誰かにとっての黙示録
1000体もの影を集めたモリアは元からの巨体をさらに肥大化させて、化け物じみた風貌に成り果てて笑う。先ほどのルフィの10倍もの数字に呆然とする人間がいる一方、ルフィは全く諦めなかった。東の空がうっすらと明るくなり始めている。タイムリミットが近いことに慌てて被害者一同が森へと逃げていく。その中でも麦わらの一味は一歩も引かない。それを見た被害者たちも、船長のローラの言葉に足を止める。「勝手気ままに希望の星と期待しといて、ピンチになったらトンズラとあっちゃ、私ら虫けらかなんかだよ……私が残れば仁義は通せる!私はもう、日陰には帰らない!」
瓦礫の更地になってしまったために掴むものが何もないレイルスは断りなしにゾロに掴まりよろりと立ち上がる。左側にゾロがいるにも関わらず、右手をわざわざ伸ばして掴まってきたレイルスの行動にゾロはじろりと視線を滑らせる。
「お前その手、どうした?」
右手は綺麗になっているが、今度は左手が血まみれとなっている。それもそこから出血していえるとなればゾロも顔を顰めて聞いてしまう。
「切った」
完全に言葉足らずであるが嘘は言っていないレイルスは堂々と答えた。ふん、と鼻すら鳴らす勢いの言葉にゾロもそうかと納得する。朝日が差し込み始めるも、一味は誰1人として隠れようとしない。レイルスに対して無茶苦茶だと罵声を浴びせてくるがレイルスからすれば一味の方がよっぽどである。ルフィが殴るたびにモリアの口から影が漏れ出る。しかしその数は微々たるもので、都合よく一味の影が出てくる様子もない。のろりとゾロから離れたレイルスは見るからにふらふらとどこかに足を進めようとした。レイルスはなんとか日陰を作るべく建物に寄ろうとしたのだが、呆気なくゾロに動きを止められてしまう。
「いい、ルフィに任せろ」
何かしようと動いたレイルスに気が付いたのか、ゾロはそんな言葉も付け足す。こういう時には黙って船長に任せるものだ。ゾロもしれっとレイルスをクルー扱いしたがゾロ本人は無意識、言われたレイルスもそれに気がつかなかったが、朦朧とする意識の中でそう言うものかと納得したために動きを止めた。レイルスは爆音と地震のような揺れを断片的に感じながら、点滅するような意識を必死に繋ぎ止めた。
「俺の影にも一言あるぞ……!海賊王になりてェんなら、しっかり俺についてこい!」
ルフィがモリアを吹き飛ばし、衝撃で船のメインマストが一本折れる。この巨大な島を運んでいたほどのマストだ。それがモリアの腹を潰すような形で倒れ、流石のモリアも耐えきれないとばかりに口から大量の影を吐き出す。意思のこもったルフィの大声は、不思議とレイルスの腹の底まで響いてどこかを揺する。
喜びも束の間、倒れたマストで日陰ができたと思ったが、衝撃で真っ二つに割れたマストの隙間から太陽の光が差し込んでくる。
レイルスはすぐ近くで、何かが燃える音を聞いた。ハッとして顔を向ければ各々に影が戻る前に光を浴びたルフィ、ゾロ、サンジ、ロビンの顔が燃えるように掻き消えている。
「うそ……!?」
「おい、お前ら!なんでだ!勝っただろ!?」
「ルフィ〜!!」
「モリアも、ぶっ飛ばしたんじゃないのかよ!なんで!?」
ゾロに腕を掴まれたままのレイルスはその光景に息を呑み、光を遮るものを作ろうと地面に手をつけようとするも、しかしゾロが左手を掴むせいで錬成ができない。慌てて引き寄せようとするが、それ以上の力でがっしりと掴まれてしまう。
ギョッとして顔のあったあたりを見るも当たり前だが表情はわからない。ゾロの首のあたりが燃え上がって向こう側が陽炎のように揺らめいているだけである。この状態でも意識はしっかりとあるらしいがそれどころではないとがっしりと巻きつく手をなんとかしようと格闘する。
「っの!」
一向に外れない手枷に痺れを切らしたレイルスは再び右手を肩に突き立てて指先を血に染める。その場に屈んで瓦礫の上に円を描くも血が足りなかったのか円が半分で掠れてしまう。舌打ちをこぼしてまた傷口に指を入れ込もうとしたレイルスだったが、今度はそちらの手までゾロに拘束されてしまう。まるで見えているかのような行動に音が出そうなほど眼光を尖らせて睨み上げたレイルスは、不敵な笑顔と目があって途端に力を抜く。
「はっはっはっは、いやぁ生きてたな見事に!」
「一瞬天にものぼる気持ちだったわ」
「ロビンちゃんと一緒なら天にも昇りたいぜ〜!」
目線を落とせばゾロの足元にしっかりと影がある。日が登った直後のそれは長く伸び、レイルスの目に飛び込んでくる。レイルスの両手を掴んでいたゾロはその手を徐に解放しふっと鼻を鳴らす。ゾロの不遜な態度を見て今度こそ力が抜けたのだろうレイルスは、続けてロビンとサンジ、そして離れた位置で倒れるルフィに目を向けて、がくりと膝をついた。
力を失った両腕と、その膝のつき方に嫌な予感がしたゾロは慌ててレイルスの両腕を掴んだ。案の定ふらりと倒れるようによろめいたレイルスはそのまま気を失ってしまう。安定している呼吸に張っていた気が緩んだのだろうとあたりをつけたゾロはそのままレイルスをチョッパーの元、ルフィの倒れている横へと運ぶ。視界が戻って真っ先に睨み上げてきた金色の瞳の色が脳裏に鮮明に焼き付いていて、なんだか気分がいい。普通にしていれば温厚そうな女なのに、とんでもない目つきの悪さだった、と自分のことを棚に上げてゾロは笑った。
「なんでこんなに怪我増えてんだ!!治ってないところは全部悪化してるし!!なんでだ!」
ルフィの手当てを終わらせたチョッパーがバタバタとレイルスの治療を始めるのを眺めながら、一味はやっと安堵の息をついたのだった。
投稿日:2022/0126
更新日:2022/0126