反逆者のダンス

 一瞬の出来事に何が起こったのかも分からない一味は、あたりを見渡してゾロを探す。一度その光景を見たことのあったナミとレイルスだけがグッと顔色を悪くして言葉を飲み込んだ。レイルスは必死に頭を回転させ、状況を判断しようをあたりに視線を巡らせる。仲間だというのに、どうしてか顔を怪訝に歪める戦桃丸。レイリーと戦いながらもこちらの状況に目を向けてくる黄猿の表情も読み取りにくい物ではあるが晴れたものではない。巨体で正体を無くしたように暴れるのは、チョッパーか。ところ構わず手を振り下ろして暴れる姿は普段のものとは程遠い。
 レイルスはチョッパーから目を逸らしてスリラーバーグでのくまを思い出す。瞬きの間に音もなく移動していた姿がありありと浮かび、レイルスはくまに自分だけではなく触れたものを移動させる能力がある可能性を弾き出す。
 飛ばした、どこに。なんのために。それができるのであればスリラーバーグでなぜやらなかった。今、どうして。パッとレイルスの思考が弾ける。シャボン玉が割れる音が耳に届くほど、一味は静かにゾロがいなくなったという事実に直面する。理解ができても思考が追いついていないのであろう。
「お前、ゾロを何処にやったーー!!」
 一瞬我に帰るのが早かったウソップが絶望に顔を染めてくまに大声で怒鳴る。声には焦りと怒りと恐怖。そんなウソップに答えることなく、どすどすと音を立てて、くまが前へと足を進めた。背後から光線を放とうとしているPX-1に気がつかなかったウソップは、サンジとブルックの声に慌てて後ろを振り返る。今にも飛んできそうな光線にウソップはやられる、と息を止めたがPX-1すらもくまはどこかへと飛ばしてしまった。
「仲間まで、消した!?」
「テメェ味方に何やってんだくま公!!」
 サンジの呆然とした声と戦桃丸の罵声がレイルスに届く。戦桃丸のその声にレイルスの中での確信が高まる。ゾロが消されてしまった中足が動かないクルーにルフィが声を荒げた。
「走れ、4人とも!!」
 1番まずいのは「あの」くまに近い4人だ。サンジもレイルスも走れる力が残っているかわからないけれどそう叫ぶしかできないルフィは血を吐くような勢いで声を飛ばす。
「あとは助かってから考えろ……!いけぇええ!!」
 でもと足を止めようとするメンバーもいれば、ルフィの言葉を理解して離脱のために目を走らせるメンバーもいる中、レイルスは静かに成り行きを見守った。やはり立ち上がることすらできそうにないサンジにウソップが肩を貸してなんとか逃げようとするも、くまの足は止まらない。そしてウソップは、その足がレイルスの方へと向けられていることに気がついてドッと背中に冷や汗を流した。
「おい、お前!そっち行くな、そこには……!」
 不自然に盛り上がった地面に身をもたれかけて立ち上がるレイルス。ゾロのバンダナも首元にずり落ちている、サングラスも割れてはいないものの下がっており、上目遣いに爛々とひかる金色の目がくまを射抜く。まっすぐにくまへと視線を向けるレイルスの表情は息こそ上がっているが堂々としたもので遠目にそれを見たナミは思わず足を止めて悲鳴をあげる。
「レイルス!!」
「鉱、お前はどこに行きたい」
「レイルスちゃん、逃げろ……!!」
「レイルスさん……!」
 まるで立ち向かうようにしているレイルスにくま越しにそれを見せられたサンジはグッと声を詰まらせる。ブルックがなんとかそちらへ向かおうとして立ち上がるも、どこか骨が折れたのだろう、がくりと不自然な倒れ方をしてしまう。
「……逆に聞きたい」
 海軍大将から姿を隠すように、目の前に立ち塞がる巨体を見上げる。目が回るほど次から次へと色々なことが起こる世界。何もかも知らない世界。綺麗なものや楽しいこともたくさんあったけれど、残酷なほどに汚い部分まで気がついてしまったレイルスは静かな声でくまに問いかけた。ぺ、と口に溜まった血を地面へと吐き出す。下唇が鮮血で赤く染まり、背景とのアンバランスさが不自然な程にレイルスの唇の動きをくっきりと見せる。
「知るには、どこにいけばいい」
 知りたいと思った。ルフィたちがこうも全力で生きている世界で、何が渦巻いているのか。自分は何に巻き込まれているのか。知らなければならないと強く感じた。レイルスのその問いかけは幸か不幸かくまにだけに届く。最後にふっと笑ってみせたくまのその顔も、レイルスしか見ていない。大きく息を吸い込んだレイルスはニヤリと、状況に不釣り合いな笑顔を浮かべてその場から掻き消えたのだった。


 - return - 

投稿日:2022/0212
  更新日:2022/0212