ペンタクルに祝祷
A棟からB棟へと向かおうと全員が奥へと勢いよく進んでいく。しかし真っ先に飛び出していったルフィ、能力を使ってショートカットしたロー、スモーカーを除いて全員がA棟に閉じ込められようとしていた。シーザーによってB棟へと続く通路が封鎖されようとしているのだ。研究所は複数の棟によって構成されており、全てが一本の通路で繋がっている。その上丁寧に一つずつに自爆装置まで設置されていることを知っていたローはA棟に多く残されているG5を急ぎ移動させた方がいいとスモーカーに忠告を零した。たしぎも、麦わらの一味に攻撃を仕掛ける部下を咎め、まずは移動を優先するように指示を飛ばす。「ゲートはすぐ先です!急いで!!」
負傷して遅れる部下、ゲートから離れた位置にいた部下、それらを置いていけないとたしぎは後方で声を張る。しかしそれを嘲笑うかのようにシーザーの指示でA棟外壁に大砲によって穴が開けられた。勢いよく毒ガスが研究所内に侵入してくる。どれだけたしぎが声を張り上げても、やはり間に合わない部下も多くいる。途端に白く固められてしまったG5にたしぎは顔を悔しさに歪めた。スモーカーにこの場を、部下を任されたのだ。ゲートの前で部下に声をかけ続けるたしぎは誰1人として見捨てるつもりがなかった。
「止まらず!まっすぐゲートを抜けなさい!」
「たしぎちゃん!もう十分だ!!」
「っ!あなた達!やめなさい!!」
しかしそれを見て、彼女を慕う部下も黙ってはいない。たしぎをB棟へと投げ込んだG5海兵は自分の命を投げ捨てででも、そんなたしぎを助けるためにと閉ざされたA棟の中に残る道を選んだ。重たい音を立てて、ゲートが完全に封鎖される。
一方レイルスは妙な警戒音と途端に慌てて走り出した海兵達に疑問符を浮かべていたものの、何が起こっているかいまいち把握しきれず、当たり前のようにA棟に取り残されていた。侵入してきたガスによって海兵が固められているのを見たレイルスは一瞬の思考の後、バン!と床を殴りつける。錬成の光とともにその場にコロンと転がったのはガスマスク。バチバチという派手な音に近辺にいた海兵が何事だと騒いで武器を突きつけてきたが、それすら無視してレイルスは床や壁を叩きまくった。
「なんだお前!シーザーの部下か……!」
「ガスマスク野郎お前のせいで!!」
「うるさい早くこれ配れ!!」
剣を振りかぶってきた海兵の顔面にそれを投げつけたレイルス、一拍遅れてそれがガスマスクだと気がついた海兵は疑いながらも、どうせ死ぬ身であるとやけになって声を張り上げた。
「い、急げ〜!!」
「早く無事な奴らを呼べ!!」
すぐさまガスマスクを拾い、まだ動ける味方へと配り始めるG5。しかしそれでも体にまとわりついた途端にガスは硬化を始める。動けなくなるのはすぐで、ガスマスクをつけたものの結局はその場で全員が白く固まった。
「クッソ……!」
レイルスも例外ではなく、ガスマスクを投げるポーズで固まってしまう。しかしレイルスが予想した通り、体が動かなくなったのみで、意識が刈り取られることはない。予想外だったのは思った以上に硬化された部分が固く、微塵も動きが取れないことだ。このままでは途端に酸素不足になり皮膚から触れる部分から毒素に殺されるだろう。
白化されて動けないまま、レイルスは頭を必死に回転させる。ガスによって白く固められていたのは基本的に人間のみ。研究所の壁全てに白化の現象は見られなかった。タンパク質にでも反応するのだろうか、それとも動くもの。どれも違うとレイルスは選択肢から省いていく。タンパク質に反応するのであれば、冷え切っていたコートまで固まっている理由にならない。振動によって硬化するのであれば爆破によって砕かれた壁の穴はもっと小さくなるはずだ。体を動かそうと奮闘しながら怒涛の勢いで可能性を考えては潰していくレイルスだったが、次第に酸素が脳へと回らなくなっていくのを感じる。ふと、レイルスの頭にとあるシーンが過ぎる。外には、雪が降っていた。
バチバチ!固まっていたはずのレイルスの右手部分から錬成の光が迸る。次第にそれは範囲を広げ、ついにレイルスは腕を動かし、それによってレイルスを覆っていた灰のような殻がひび割れたのだった。周囲を見渡し、1人残らず石像のように固められたその光景に首をコキリと鳴らす、レイルスは再び右手から錬成の光を放った。
サンジにとってレディとは守るべきもので、愛おしむべきものだ。どんな理由があっても女は蹴らない。その信条に付随して守ることできる、手の届く範囲にいる女に手を伸ばすことだってサンジにとっては当たり前のことだ。だからこそ敵である海軍の女海兵、たしぎがヴェルゴに倒され、悔しさで涙を流している光景を放置できなかった。
「女の涙の、落ちる音がした!!」
そういってB棟から通路へと戻ってきたサンジはドフラミンゴの手下であるヴェルゴと対峙する。しかしそんな内情を知らないサンジは、海兵であるヴェルゴが何故かG5を殺し、たしぎに手をかけようとしている光景を訝しむ。いずれにしても女を泣かせた時点でサンジの敵であることには変わりないのだが。
「『フランジェ・ストライク』!!」
ヴェルゴの腹部へと炸裂した蹴り技は、ヴェルゴを壁へとめり込ませるほどの威力。しかしそれでもムクリと起き上がってきたヴェルゴにサンジはピクリと眉を動かしタバコを一本取り出す。キーン、と高い音。ジッポの蓋を開けて火をつける。レイルスが贈ったあのジッポだ。地獄のような2年間、いかにこのジッポにサンジが心を救われたか。他の仲間がレイルスからの贈り物を揃って封印した中でサンジだけはジッポを手放そうとしなかった。ウソップが「お前も」とふり出した途端震えて涙を流したほどである。直接手渡されていたというのもあって誰も無理にとは言わなかったが、サンジの顔が絶望に染められたのもあって強要できるクルーがいなかったというものあった。
サンジが寝る時ですら手放さないので、一度気になってウソップとフランキー、チョッパーがこっそりと眠っているサンジから取り上げて見たのだが、その瞬間にサンジが魘され始めたため3人は次の日ちょっとだけサンジに優しくした。閑話休題。
「邪魔をするな、身内の問題だ」
「うちの船長が一番嫌いなタイプだな」
鉄の塊を蹴っているような硬さ。途端に威力を増したヴェルゴの蹴りにサンジの足からピキと嫌な音がなる。痛みに顔を歪めたサンジは慌てて武装色にて足を硬化するも、敵も相当の覇気の使い手らしく次第に防戦になっていく。B棟へと続く扉がまた閉まり始め、今度はA棟の扉が開き始める。通路に閉じ込めてまたガスの餌食にしようとしているらしい。
サンジはG5に声をかけて早く移動するように怒鳴る。ガスが迫ってきているものの、このままヴェルゴをいかせてしまえばたしぎの身も危ない。敵の狙いはどう言うわけかG5、女がいる時点でサンジに退くという選択肢はなかった。
『こちらD棟、緊急連絡!!ただいま、王下七武海トラファルガー・ローがSAD製造室へ侵入しました……!!』
全館へと響いた緊急の放送、それを聞いた途端ヴェルゴが顔色を変えてその場から一瞬で消える。
「なんだ、あの野郎……っと、こっちもヤベェ!」
ヴェルゴの行動を疑問に思う間も無く、目の前に毒ガスが迫っていることに気がついたサンジも慌ててそこから移動を開始する。一瞬、見聞色の覇気がA棟側から何かの気配を拾った気がしたが、そんなはずはないと慌てて行動を開始する。倒れて動けないG5を拾い上げて月歩でギリギリゲートを通り抜けたサンジはすぐ様たしぎの心配をした。G5に感謝の声援、心配の声をかけられるも「黄色い声しか受け付けねぇ!」と噛み付くサンジは揺らぎなかった。本人の望みとは裏腹に、サンジは女よりも男にモテる男であった。
投稿日:2022/0322
更新日:2022/0322