慈愛と峻厳の並ぶ丘
甲板にてぼんやりと島を眺めるレイルスは日光浴をしながら昼寝をしているベポによりかかっていた。ベポは降りないのかとレイルスが聞けば「俺も賞金首だ!」と歯を剥き出して怒られてしまった。謝ったレイルスはベポが500ベリーということを知らない。ベポも言ってからレイルスの額を思い出してしまって「すみません」といつものように謝った。そんな会話の後に一緒に昼寝しようと誘われたのだが、当たり前のようにレイルスは全く眠たくない。しかしうるうると瞳を潤ませてこちらを見下ろすベポにノーとも言えずにとりあえずレイルスはベポに寄りかかった。
「っは!そういえばレイルス」
今まで寝ていたベポの鼻提灯がパチンと割れて、びくりとしたかと思えば話しかけられる。なんだを顔を向ければ横たわったままレイルスを見上げる円な瞳と目があった。
「ずっと思ってたんだけど、レイルスの気配ってなんだかおかしいよな」
「おかしい?」
「それは俺も気になってた」
念のためなのか、愛刀を携えてローが甲板へと出てくる。帽子はかぶっていないので不健康そうな隈がくっきりと見えてレイルスは不眠についてはローに言われたくないなと思わず凝視する。
「うまくは言えねぇが、普通ではない」
「そんなこと言われても」
レイルスもまた首を傾げる。そう言えばそんなことを過去にゾロにも言われたようなと思い出したレイルスは「ざわつく?」と問う。そんな感じだとベポが眠そうな声で呟いた。
「本当は最初、近づきたくなかったんだよ俺」
「そんなに?」
「うーん、なんか怖かった」
そのまま寝入ってしまったベポに、ちょっとだけショックを受けたような顔をしたレイルスがローを見上げる。ため息を吐き出したローが少し距離を開けてベポに寄り掛かるようにして座り込む。レイルスは知らぬことだが、本当に稀にローはベポをベッドがわりにして昼寝をしていた。
「周りに誰もいなければだが、見聞色の覇気が使えるやつは大抵気がつく」
「ふーん……」
「……相手の気配を読み取る力だと思えばいい」
ローは不思議と、レイルスがわからないという顔をしているのを読み取るのがうまかった。話しているとレイルスの知識の偏り具合は目につくものであり、どこぞの箱入り娘なのだろうかなんて思っていた。馬鹿ではない、教養もある、それなのにこの世間知らずさはなんだろうと疑問には思うものの、根掘り葉掘り聞くような性格をローもしていなかった。そう言った個人の話に踏み込んでも碌な話がないというのをローもハートのクルーもよく知っているのだ。
「膜があるような感じだな」
「膜?」
ポスンとベポに体を預けたレイルスはローの言葉に考えるようにして空を見上げる。横からその様子を見ていたローは冥王が嫌にレイルスを気にかけていたことを思い出していた。海兵から隠すようにマントの下に隠し、そしてアマゾン・リリーでも警告のような言葉を口にしていた。それだけの何かをレイルスが持っているのか、知っているのか。確かにレイルスの能力には驚かされた。クルーからの報告でも今のところ直せなかったものはなし。ローが最初に見た割れたガラスから始まり、最近ではウニが目覚まし時計を直してもらったと報告をあげてきていた。機械だったからか、多少分解してからだったらしいがそれでもものの数分で綺麗に直してしまったらしい。
だが、それだけだ。もちろん他にもできることもあるだろうが、それだけで世界が動くだろうか。ローのオペオペの実以上のものがそこにがあると、レイリーの言動は示唆していた。
レイルスは言われた言葉を反復し、己の胸に手を当てる。トクトクと一定のスピードで心臓が動いているのを感じながら、うーんと唸る。他の世界から来た弊害だろうか。でも血液型も適合して、ローがオペをしても胃のことを指摘されただけで他に何も言われなかったということから、人間として決定的に異なるわけでもないようだ。まさか生きていて自分は宇宙人なのかと悩むことがあるとはレイルスは思ってもいなかったが、状況的にはそれに近い。あまり冗談にして笑えない推察である。
「膜の気配っていうのも……うーん」
「あくまで例えだ」
クァ、とあくびをしたローはそのままベポを枕にして目を閉じてしまう。話し相手がいなくなっても全く眠気の来ないレイルスは、ベポのスピスピという鼻息を聞きながら波がさざめく光景をじっと眺め続けた。
投稿日:2022/0313
更新日:2022/0313