十二の切口

 遊蛇と呼ばれる海流がある。渦潮と、複数の竜巻が発生する気圧変化によって稀に起こる危険な海流で、まるで蛇のようにうねりながら海が持ち上がるのだ。凪の気候を抜けたと思ったらそのとんでもない嵐、遊蛇海流に飲まれたサニー号の上はバタバタと忙しなく船の操作に追われている。これまで怪我によって医務室に押し込められていたレイルスだったが傷が塞がったというのもあり手伝うべく甲板に出たままであるのだが、振り落とされないようにしがみつくのが精一杯だった。ナミからこの海流の発生原因を聞いていたので、気圧を変えるほどの何かをするか、渦を消し去る程の何かをするかの二択で頭がいっぱいになっているレイルスは、テンパった時に力技で押し切ろうとするきらいがあった。しかしそれも海を見れば無茶な考えであろうことは一目瞭然、何せ見渡す限りまで波がうねって持ち上がっているのだ。
「おいイム大丈夫か〜!?」
「んなヘリにいて飛ばされるなよ死ぬぞォオォ!」
 べた、とレイルスの背中に張り付いてきたのはウソップとチョッパーで、またもや呼ばれたことに気がつかなかったレイルスは驚いて振り返る。
「何笑ってんだお前ー!!」
「変態かお前ぇー!!」
「俺を呼んだか!?」
 またも窮地にいるというのに不敵に笑っていたレイルス。目の前でそれを見たウソップはこいつルフィタイプだと正確に理解し、このままじゃ死ぬという場面で笑っているレイルスを見たチョッパーは思わずフランキーの代名詞を叫んだ。言われて笑っていることに気がついたレイルスは雨や波でびしょ濡れの頬を触って、改めてニヤリと笑う。
「だってすごい光景だよ、楽しまなきゃ損だ」
「あぁああルフィが増えたぁあああ」
「イムは常識人だと思ったのにぃいいい」
 こうもレイルスが能天気に笑っていられるのは単にレイルスが海の恐ろしさを知らないからという点もあるが、やはり困難に対して前向きにぶつかっていく性格も大きく影響しているだろう。ウソップの見解はバッチリ当たってた。レイルスはルフィタイプである。
「ウソップお前イムちゃんから離れろ貴様ぁ!」
「馬鹿野郎掴んでないとイムは飛んでくぞ軽いんだから!」
「じゃあイムちゃんを掴まずに繋ぎ止めろクソ野郎!」
「この非常時に意味わからねぇこと言うなお前がクソ野郎だ!!」
「サンジ怖ェ!」
「いやぁありがとうウソップ」
「ヨホホホ!ウソップさん私も飛んでっちゃいそうです!」
「オメェはさっきまで中にいたろ〜!」
「だぁって1人だけ中にいるのサビシーー!」
 舵を取っていたサンジがくっついているレイルスとウソップをめざとく発見し理不尽に怒鳴り散らす。彼も混乱しているのであろうことがわかる支離滅裂な要求は本当にめちゃくちゃで、レイルスにくっつきながら聞いていたチョッパーはサンジのヤバさに慄いた。呑気にお礼を告げるレイルスの方が異様である。レイルス自身もウソップに離されたら吹っ飛ばされる自信しかなかった、それくらいに船は波に揉まれており、気を抜けば海に放り出されることは間違いない。実際ブルックは三度ほど落ちかけてゾロやロビンに拾われていた。襲いかかって来るかのような遊蛇を斬る蹴る殴るなどの手段でいなしながらサニーを守り、なんとか海流を抜けた先。そこには雲の上まで伸びる赤い壁、レッドラインがどこまでも続いていた。


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投稿日:2022/0201
  更新日:2022/0201