支配の剣
白ひげの能力によって起きた津波に乗り、その波が青雉によって高波ごと凍らされた結果、空から船ごと降ってくるというこれでもかというほど注目を浴びる登場をしたルフィ。インペルダウンへエースを救いに行ったのだが、入れ違うようにしてエースがマリンフォードに連行されてしまい、軍艦を占拠していそぎやっとマリンフォードまでやってきた。上空から軍艦が降ってきたことに、戦場はさらに混乱が巻き起こる。
ルフィは戦場にやっと兄の姿を見つける。喧騒の中、それでも声を張り上げる。不思議とエースまで届いたルフィの声にエースは絶望を浮かべた。なんできた、なんできてしまったんだ。こんな場所に、どうして。そしてその声に海軍も、軍艦に乗ってきた連中がインペルダウンからの脱獄者だと気がつき顔色を悪くさせた。元七武海のクロコダイルにジンベエ、革命軍のイワンコフという異色のメンツは警戒をせざるを得ないものだった。
ルフィが白ひげに啖呵をきる場面こそ、その場に居合わせたほとんど全員の度肝を抜いたがそのあとほとんど一直線にエースへと向かっていくルフィに海賊たちは鼓舞されたように勢いがつく。愚直にも敵へと突っ込んでいくルフィの動きは無謀そのもので、大将黄猿からも逃げようとしない様子にイワンコフが咄嗟にルフィを吹き飛ばす。
「大丈夫かい!?麦わらボーイ!」
「ありがとうイワちゃん!」
「ヴァタージの使命は!ヴァナタを死なせないことだっきゃブル!なんど言わせんのよ!!」
革命軍のリーダーであるドラゴンの息子であるルフィを殺させることなど断じてできないイワンコフは無茶苦茶をするルフィに冷や汗を流す。そこへ、七武海として召集されたくまがレーザーを放つ。イワンコフは立場があるとはいえまさか同胞から攻撃をされるとは思っていなかったため内心で悪態をつきながらルフィを先へ行くようにと促した。これが、奇しくも革命軍がくまの現状を知る場となったのだった。
「来るな!ルフィ!!」
突き進むたびにボロボロになっていくルフィに耐えきれずに声を上げたエースの言葉に初めてルフィの足が止まった。
「わかってるはずだぞ!俺もお前も海賊なんだ……!!思うままの海へ進んだはずだ!!俺には俺の冒険がある!俺には俺の仲間がいる……!」
その言葉は、ルフィがスリラーバーグでエースのビブルカードを見たときに仲間にいった言葉と酷く似ていた。怒られちまう、と言っていたルフィの予想以上にエースは必死の形相でルフィへと怒鳴る。しかしルフィだって、そんなことわかった上でここにいるのだ。エースがいいそうなことなど、思うことなどちゃんとルフィは理解していた。
不思議と戦場に大きく響いたその声は、地下にいたレイルスの耳にも届いた。先ほどレイルスが掘っていた場所に大砲が撃ち込まれたせいで大穴が開けられていたため、そこから声が入って来たのだ。同時にやっとルフィが到着したこともしり暗がりの中ほっと息をつく。そして、エースの言葉に土で汚れた頬をやんわりと緩める。
「お前に!立ち入られる筋合いはねぇ……!お前みたいな弱虫が、俺を助けにくるなんて、それを俺が、許すとでも思ってんのか……!」
ああ、痛いほどにわかる。息が詰まるほどに共感できる。やるせない気持ちの吐露はレイルスが予感していた通り、エースのやり場のない己への怒りで染まっていた。弟をこんな場所に引き連れてしまった自分自身が許せない、なんとか今からでも引き返してほしいと強く思う。たとえこれが最後の言葉となったっていい、恨まれたって構いはしない。それでも生きていってくれるのならなんだっていいという思いが勝手に言葉として這い上がってくる。
「(こうあるべき、なんだろうな)」
レイルスは震えそうになる手を見下ろして自嘲を浮かべた。レイルスはエースとルフィほど、まっすぐな言葉も交わさなかったし向き合わなかった。エースほど綺麗に自分の弟と付き合えなかったレイルスは少し羨ましく思うほど、彼の言葉はルフィを思う気持ちで溢れていた。言葉だけでもそれがわかるほど、エースの言葉が素直だったというのもある。不器用だけれどもレイルスにはエースの言葉が愛の言葉にしか聞こえなかった。怒鳴り声の一言一句全てにルフィへの想いが込められている。
「帰れェ!ルフィ!!」
「俺は……!!弟だァ!!」
足を進め始めたルフィが、血を吐くようにして叫ぶ。レイルスは眩しいものを見るように真っ暗な地中で地面の上を見上げた。羨ましいと素直に思っても、妬みこそしないレイルスの顔は晴れやかなもの。レイルス自身では叶わなかった兄弟の形を目の前にして、薄暗い気持ちを微塵を持たないところがレイルスの美点とも言えた。それほどまでにレイルスにとっては遠い理想だったとも言える。あまりに遠い理想であれば、人間は自ずと諦める。レイルスも例外なくそうだった。
レイルスと兄弟の関係はもうほぼ他人と言ってもいいほど希薄なものだ。下の弟の方は心根が優しいこともあってまだ捨てきれずにいてくれているようだったが、上の方とは数年単位で話していない。あれもあれで、優しい故にそういう態度を取らせてしまっていると言うのもレイルスはきちんと理解している。兄弟の間に溝を入れたのはレイルスだからだ。
戦場には策略と憎悪、血が蔓延る。1秒ごとに変化する戦況を、エースは静かに見下ろす。差し伸べられる手も、処刑の刃もなんだって受け入れる。ルフィの叫びと船の仲間達が止まらないことを悟り、エースは争うことをやめた。隣でエースの様子を見ていたガープは誇らしく思うと同時、歯痒い思いに襲われる。センゴクも思うところがあり、ガープとともに沈黙を保った。自然、処刑台の上は喧騒を背景に無音となる。
投稿日:2022/0221
更新日:2022/0221