誰かにとっての黙示録

 オーズを倒した後、大量の影を体から吐き出しながら倒れたルフィ。倒れてしまった彼をナミとウソップに任せたレイルスは倒されたオーズの元へと1人向かう。よじ登った先のコックピットの中には気絶したモリアが倒れていた。取られた影を解放する方法――モリアの口から命令をさせるという条件を知らないレイルスはモリアの影の能力を拘束するべく行動していた。
 随分巨体だ、白目を剥いて倒れるモリアを見下ろしながらレイルスは息をつく。オーズはもちろんであるが、モリアも人間にしてはかなり大きい。一度外を見ようとして振り向いたレイルスだったが、オーズの倒れた向きから外からは確実に見えないだろうと思い直す。コックピットの窓は天に向いていて、霧の晴れてしまった空が覗いていた。ふぅ、と息をこぼしてモリアへと視線を戻し、レイルスは鉄でできたコックピットの壁に左手を叩きつけた。
 影の弱点は、一瞬の閃光か一切の闇か。輪郭さえ失って仕舞えば怖いものはない。そう考えついたのは、同じような敵に邂逅した記憶があったからだ。全てが同じではない、それでも同じところだってあるはずだ。バチバチという錬成光とともにコックピットの中が変形してモリアの巨体を覆い隠すようにドームとなった。光が全く入る余地もないほどの鉄の壁はモリアをすっぽりと覆い隠す。長いこと閉じ込めていたら酸素不足で死んでしまうほどの密閉空間が完成した。コンコン、左手でそこをノックして厚みを確認したレイルスは出血による血液不足で視界が二重になるのを、瞬きを深くして誤魔化した。ああ、視界が世界がぐらついて、と思ったが今度はきちんも足元が揺れていることに気がついたレイルスは眠たげに落ちていた瞼をカッと見開いた。
「……ああもう!」
 錬成のせいなのかなんとオーズが動き出したのだ。痛みを感じないのであれば、体の構造から壊さなければ気を失うなんてないと思っていたがやっぱりかとレイルスは舌打ちをこぼしてオーズの体から外を見下ろす。オーズがのっそりと起き上がり、地面が遠く離れてしまっている。レイルスは舌打ちを零して地面を睨みつけた。ヒョコ、とオーズの腹部から見えた金色に麦わらの一味はギョッとする。
「おいイム!お前はとりあえず降りろ!!馬鹿か!?」
「なんでんな場所にいんだばか!!」
「危ねぇ〜!!降りろバカ〜!!」
「ばか!!ウルトラ馬鹿!!むちゃくちゃして!」
 いつの間にか全員意識を取り戻したらしい、オーズのコックピットからそれを確認したレイルスは、安堵の気持ちととんでもないタフネスを見せつけられて、口をモニョっとさせた。
「『二輪咲き』!」
 突然、目の前にニョッキリと腕が2本生えてレイルスはたじろぐ。細い腕であるが、力強くレイルスの両腕を鷲掴んだそれが、ポーンとレイルスを外へと放った。悲鳴をあげる隙もなかったレイルスは、思わずぎゅっと目を瞑る。ロビンの能力でつまみ出されるようにしてコックピットから引き出されたレイルスは下にいたゾロにキャッチされる。
「これで貸し借りなしだ馬鹿!」
 先ほど落下する体を受け止められたことをしっかりと理解していたゾロは目を三角にして怒鳴る。ここまで馬鹿呼ばわりされたことのないレイルスは無茶苦茶不服そうに顔を顰めるのみである。その顔を唯一目の前で見たゾロは「何納得できねぇ顔してんだオメェは!?」と再び怒鳴った。怒鳴りついでにゾロはポイ、とレイルスを地面へと捨てた。

 一味の連携は怒涛の勢いでオーズを攻撃した。下半身が凍らされ動きを封じ、鎖を用いて背骨を直線に伸ばして脳天から凄まじい威力の攻撃を与える。結果として背骨をズタボロに砕かれて崩れ落ちたオーズは、立ち上がれる体ではなくなってしまったせいでその場に大きく砂埃を立てながら倒れた。一瞬の出来事である。被害者たちから歓声が上がる。
 だが、その喜びも一瞬で崩れることとなる。
「ありがとよぉ馬鹿ども……!」
 どうやら攻撃の衝撃でモリアが自由の身となっていたらしい。隙間ができてしまったドームのヒビから細々と影が溢れるように飛び出してくるのを見たレイルスは舌打ちまじりに悪態をついた。
「お前らのおかげでこれから出られた」
 予想は当たっていたらしいとその言葉で知り、余計に顔を顰めたレイルス。大元のモリアがまた起き上がってきたことで警戒を強めたゾロは刀を構える。刀を握ろうとした手に違和感を覚え手見下ろすと、真っ赤に染まっている。改めてレイルスを見れば腹部から血が滲んでいた。十中八九ゾロを受け止めたときに開いたのであろう傷を見て、ゾロはピクリと眉を寄せた。サンジのようにちやほやとするタイプではないがゾロも女が傷を作りやがってと苦く思う紳士さは持ち合わせている。
「麦わら!テメェよくも俺のスリラーバークを……こうもメチャクチャにしてくれやがったな!」
「ウルセェ!お前が俺たちの航海を邪魔するからだろ!!陽が差す前に早く影を返せ!!」
 レイルスは目に写ったルフィが何故か小さくなっていて一驚したが、それどころではないと再びモリアへと顔を向ける。不気味に笑ったモリアは、満身創痍にも関わらず声を弾ませて楽しげに口を開く。
「航海を続けてもお前らの力量じゃ死ぬだけだ!筋のいい部下もいるようだが、全てを失う……何故だかわかるか!?」
 今までにないほど、口角を吊り上げた笑み。気が触れたようなその顔に、ルフィも怯むように口を閉ざす。段々と、空が白んでくる。
「俺は体験から答えを出した!大きく名を馳せた部下を俺はなぜ、失ったのか!!」
 起き上がったモリアから無数の影が飛び出していく、その光景は悍ましいものであったがレイルスは自分の肌をかすめて伸びていくそれに怯むことなく見つめ続けた。狂ったような笑みを浮かべてモリアは語る。
「仲間なんざ、生きているから失うんだ!」
 初めから死んでいれば失うことはない、ゾンビならば代えもきく不死身の兵士。本当に沢山の死を目撃したことのある言葉、重みのある言葉ではある。それでもレイルスには理解ができないセリフでしかない。
 風船のようにぶくぶくと膨らんでいくモリアに影が集まっていく。先ほどのルフィのように肌の色を変え、声までおかしくなっていく姿に全員が息を呑む。レイルスは目の前の光景を見せられてフラッシュバックする嫌な記憶を思い出してうるさくなる心臓をそっと押さえた。
 ああいやだ、どうしてこうも似ているのだろう。

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投稿日:2022/0125
  更新日:2022/0125