21番目のカード
ロビンに新聞が読めると聞いて、ありがたく未だ取っておいたのだという数日分を借りた。驚いたことに、海の上でも毎日カモメが新聞を配達してくれるのだとか。伝書鳩のようなものかと思えば納得できなくもないが、なんでもありだなと思わずレイルスは感心してしまった。ロビンが言うには、ちょうどこの船に乗り換えたタイミングがレイルスを乗せ始めた港と同一だったためそこからの新聞しか残っていないのだとか。そしてその新聞には何度も名前の出ていた「エニエス・ロビー」についての一大事件が毎日のように一面を飾っており、ここ数日お世話になっている面々の悪事がここぞとばかりに記載されていた。新聞はありがたいことにほとんどが英語での記載であったのはレイルスにとって僥倖であった。
エニエス・ロビー。「偉大なる航路」前半に位置する島で、世界政府直轄の裁判所がある「司法の島」。世界政府中枢に繋がる「政府の玄関」とされ、海底監獄インペルダウン、海軍本部と並ぶ三大機関とも評されていた。年中夜にならない不夜島(昼島)で、世界でもこの不夜島はこの島のみであったが、昨日の「麦わらの一味」の一件で島ごと跡形もなく大破。また、本件の引き金となった「悪魔の子ニコ・ロビン」をはじめ主犯である「麦わらのルフィ」率いる一味全員に以下の賞金がかけられることが海軍より発表された。
そんな記事の中盤に、ルフィをはじめ一味の全員の写真と賞金の額が記載されている。一名絵であることが気になるが、この世界の共通通貨の単位らしきものが「ベリー」と呼ばれることも把握できた。ロビンに聞いたところ、この新聞は、というよりは多くの新聞社は世界に向けて記事を出していることから一面は大抵共通の話題になるらしい。それにしても世界に向けて発信される新聞だなんて規模がでかい。ローカル紙もあるにはあるのだろうが、ロビンの話ぶりからしてそちらの方がマイナーだろう。そして、そんな世界規模で発行されている情報源に当たり前のように「情報操作」がかかっている。ロビンに聞いた話と相違するという点があるのもそうだが、別に彼女たちの言い分を鵜呑みにしているから、というわけでもない。自称海賊(新聞を見て他称でもあることが判明したが)を名乗っているのだ、嘘だってあるだろうしレイルスが騙されることだってあるだろう。信用と情報精査はまた別で、基本的にレイルスは自分の目で見たものを信じたいタチだ。盲信と信頼は別である。
それとは別に、レイルスのことが一切記載されていないのだ。島にいたのは一味と海軍、そして政府の機関だというCP9のみとされている
レイルスが島にいたということすらもロビン達が嘘をついているのであれば別であるが、果たしてそんな嘘をついて彼らに何か利点があるか?という疑問が残る。それにロビンのあの態度は絆そうだとか、そういう打算的なものではないのも感じる。であれば自身が対面して、対話をした彼らの言い分に天秤が傾くのも自然と言えた。実際レイルスはただの穀潰しであるし絆す理由がどこにもない。錬金術師であると知っているわけでもない、こちらの事情を知っているわけでもない彼らにとって、レイルスは利用価値が限りなく0の存在である。
悶々と考えていると何かが爆発するような破裂音が甲板の方から響いた。流石のレイルスもギョッとして新聞から顔を上げる。それなりに集中していた思考を切られるくらいの音量だ、何事だと徐に立ち上がり借りているスリッパをつっかけて扉へと向かう。チョッパーいわく治りが遅いと言われているがレイルスとしては足に穴が空いてすでに歩けているんだからかなり良好な経過であると思っている。
扉を開けた先ではルフィとウソップ――鼻が嘘のように長い男である――が大破した樽の前で騒いでおり、うっすらと潮風に乗せられて硝煙の匂いが漂っていた。樽の残骸からは煙が上がっており、辛うじて底の部分だけが残っている程度。空を見上げれば白く煙が線を引いており上空で途切れている。未だ騒いでいる一味を横目に樽の残骸にまで近寄り膝をつく。
「あ、こらイム!まだ勝手に出歩いたらダメだろ」
「ごめん」
すかさず駆け寄ってきたチョッパーに口先だけで謝りつつ、レイルスは片手で口、鼻を軽く抑えて樽の底を覗き込む。銀白色の何かが入れられた箱と筒状のアルミ缶。ちょうどよく細長く割れていた樽を手に取り、その銀白を突けば柔らかい。筒で打ち上げられたのであろう風貌と、その引火を免れたのであろう現物。樽の外側は水に濡れていたのでもはや海を漂っていたのだろうか。
「あ?なんか残ってるのか?」
「触っちゃダメ」
ウソップが伸ばしてきた手をレイルスは避けて鋭い声で咎める。手に持っていた樽の破片を樽の中に投げ込み改めて口を覆った。
「彩光弾。空に赤色の光が上がった?」
「な、なんでわかったんだ!?お前今出てきたのに!」
髪の靡く方向から風下を確認し、一番近い「投げ捨てられる」場所を確認する。こんな状況なら仕方ない、と上着を貸してくれていたロビンに内心で謝りながら、バサリと脱いだ上着で樽の破片に触れないように手早く集める。不幸中の幸いは残留物が爆発によって噴射しなかったことだろう。赤色の閃光を否定されなかったことで確実になってしまった中身に舌打ちを溢しそうになりながら、レイルスは上着で触れないようにしながら樽を持ち上げようとする。しかしその前にその樽を持ち上げる手があった。
「どうすんだこれ」
「……海に捨てて!持つならあんまり息するな!!」
「おう!」
そう元気に返事をしたのはルフィで、軽々と持ち上げたそれを上着ごと海へと腕を伸ばしてぶん投げた……腕を伸ばして?
「おし、いいか?」
呆然として返事ができずにいるレイルスの思考を更にかき混ぜるように、突然嵐が襲いかかってきた。
投稿日:2022/0102
更新日:2022/0102