慈愛と峻厳の並ぶ丘


 レイルスにルフィのことが記載された新聞が見せられたのは、その新聞が発行されてから裕に一ヶ月は経過した頃だった。一度島に寄り付いてからは基本海上をいくポーラータング。食料も釣りや海王類を仕留めることで補っているため燃料と日用品さえ揃えば長い間航海することは慣れっこである。まさかそんなに長く島に寄り付かなくなるとは思っていなかったレイルスだけが少し決まりが悪そうにしていたが、クルー総出で黙殺されていた。もうちょっと「なんで?」とか「おろして」とか文句も出ないものかね、とペンギンだけが逆ギレのように心配していただけで、このまま絆してしまえと全力でレイルスを懐柔しにかかっているのだが、知らぬはレイルスだけである。
「結構前だね」
「忘れていた」
 しらっと嘘をつくローにクルーは少しソワソワとした。もうちょっともっともらしい嘘をついてほしい。開き直って暗に見せるつもりがなかったというローに、一緒になって新聞を隠していた全員が気まずくなった。
 レイルスはそんなことも気にせずに、紙面にのるルフィを見る。再びマリンフォードへと赴き鐘を鳴らしたという記事には違和感しか覚えない。弔いの意味があるらしいが、静かな顔で顔を伏せるルフィらしくない行動にレイルスは顔を顰めた。トレードマークである麦わら帽子を胸に当てる腕も包帯まみれだ。レイルスは不意にその腕に目を止めて、記された文字を見つける。3D2Y。3Dに罰がつけられたそれは右腕に書かれている。ふ、と思わず笑みが溢れた。ルフィにそんなつもりはなかったのかもしれないが、エースの刺青に少し似ている。Sに罰がつけられたエースの刺青も4文字だった。
「わ、笑ったぞ」
「どんな感情だ」
「怒って、はないよな」
「なんでキレねぇの?は?」
「なんでペンギンがキレてんだよ」
「ん?」
 顔を上げたレイルスだったがイッカクと目が合うだけ。目のあったイッカクは少しげっそりとした顔をしていたがひら、と手を振られたのでなんとなく振り返したレイルスは再び紙面へと顔を落とした。ペンギンを机の下に押し込んでいた数名が肩で息をした。資金繰りやこれからの航路などについて色々と作戦を練っていたせいでペンギンは徹夜を繰り返しておりテンションがおかしくなっていた。「シャチこいつ寝かせろよ」、「キャプテンに睡眠薬出してもらうか」。物騒な会話が机の下、ペンギンの目の前で行われていた。
 レイルスは新聞の意味はすぐに理解した。レイリーと共にいたことも書かれていることから、発案はレイリーだろう。アマゾン・リリーにてレイリーから期間を聞いてなかったレイルスは2年かぁと考える。どうしたものだろう、と悩みながらも行くことは無いだろうなとぼんやりと思うレイルスはとんでもない薄情者である。2年はレイルスにとっては少し長い期間なのだ。顔を曇らせた時にローから声をかけられたレイルスはぱっと顔を上げた。
「麦わら屋も死ななかったようだな」
「そりゃ腕のいい医者が見たんだから死なないでしょうよ」
「…………」
「わっ……かってるなレイルス!!」
「そうだキャプテンのおかげだからな!!」
「うわうるさ」
 うっかりローを持ち上げる発言を無意識でしてしまったレイルスは一瞬後にクルーによってもみくちゃにされた。口を開くも怒涛のクルーの口撃にその口を閉じたローは結局ため息だけ吐き出す。うるさいというレイルスの発言に内心で同意しながらもローは潮時だろうと感じていた。
「お前はどうしたい」
 途端、騒いでいたクルーがぴたりと動きを止めた。新入りのジャンバールだけが、静かにそのやりとりを見守る。元々海賊船の船長でもあったジャンバールはクルーを1人乗せるにしてもレイルスの状況がよろしくないであることをローと同じく理解していた。なあなあにしてしまってはいざというときにお互いが枷になりかねない。
「この船に乗るつもりはあるか」
 どうしたい、そう聞きながらも立て続けにローが言葉を続けたことでレイルスはパチクリと瞬きをする。まあ、便利だろうけどな錬金術。そう納得してレイルスは考える。ハートの海賊団の連中も気がいい人ばかりだ。各々がしっかりと目的を持って、そしてローに敬意を持ってこの船に乗っていることを誇りにしている。そのどれもを持っていないレイルスはううん、と首を振る。しかしローはその動作も無視して言葉を続ける。
「島に定住する気はないんだろ」
「うん?ないけど」
「麦わら屋の条件に合致しなけりゃ、こっちに乗れ」
 うん?雲行きの怪しい流れにレイルスの顔に疑問符が浮かぶ。レイリーの話していたレイルスが船に乗る条件をしっかりと記憶に残していたローはニヤリと笑った。島を三つ、それまでにルフィがレイルスの賞金を越せば麦わらの船に乗る。確かにレイリーはそういった。こっちはそんな条件をつけてやるほど優しくはない。
「4億5000万、俺が越せば文句ないだろ」
 海賊としてふさわしいほどの凶悪な笑みに、レイルスはヒクリと顔を引き攣らせることしかできなかった。こいつ、降ろす気がない。気がついたレイルスだったが、時すでに遅し。とっくのとうに手遅れであった。


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投稿日:2022/0314
  更新日:2022/0314