頭上のヨルムンガンド

 誰も入って来られないようにと施設を完全閉鎖したシーザーだったがそんなことすら知らずレイルスは当たり前のように壁に扉を錬成し内部へと侵入していた。青雉に対して少し疑心暗鬼になっていたのだが、やはり未だに研究は続けられていたようで稼働している巨大な機械を見てレイルスはまた唸った。侵入した場所にあった機械を見るに有機物の生成を行う場所のようだ。マスクを外せば独特な匂いが鼻につくだろう。
 室内に入ったことで余計に曇ってしまった視界、耳に届く位置に人がいるということを踏まえてレイルスは少しその場にとどまることを決めた。マスクをとってもいいのだが万が一を考えると軽率な行動はできない。徐にあぐらをかいて座り込んだレイルスは手持ち無沙汰にポケットからペンを取り出した。手袋をはめた手でそれをくるくると回しながら視界が晴れるのを待つ。レイルスはガスマスクの中で大きく欠伸を零した。

 レイルスが呑気に時間を潰している間にも事態は凄まじい勢いで変化していた。ルフィをはじめロビン、フランキー、そしてローとスモーカー、たしぎはシーザーに捕えられ海楼石の枷をつけられていた。G5の所長であるヴェルゴが闇のブローカーであるジョーカー、又の名をドンキホーテ・ドフラミンゴの部下であると知ったスモーカーとたしぎはその事実を知ってからずっと顔色が悪い。ローもヴェルゴに心臓を何度も握られて殴られてを繰り返されたため肩で息をしている。スモーカーは己の心臓もローの能力で取り出されており、しかもそれをシーザーが所持していると知ってグッと奥歯を噛み締めた。
「ああ、『鉱』はここには連れてきていないのか、ロー」
 思い出したようにヴェルゴがローに問いかけた言葉に、ローがピクリと帽子の下で眉を上げた。
「アラガネって……」
「レイルスの手配書に載っている名前ね」
 ルフィがハッとしたように呟けば、ロビンがそれを肯定するように続ける。「厳ついよなぁ何度聞いても」フランキーがなぜか誇らしげに鼻を高くしている。
「あまり期待はしていなかったが、やはり単身か」
「何が言いたい」
「ドフィが御所望なんだ」
 ヴェルゴの言葉にローがギロリとヴェルゴを睨みつける。聞いていたモネが「あらそうなの?」と首を傾げた。長いことパンクハザードに滞在しているモネにその情報は降りてきていなかったのだ。ログポースが指すことのないこのパンクハザードにいれば不要な情報だったろうが、万が一を考えて教えてくれたってよかったのに、とモネは少しだけ笑みを深める。心優しい若のことだ、モネの負担を考えてくれたのだと言われずとも理解しての笑顔だった。
「ゴショモーってなんだっけ」
「欲しがるってことよ」
「おい勝手なこと言うなよ!!レイルスはやらん!!」
「いねぇ女のことはもういいだろ!さぁ!始めるぞ!」
 ルフィが噛み付くように吠えるも、シーザーがうんざりとばかりに話を切り上げてしまう。檻の中の海賊たちの胸に、もやりとしこりが残された。

 シーザーは毒ガス兵器を世界に売り出すために、デモンストレーションとして外にいる人間をガスの餌食にしようとしていた。映像は世界各国の王や闇のブローカーの元へと、ショーさながらに放送され始める。
 檻に入れられて映像電伝虫の映像を見せられている一行は巨大なスライムの化け物――スマイリーに追われるゾロ達を目にする。見た目だけはウーパールーパーのような化け物は巨大な飴玉を食べた事で爆散し、凄まじい勢いでガスを島へと蔓延させはじめた。
「完璧な殺戮兵器シノクニよ!もっと見せろ!究極の地獄絵図を!!」
 ガスに飲まれた人間が、途端に真っ白になり固まる。恐ろしい映像は研究所入口で立ち往生していたG5の目の前でも投影されており、途端に彼らは研究所の中に入るために躍起になる。スモーカーとたしぎも外に部下がいることを理解していたため歯を噛み締めて怒りを抑え込んでいた。
「なんちゅう走り方してんだあいつら」
「お侍さん、完成してるわね」
「あ、ほんとだ、じゃあもう足くれねーだろうな……おいロビンそれどころじゃねえだろ!お前ら!その煙危ねぇ、ぞぉ〜……」
 珍しくまともなことをいったルフィだったが海楼石のせいで最後まで声を張れずに倒れてしまう。仲間のことを心配している場合じゃないだろうと笑うシーザーが壁に取り付けられていたスイッチに手をかけた。
「さあ証明してくれ、この殺戮兵器シノクニの前では4億の賞金首も、海軍の中将も、王下七武海でさえも!なすすべもなくくたばっちまうってことをなぁ!!」
 檻ごと外へと放り出されたルフィ達の目下には、G5の海兵が。そして目の前に迫ってくるシノクニを見てたしぎは慌てた。なんとかして部下だけでも逃さなければという思いもあるが、現在スモーカーの体に精神を入れられているせいで力が入らない。能力者にとっての海楼石の威力を身をもって知る羽目になっていた。しかし大人しくやられるような人間はこの中には誰1人としていなかった。
「麦わら屋、俺たちはこんなところで躓くわけにはいかねぇんだ……反撃に出るぞ」
「当たり前だ!レイルスはやらん!!」
「……チンタラしてても仕方がねぇ、この中で火を出せるやつは?」
「火ならフランキーだ!」
 軍艦を燃やせ、そういったローに気前よく了承したフランキーが口から火を吹く。ローは麦わらの一味にまともな人間はいないのかと顔を顰めた。木製の軍艦が黒煙を立ち上らせて檻の場所にまで上がってくる。映像電伝虫の映像から視界を切るための行動だが呼吸すらしにくくなるほどの煙に真っ先にフランキーがローに噛み付いた。
「おいトラファルガー!煙がこっちまで来たじゃねぇか!」
「お前がやったんだろ」
「お前がやらせたんだろ!!」
「あはは、何やってんだよ」
 視界が悪くなったことを確認したローが海楼石の鎖をなんなく取り外したため周りは驚愕の声をあげる。長くパンクハザードにいたローは鎖を入れ替える時間もあったのだ。見事普通の鎖に当たったローは能力を使って鎖を解いた。一太刀で麦わらの一味の鎖も両断したローにルフィが喜びで小躍りする。
「さて、お前らをどうしようか……少し知りすぎたな、お前らの運命は俺の心一つ」
「どうするか決めてんだろ、さっさとやりやがれ!!」
 そう怒鳴っている間に自分の体に戻されたスモーカーとたしぎ。たしぎはスモーカーのせいで開放的になっているシャツに悲鳴をあげた。そしてたしぎはなんでもするから鎖を解くようにとローに頼む。
「ふざけんなたしぎ!海賊に媚びてまで命が欲しいか!!」
「今は!土下座をしてでも命を乞うべきです!私たちがここで死んだら部下を見殺しにし、ヴェルゴ中将……ヴェルゴも、このまま軍にのさばらせることになり、子供達だって」
「女の方がいくらか利口だな」
 スモーカーがヴェルゴを告発することで、海軍でのヴェルゴの立場がなくなるのであればローも利があるという。義理はないが、そういう意味での共闘も今は得るべきであると判断したローは文句を言わないスモーカーに了承の意と捉えて解放したのだった。


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投稿日:2022/0320
  更新日:2022/0320