十二の切口
ナミの海図で予想こそついていたレイルスも、これには目を見開いて驚いた。本当に水平に、どこまでも赤い壁が続いている。これが世界を分断する壁かと身を乗り出してまで見つめるレイルスに思わずルフィは声をあげて笑った。ふら、と持ち上がった両足をみて、フランキーが「危ねぇぞ」と襟首を掴んでやっている。
「やっぱいいなイム!餓鬼みてぇだ!!」
「言いたいことはわかるけど言い方……子供みたいにはしゃぐってことね」
「おうそれだ!」
キラキラと目を輝かせているレイルスを横目にナミが呆れたように言葉を訂正させる。餓鬼みたいは普通に失礼だ。目を煌めかせながら、レイルスは同じ地層がどうしてこうも人工的に見えるほど反り立っているのかが気になり、少しでいいから土を採取できないだろうかと考えていた。残念ながらレッドライン付近には海流が渦を巻いているためこれ以上の接近は難しい。
一味の次の目的地は魚人島。海底にあるらしいその島への行き方を探るべくフランキーが作成したソルジャードックシステム、シャークサブマージ三号と言う名の潜水艦で調査を開始した。レイルスはまだきちんと理解できていなかったが、その時潜水艦に乗り込んだのはロビン、ブルック、そしてルフィである。全員が漏れなく能力者のカナヅチだったがそれを気にする繊細さを持ち合わせたクルーは誰1人船にはいなかった。レイルスは初めて見る通信用のカタツムリだという生き物を見て興味深そうにツンツンとそれを突いている。
「イムは知らないのぉ?魚人島への行き方……」
「知ってると思うのぉ?」
「思わな〜い」
手詰まりとなって途方に暮れたナミがもたれかかるようにしてレイルスへべっとりと張り付く。ダメ元で聞いてはみたがナミの言い方を真似た言葉を返されて、ナミはトホホと涙を拭うふりをした。
「近くの島に行くのが一番いいと思うよ」
「……やっぱり?」
「この真下にあることが間違い無いのなら、近海に住む住人が知ってるでしょ」
そこでおろしてもらおうとこっそり思うレイルスだったがナミには筒抜けである。本当に降りちゃうのかしら、とナミはもやもやとした気持ちを抱く。どうしてこうもうちの女クルーは船から降りてしまうのだろう。ビビしかり、ロビンしかり。ナミは自分のことを棚に上げて憂いた。船まで盗んで逃亡したナミは人のことを言えない。海面に上がってきたルフィたちがきゃっきゃとはしゃいでいる。ルフィに目をつけられて逃げられるとは思っていないので少し楽観しようかとナミは美しい金髪越しに見える海を眺めながらニヤリと笑った。魚人島に行くにあたっての聴き込みが、ジャヤの二の舞にならないことだけ祈っておこう。新しい仲間については船長に任せるのが一番いい。
「ぎゃーー!!さっきの奴だーー!!」
「何連れてきてんのあんた達……」
とんでもない大きさの海王類が海面に姿を表した。普段であれば悲鳴をあげるところだが、オーズを見たせいで巨大生物への耐性ができた一味はそれを見上げるのみである。始めて海王類を目にしたレイルスだけがぽかんと口を開けて驚き、ナミに盾にされるがままその巨体を見上げた。耐性は出来たとはいえ嫌なものは嫌である。騒がないものの身の危険を感じたナミは、素直に自分を守ったのだった。うさぎのような頭部をしているが胸より下にはタイのような鱗。牙はウツボのようなギザギザとしておりその巨体はサニー号ほどの大きさがある。こちらを飲み込まんと襲いかかってきた海王類は、ルフィが吹き飛ばしたことによって気を失ったらしく海面に死んだようにひっくり返って浮かび上がった。
「ん?何か吐いたぞ?」
ルフィが殴った反動で海王類の口から飛び出した何か。見上げればちょうどサニー号の上に落下しようとしているそのシルエットを見てレイルスはまた驚きの声をあげたのだった。サンジの上に落下したそれは、人の上半身を持ち魚の下半身を持った、童話上の架空の生物――人魚だった。
「ああー!?人間の人潰しちゃったーー!!」
めちゃくちゃ元気である。麦わらの一味も人魚は「初めて見た」というが、W7でココロに会っている。失礼なほどにその事実を嫌がる男メンツにナミが呆れたが、それでも全員が驚きの表情で彼女を見つめる。サンジはメロメロと顔色を真っ赤に染めた。レイルスは正面からサンジのその状態を初めて見てなるほど女好きなのかとようやっと理解したのだった。
「ところでお前、うんこ出んのか?」
「ああ、うんこは」
「でなぁーーい!!」
出ない方が問題だろうと冷静なレイルスはサンジの大声に呆れた。どうやら人魚に多大なる夢を見ているらしい。人魚はケイミーと名乗り、一緒に助けられたのはヒトデでペットで、師匠であるパッパグだと紹介した。どう言うことだ。理解に苦しむ関係性にレイルスはチラッと件のヒトデに目を向けた。歌うパッパグを無視してケイミーの話に耳を傾ける一味にパッパグは落ち込んでいた。レイルスもパッパグからケイミーに視線を戻して話しかける。
「陸にいて大丈夫なの?鱗が乾いたりしない?」
「大丈夫だよぉ、あんまり長いと乾くけど!」
乾くのか、質問したレイルスはそれは大丈夫なのかと少し心配になった。見ればまだ彼女の鱗は濡れて綺麗に輝いている。魚と同じように考えるのはダメかもしれないが、魚にとって人間の体温は火傷をするレベルだと知っているレイルスとしては下手に手も出しにくい。ううんと悩んで結局はニコニコと笑うケイミーに笑顔を返すにとどまった。ケイミーは心配されたことに嬉しそうに笑っている。
「楽園かここは……!」
微笑みあっている2人をみて喜びでぐるぐると体を回すサンジを無視し、ケイミーは助けてくれたお礼にたこ焼きをご馳走すると提案し、かばんの中からカタツムリを取り出した。持ち運ぶものなのかとレイルスはまたもや目を剥く。潰れないのだろうか、というか海水で解けないのかこの生き物は。カタツムリだと思っていたために前提が覆されたレイルスは一人唸った。
しかしここで問題が発生する、なんとケイミーのバイト先のたこ焼き屋の店主である「はっちん」が人攫いのマクロ一味に囚われたらしい。タコの魚人だというはっちんを売り飛ばすというマクロにケイミーの顔色が変わる。トビウオライダーズと手を組んだと言うマクロは、明らかにケイミーを誘導するように言葉を続ける。ご丁寧に現在地まで教えて、助けに来いと。
「で?たこ焼きは?」
「それどころじゃねーだろ!!」
ルフィの空気を読まないいっそ薄情な発言に、クルーからのツッコミが入った。
投稿日:2022/0202
更新日:2022/0202