孤独への凱旋
ポーラータングの医療設備は白ひげの船の設備よりも整っていた。厳密に言えばモビーディックにはここまでの機械を乗せる必要がなかったのだ。マルコがいた事もあり軽い怪我であれば医者要らずだったことに加え、大きな怪我を負った場合にはすぐに近くの縄張りへ移動して島の病院に行って治療を行えた。色々な要因があったが、わざわざ管理が難しい機器を船に乗せるメリットが見いだせなかったことから、四皇の船といってもここまで本格的な機械を揃えていなかった。
船内の設備に驚愕しながらもマルコは表情に出すことなくレイルスを診察台へ慎重に下す。ルフィとジンベエはオペ室、二つ隣の部屋にいると聞いてチラリと見たが今いる場所以上に精密機械が並んでいた。外科医というだけはある。
「キャプテン!輸血パック持ってきた!」
ベポがドタドタ足音を響かせながら部屋の前から声をかけてくる。オペの際、毛が混入してしまう恐れがあることからベポは部屋へは入って来られないのだ。クルーがすかさず扉に向かい、パックを受け取った。十分な量のあるそれにマルコは安堵する。その間にもローは手袋をはめて準備をし始め、他のクルーは器具を手際よく並べている。マルコは手伝おうかと思っていたものの、この船のやり方があるだろうということと、全員が役割を持って動いていることに気がついて大人しく腰を落とした。
「『スキャン』」
ローが能力を発動させる。売れば50億ベリーにもなるというオペオペの実のことはマルコも知っていた。かつてノースブルーで、ドンキホーテ・ドフラミンゴが取引で手に入れようとして失敗したと、風の噂で聞き及んでいたそれをどういう経緯かこの男が喰った。
「肋が2本、鎖骨に罅、その他諸々あるが……それ以上に内臓への鬱血が酷いな、破裂してないのが不思議なくらいだ」
「全身麻酔準備しやしたよキャプテン」
「一旦切り出す、ウニ、お前胃と脾臓の鬱血をみろ」
「アイアイ」
「イッカク、俺の部屋からセルトラレン持ってきて点滴に混ぜておけ」
「アイアイ!」
ハサミで腕に巻かれた包帯と共に服も切ってしまう。女の肌にしては傷が多い。マリンフォードで負ったのであろう真新しいものもあれば、すっかり塞がっているものの肌が変色している部分もある。ローもマルコもそっと顔を顰めた。
「『メス』」
初めてその能力を目にしたマルコは「おお」と感嘆の声をあげる。ローの手には内臓が収まっていたのだ。胃だろうか、ローが先ほど発言していた通り、色が黒く変色してしまっている部分がある。内臓にまで鬱血の跡が見えるほどの威力、そんな体でよく動いていたものだとマルコは改めてレイルスの無茶を目にしてため息を吐き出す。
「おい不死鳥屋、お前の炎の効果は」
「傷はある程度癒せるが無くなったもんを復活させんのは無理だよい」
「ウニ、お前不死鳥屋の隣でやれ」
「…………」
「刻むぞ」
「あ、あいあい……」
恐々と寄ってきたクルーが胃と脾臓の乗ったトレーを腕に抱えて隣へと寄ってくる。そこに炎を灯してやればギョッと一度足を引っ込めたが、ローからの鋭い視線が背中に刺さりやけのようにマルコの隣にどしりと腰を落とした。
「燃やすなよ!」
震えながら縫合のための針と糸を手にしながらそう声をかけてくるクルーを見てマルコは無表情で不死鳥の炎を手に灯しそれをレイルスの内臓にかざす。自分が燃やされるものいやだがまさか患者の内臓を燃やされるとは思ってもいなかったウニは悲鳴をあげかけてなんとか飲み込む。ローの能力を把握しているからこそ、ローがそれを許したからこそ大丈夫なんだと言い聞かせて傷を塞ごうと目を向け、驚愕に目を開いた。
「う、鬱血が!傷も小さく……!」
みるみるうちに塞がっていく傷に驚きの声をあげる。これならと眺めていたが、一定のところで傷が塞がらなくなる。これが限界値だ、と告げたマルコにウニは頷いて針を手に取る。さっきまでビビっていたのに、なるほど最悪の世代と騒がれる船のクルーなだけはあるとマルコは内心で笑った。
ローはあらわになった左腕の断面を思わず睨みつけてしまう。普通の炎で焼かれてもこうならない。溶岩に焼かれた傷口とはこんなことになるのか、と一部炭化している骨を見ながら思案する。これでは切らなければダメだ。横からその傷を見てしまったクルーが顔色を悪くした。一度見ていたマルコでさえも顔が強張る。
「……吐くなら外に行け」
ローが静かにいった言葉に、クルーが1人部屋の外へと駆けていく。手術に慣れているようなものが見ても、レイルスの腕の様子は酷いものだった。
「全員、気を引き締めろ」
立て続けに本日3本目のオペ。誰よりも疲労があるだろうキャプテンの言葉にクルーは心して掛け声を上げた。
投稿日:2022/0302
更新日:2022/0302