌を一瞥する。着ている服は確かにルフィが別れる前にきていたものと一致している。どこで拾ったのか、大きい刀こそ背負っているが、麦わら帽子も目の下にある傷も一緒だ。
「みんな、やられたのか」
「あ、ああ。俺たち以外みんなあの怪物にやられちまった!」
「そうか……下がってろ」
ウソップが無茶だとルフィらしき人物へ嘆くように現状の説明をする。モリアの力によって体を自在に操るできる巨人。パワー、スピードともに凄まじいものでとてもじゃないが1人では無理だと。ウソップとナミの様子に、レイルスはやっと目の前の男がルフィらしいと納得し始めた。
「ゴムゴムの〜!」
「ああ!くるゾォ!!」
敵は待ってなどくれない。後ろに向けて腕をぐんと伸ばしたオーズがこちらを潰さんと構えてきた。
「『銃』!!」
しかし、凄まじい勢いで迫ってくるオーズの巨大な拳を、ルフィが片手で押さえ込んでしまった。これには3人揃って驚愕に目を見開いた。ゾロやサンジでもそらすのがやっとだった攻撃を、片手で押さえたルフィはそれにとどまらずオーズに向かってパンチを繰り出す。その一撃だけで吹っ飛んだオーズにレイルスは冷や汗を流しゴクリと喉を鳴らした。
語尾も見た目もおかしくなったルフィは止める間も無くオーズへと突っ込んでいく。風圧がレイルスの髪を後方へとぶわりと広げた。
そこからは圧巻だった。ルフィの猛攻は一方的にオーズと、中に入ったモリアごとボコボコに叩きのめす。あの巨体をブンブンと振り回して地面に叩きつけ、息つく間もなくコックピットの部分に拳を振るう。ハッとしてあたりを見渡したレイルスは倒れていた一味が何者かに運ばれているのを目撃する。敵かと身構えるもどうやら助けようとしているらしいと耳に届く会話から状況を把握した三人は、彼らに声をかけて現在のルフィの状況を知るに至った。およそ100人もの影を入れて大幅にパワーアップした結果があの体らしい。ルフィの負担は計り知れないと話を聞いてナミは顔を青ざめさせた。
投稿日:2022/0124
更新日:2022/0124