揺れない天秤


 マルコがここからでも地上の様子がある程度わかると聞いたレイルスは、地下からそのまま行くという手を改めて検討する。しかし少しでもタイミングをずらしてしまったり、状況が分からないレイルスの錬成が遅れるリスクを思うと結局は地上にでることが必要不可欠であるという結論に至る。戦場を把握できいつでも文字通り飛んでいけるというマルコの背に乗るという案はとっさのものとはいえ最良ともいえた。
 ドゴっと凄まじい破壊音と土煙をあげて地上へと一気に飛び上がったマルコは、背中にしがみつく小さな体をできる限り隠すように炎を派手に巻き上げた。
「マルコ隊長〜!!」
「どこ行ってやがったんだよぉ!!無事でよかったこんちくしょう!」
 やんやと仲間から歓声が上がる。マルコはそれらに応えるように光を降らせて旋回する。白ひげの無事を確認して一先ず安堵したマルコは背中のレイルスの希望のもと、できる限り上空へと飛ぶ。
「おっと、予想通り黄猿だよい!」
 黄猿からの光線が飛んでくるのも織り込み済みである。そもそもマルコには効かないものではあるが、どうやら背中のレイルスの存在に気がついているようで何度も光線が打ち込まれてくる。下から突き上げてくる光線は容赦なくレイルスをかすめて行く。マルコの背中の上でできる限り小さくなりながらしがみついているレイルスは頬を掠った光線に思わず唸る。チリ、と頬に一線が走る。
「う、」
「気張れよい!」
 エースの弟は、とマルコは目を走らせる。処刑台へと続く坂道が出来上がっていることに気がつく。ルフィと共にインペルダウンから脱出してきた革命軍のイナズマの能力によるものだ。そこを駆け上がる影、間違いないルフィだ。下を確認する余裕も無くなったレイルスが痛みに呻く。マルコの炎で同時に治癒もしているが限界がある。幸いだったのが他の大将が白ひげの隊長格を相手取っているためにマルコ達に攻撃を浴びせてくるのが黄猿だけだという点ではあるがよりにもよって、である。マルコが舌打ちをこぼすと同時、黄猿の攻撃が止まった。
「親父……!」
 振り返った先で白ひげが黄猿に攻撃を仕掛けているのがチラリと見えたマルコは、誇らしさで胸が詰まりそうになった。これだけ離れた位置にいるというのに、マルコが背中に誰かを乗せているということに気がついたようだ。でなければここで助太刀はない、マルコの行動を信じているからこそのそれに自然と前へと羽ばたく力が強くなる。
 立ちはだかった実の祖父であるガープを殴り飛ばし、辿り着いた処刑台の上。ルフィは遂にエースの元に辿り着き、ハンコックから受け取っていたエースの手錠の鍵を差し込もうとしていた。しかしその場には元帥センゴク、それを許す男ではない。
「エースの弟は着いてる!がありゃヤベェ!」
 攻撃が止んだことでそっと顔を上げたレイルスはセンゴクが黄金にギラギラと輝いているのを目撃し目を見開いた。巨大化したセンゴクの足元にはエースとルフィ。ルフィが持っていた鍵は黄猿が光線で砕いてしまった。センゴクは今にもその場の全員を押し潰さんという気迫でルフィとエースを見下ろしている。
「あそこに落として!!」
「あぁ!?死ぬ気か!?」
 早く!と背中で怒鳴るレイルスにマルコはヤケになって一気に処刑台まで急降下する。
「死ぬなよい、嬢ちゃん!!」
 返事をするようにグッとマルコを握っていた手に力を込めたレイルスはそのままマルコの背中から飛び降りる。転がるようにエースにぶつかって止まったレイルスは息つく間もなく四つん這いのまま手を処刑台へと叩きつけた。マルコもそのまま手助けしようと接近するも、黄猿の光線がまたもしつこくマルコを狙い始めたせいで下手に近寄れない。マルコにダメージがなくとも生身のエースに当たるとまずい。舌打ちを一つ落とし、マルコは処刑台からグッと離れた。
「ルフィ!」
「イム……!」
 ルフィの呼び声にセンゴクが目を見開く。しかしセンゴクがリアクションをする前にレイルスの錬成がセンゴクに襲いかかっていた。ルフィはレイルスが言っていたことを思い出す、処刑台が壊れる。バチバチと光る稲妻のような光を掻き分けるように足を進め、慌ててエースを手繰り寄せたルフィは突然の浮遊感に思わず「うわぁ!」と声をあげる。階段を踏み外したような感覚にルフィは足元を見下ろして驚愕に目を見開く。
「なん、だこれは!」
 突然押し上げられるように地面そのものに吹き飛ばされたセンゴクはギョッとした声をあげる。センゴクだけを押し上げて、同時に他の人間が立つ場所を粉々に破壊したレイルス。崩した足場でさらにセンゴクを持ち上げる材料にして距離をとろうと頭を回す。落下するのはルフィ、手錠に繋がれたままのエース、そして処刑人に扮していたミスタースリー。彼の目の前に、折れた鍵の先端が舞った。
「ここにいる理由が、亡き同胞のためだと言ったら笑うカネ!?」
「笑うわけねぇ!!」
 インペルダウンにて麦わらをダチだからという理由で逃すため、1人マゼランの元に残ることを決めていたミスターツーことボン・クレー。ともにクロコダイルのもとで働いていた同胞は、友のためにと立派に死んでいった。弔いというわけではない、ただこのまま麦わらが兄を救えずに死んだとしたら、あまりにもボン・クレーの死が無駄になる。そう思ったミスタースリーはこの戦場において最も危険とも言える元帥の目の前にまで来たのであった。
 ミスタースリーの能力で作られた鍵を手に入れたルフィはそれをエースへと向ける。しかしセンゴクもそれを目撃していたのであろう、足場から飛び降りて巨大な拳が再び振り下ろされてくる。
「邪魔、すんな!」
 落下しながら、瓦礫を足で蹴り上げたレイルスがそれを拳で殴る。途端、棒状にのびた石がセンゴクの顔面に直撃した。巨大なセンゴクの腕のリーチ以上の長さに伸びた石に、センゴクの黄金の腕が空を切った。しかしその腕に当たった鉄の塊がレイルスの足に運悪くぶつかる。痛みで歯を食いしばるレイルスはそれでも懸命に落下の衝撃に備えようと目を凝らしていた。エースはルフィが抱えられる、ここで万が一誰かが脚を折るなんてことになったら最悪だ。着地に備え両手を伸ばそうとした時、レイルスの身体がなにかに引き寄せられた。
 ハッとして顔を正面に向けたその視界を、真っ赤な炎が踊るように覆った。


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投稿日:2022/0226
  更新日:2022/0226