命を繋ぐ縄


 天竜人に直接手を出してしまった以上、海軍の目が増えることもそうだが大将がこの島に来るのも時間の問題となってしまった。船のコーティングには最速でも3日かかるということで一味は一旦ばらけて身を潜めることとなった。
「これを渡しておこう」
「これ……ビブルカード?」
 レイリーが一味の全員に小さな紙を渡していく。別名命の紙と呼ばれるそれのことをスリラーバーグにて知った一味はなるほどとそれを受け取る。レイリーも船を移動させながらコーティングする可能性があるということで、レイリーの居場所の指す紙を辿って3日後に集合しようと話がまとまった。そこで待ったをかけたのがレイルスである。
「いやいらない」
 レイリーのビブルカードをそっと押し返すレイルスを見てチョッパーがまさかセクハラのせいかと内心で慄く。レイルスはそのまま振り返りまっすぐにルフィに目を向けた。
「ルフィ、ここまで乗せてくれてありがとう」
 話の流れで、ほとんど全員が驚いた顔をする。まさか仲間ではなかったとは思っていなかったレイリーやハチもそうだが、麦わらの一味でもまさか今このタイミングでこの話をされるとは思わずルフィ以外が息を呑んだ。レイルスもここまで話を引きずってしまって申し訳なかったが、それもここまでだと腰を上げた。
「ここで別れるよ」
「なんでだ?」
 声をあげて怒るでもなく、本当に不思議そうな表情でルフィが首を傾げる。表情こそ平素とあまり変わらないが、仁王立ちし入口を背にして腕を組んでいるあたりレイルスを外に出す気はないらしい。なんでと言われたレイルスは言葉を選ぶようにして口を閉じる。その間にもルフィは質問を重ねる。
「いやじゃねぇんだろ?旅だって嫌いじゃねーし、いろんなもん見たいだろお前」
 なんで、改めてそう問われてレイルスは初めてどうしてと自分に問いかける。ルフィのいう通り色々なものを見て知ることは嫌いじゃないし、旅が嫌いなわけでもない。それでも、今までずっと目的のために進み続けてきた。その目的が、今この世界にはないのだ。帰る見立てが立たない以上、やるべきことのために突き進んできたレイルスは自分でもどうしていいのか見失いかけている。それに。
「ずっと1人だった」
 ずっと、ずっと。だからこそ今更誰かと一緒に旅をするという自分の姿が想像できない。ロビンのいう通り彼らの気の良さもいやというほど知ったし、居心地が悪くないというのも本当だ。しかしそれ以上に違和感の方がずっと強い。レイリーの話から、話せないことも多そうだと察したレイルスは自分の問題が別に浮上してくる事も加味して1人頷く。
「1人の方が気楽」
 ヘラっと笑ってそういうレイルスにルフィは動かない。一味全員が静かにレイルスの言葉を聞いて、各々じっと考えるように黙り込む。シャッキーだけが面白そうに笑いながら、長くなったタバコの灰を灰皿へと落とした。
「あのなー」
 大きくため息を吐き出して、心底呆れたように話し始めたルフィはまるでレイルスがわがままを言っているような顔をして組んでいた腕を解いた。一歩、レイルスへと足を進める。
「理由になんねぇ!!」
 カウンターの前に立っていたレイルスの真横で、ダン、とルフィの拳が下される。置かれていたコップが跳ね上がるようにして一瞬浮くほどの力に、ギョッとレイルスが目を剥いた。思わず後退ってしまったレイルスを咎めるように反対の腕でルフィがレイルスを捕まえる。
「1人がいいっていう奴が!お前みたいに血まみれになるか!!」
 スリラーバーグで仲間を庇ってくれていたのを、ルフィは野生の勘で感じ取っていた。人のために怪我をするような奴が1人になりたがるわけがあるか。ルフィはどうしてか、小さい時のエースのことを思い出していた。1人になりたがって、どれだけ追いかけても無視されて追い返されて置いていかれて。それでも本当に危なくなった時には命をかけてまで助けてくれた。似ているわけではないし状況も全く違う。それでも幼い時に感じていた歯痒さや、やるせなさ、どうしようもない不安感がずっとルフィを襲っていた。
「俺たちと来れない理由を言えないんなら俺は絶対におろさねぇぞ!いいか!!」
「1人が楽なんだって……」
「それは理由じゃねえ!」
「ええ……」
 ふんすと鼻息を荒くして掴んでいた腕を解放したルフィだったが、レイルスが動こうとするとそれを止めるようにして腕を出してくる。首を縦に振るまで梃子でも動かないとばかりの態度にさすがのレイルスも絶句した。なんだってここまで船に乗せようとしているのか、全くもって理解ができないレイルスは助けを求めるように他へと視線を向ける。目の合う一味全員がもれなくニヤリと不敵に笑っていたので顔を顰めて再びルフィへと目を向ける。
「私は帰る道を探してる」
「おう、あてがないんだろ?だから乗ればいい」
「手がかりが見つかりそうで、それが船の進路と違うのならその時点で降りるかもよ」
「だったら一緒に探しにいくよ、仲間だろ」
 舌鋒鋭く論じていたレイルスの声が詰まった。ルフィがこうと決めたら折れないのはもちろんだが、そこに芯が一本しっかり通っているからこそ曲がらないしブレないのだということを痛いほど知っている一味はニッと笑う。レイルスはルフィに口で挑んだ時点で負けているのだ。このバカを言いまかすなんて、どれだけ頭が良くても到底無理な話。何を言っても理解できないほどばかで、自分の主張しか通す気がないのだから。
「わかった」
「じゃあ!!」
「ただし!!」
 今度はレイルスがルフィの腕をガシっと掴む。喜びで飛びあがろうとしていたルフィはそのレイルスの声に口をピタッと閉じた。
「私が、賞金首になって……かつ、ルフィより額が下なら乗る」
「それならいいんだな!?言ったな!?」
 結構ハードルが高いだろう条件をつけたのにもかかわらずルフィは食い気味にレイルスへ詰め寄る。レイルスは賞金首になるつもりが頭からない。海軍に見つからなければいいのだから。それでもヘマをしてもしお尋ね者になるのであれば、その時はしょうがないという妥協案だった。レイルスもルフィの額より上回ることなどないと言うのはわかっているので後半の条件はついでのように口に出ただけだった。
「何時までが条件だ」
「出航までだと3日後だろ、そりゃないぜ?な?」
「島を3つこえて、4つ目に着くまでは?」
「野郎ども!イムが仲間になったゾォ!!」
「まだなってない!!」



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投稿日:2022/0208
  更新日:2022/0208