命を繋ぐ縄
再びトビウオライダーズの手を借りて海軍の包囲網を抜けることとなった麦わらの一味は、誰1人かけることなくシャッキーのぼったくりバーへと集結していた。そしてコーティング職人であるレイリーが、海賊王ゴールド・ロジャーの船に乗っていた副船、生きる伝説であるシルバーズ・レイリーであることを知る。誰もが知るというその名前にレイルスはボケっとしたまま有名人らしいと言うことだけ理解した。海賊王が処刑された本当の経緯、双子岬で出会ったクロッカス、シャンクスやバキーまでもが海賊王の船に乗っていたのだという新事実。一味は色々な情報に驚き、興奮で身を震わせたルフィはニッと楽しそうに笑う。ロビンが空白の100年について、ウソップがワンピースについてそれぞれ問いかけて結局答えを貰わずにいることを選択する。レイルスにとっては全ての会話が謎だらけで黙って情報を頭に詰め込むことに集中していたのだが、レイリーから声をかけられてその詰め込み作業を一旦中止する。
「でだ、お嬢ちゃん、まず名前は?」
「こいつはイムだ!」
「イム?」
ルフィが何かを感じ取ったのか突然レイルスの肩を組んでなぜか代わりにレイルスの呼び名を叫ぶ。レイリーは今まで穏やかにしていた表情をグッと渋いものにする。その理由がわからないレイルスはルフィの腕を外しながら口をひらく。
「レイルス・ホーエンハイム」
「それでイム、か……レイルスちゃんでいいかな」
「どうぞ」
片眉をあげて怪訝な表情を作ったレイルス。サンジとナミ、そしてロビンはそのやりとりからもしやと顔を驚きに染める。
「ちょ、ちょっと待ってレイリーさん」
「ああ、俺も一つ聞きてぇ」
「「そっちが名前なの/か!?」」
声を揃えた2人にああそのこと、とレイルスは肯定を示す。それにギョッとしたのはチョッパーとブルックで、まさか彼女の名前だと思っていたそれが苗字だったとは思ってもいなかったのでええ!?と驚く。
「なん、なんだそうだったのか……」
偽名を名乗られていたと思っていたサンジはぐったりとソファで体を伸ばす。確かに考えてみれば、ホーエンハイムなんてかなり珍しい名前だ、姓だと言われればまだ違和感も少ない。気が付かなかった自分にサンジは頭をクシャクシャと掻き乱して後悔し始める。ナミも呼んでも反応の悪かった理由を知り安堵に似た空気を吐き出した。なんで言わないんだこの女はと少し理不尽に怒りも湧いたがルフィとウソップが訳がわからないような顔をしていたので説明のために口を開いた。
「ルフィ、あんたモンキーの『モン』って呼ばれて反応できる?」
「あ?できねぇよそんなの」
「イムって呼び方がそうなのよ」
「だからお前呼んでも返事しなかったのか!!」
まさかルフィがそれに気が付いているとは。妙なところで感がいいルフィのそれがしっかり働いていたらしい。ウソップも理解できたらしく手をぽん、と音を立ててなるほどと呟いた。ロビンは名前と姓が逆となっている地方などあっただろうかと考え込むも、レイルスの故郷の名はすでに聞いていたと思い出す。アメストリス。レイルスはそういった、そしてロビンはその名前を知らない。
「それでだ、君のその金髪と……特にその瞳、あまり晒さない方が賢明だ」
「なんでか聞いても?」
「オークション会場にいたからわかると思うが、天竜人は君を確実に狙う」
理由の答えになっていない。レイルスは顔を歪めて何かを知っているらしい男を睨みあげる。座っていても十分に巨体な男、老いているとはいえそう見えないほどの空気と威圧感を放っているがそれに臆することなくレイルスはじっとレイリーを鋭い眼光で貫く。シャッキーはその視線を見て思わずクスリと笑ってしまった。
「あんたは、こいつが狙われている理由を知ってるんだな」
「ああ」
意外にも話に割り込んだのはゾロで、一味は固唾を飲んでやりとりを見つめる。
「話せない理由なのか?」
「知らない方が身のためではあるな、レイルスちゃん自身に思い当たる節はあるかい?」
話しておいてレイルスへと話を振ったレイリーにルフィはレイルスに目を向ける。話の中心であるレイルスはその瞼を下ろしており、晒すなと言われた瞳が隠れている。ルフィは「勿体ねぇな、なんで隠すんだよ」と首を傾げた。
「目って言ったよね」
「言ったな」
「ああ、うんそれならぼんやりとは」
目を開けたレイルスはその視線を天井へと向けて、どこか遠くを見るように視線を飛ばす。レイリーはまさかそう返されるとは思ってもいなかったので少し驚きながら、面白そうに口角をあげた。どうやら思っているよりもずっとこの子は賢いようである。
「生まれかぁ」
結論を口に出したレイルスの声は淡々としている。その言葉に眉を顰めたのはサンジとルフィ。思うところがあった2人はじっとレイルスの様子を見つめるも、レイルスはそれを静かに受け止めるのみで嘆きすらしていない。どういった理由なのか、どう言った生まれなのか。多くを語らないレイルスにヤキモキとさせられたウソップは耐えきれずに口を開いた。
「生まれって……天竜人が目をつけるような血筋なのかよ」
「血筋ってほど立派じゃないよ」
ただこの目の色をした人々の住む国がとっくの昔に滅んでいるというだけ。レイルスは内心でそう付け足す。そしてこの目を持つということは、もれなく「ホーエンハイム」の関係者であるということだ。視線を前に戻したレイルスは静かな目で語る。
「私が知る限り3人」
知る限り、とはクッションのような言葉は入れたものの確実に3人だけだろうことをレイルスは確信している。1人考えだしたレイルスを見ながら、一味は物珍しさで値段が上がるというヒューマンショップの制度を思い出して顔を歪めた。珍しさのみで狙われるなど理解ができない。
「えっとレイリーさん」
「気軽にレイさんと呼んでくれて構わんよ」
セクハラをされた事を許してはいないレイルスはレイリーの提案を黙殺した。
「天竜人は欲しがっているものがある?」
「そうだな、あいつらはいつも色々なものを欲してるよ」
「それって形があるもの?」
「名声や権力のように、形がないものももちろん」
「自分たちの死は怖がる?」
「……多くの人が嫌がるものだろうな」
「なるほどわかった」
「何がわかったんだ今ので!!」
当たり前のような、普通のやりとり。いやに緊迫した空気だったが、ふわふわした質問のまま終わった問答に思わずウソップが突っ込んだ。それがおかしくて笑い出したルフィに、釣られて笑うブルック。レイリーは1人、レイルスが本当にわかったのだろうことを理解して背筋を泡立たせた。知らない方が身のためだという言葉の意味を、レイルスは正しく理解した。だからこそ、一味の誰が聞いてもわけがわからないような遠回しな質問で、聞ける限りのことを確かめた。レイリーだってレイルスについての全てを把握できているとは思っていない。それでも自分たちの旅の中で知り得た情報の中で、無関係ではいられないであろう目の前の少女をお節介にも心配なんてしていたのだが。
「不要だったかもな」
「レイルスちゃんもいいわね、こんなに頭の回る子って珍しいわ」
にしても、レイルスの知る限りで3人しかいないというセリフについてはレイリーも少し驚いたのだが、レイルスはぼんやりと空を見つめていたせいで気がついていない。年甲斐もなく過去の冒険をしていた時のように謎の匂いと知りたいという欲求が身を焦がしたが、当事者のレイルスがこれだけ譲歩しているのだから野暮だろうとレイリーは身を引いた。
投稿日:2022/0207
更新日:2022/0207