ペンタクルに祝祷

 R棟脱出口にて、シーザーを倒し仲間の到着を待っていたルフィはローに叱られていた。
「おいお前!約束は誘拐だろう!」
「でも、あんな奴!もう捕まえるのもヤダ俺」
「嫌でもそういう計画だ、もし逃げられたらどうしてくれる!」
 ルフィはブスッと顔を顰めるも、ローの言っていることが間違っていないことを理解していた。加えて約束を破った自覚もあったのでそれ以上の文句を口にすることも我慢した。謝りもしなかったが。
 麦わらの一味はその様子を仕方ないなと言う空気を持って見つめる。シーザーの人間性はルフィが一番嫌いなタイプだと言うことを、麦わらの一味はしっかり分かっていた。自分本位な発言ばかり、部下と言って大勢を従えているのにもかかわらず、捨て駒のような扱い。もう顔も見たくないと言ってできるだけ遠くに飛ばすように全力で殴ったため、ルフィ自身もシーザーがどこまで飛んだのかわかっていない。
 ローは自由奔放を絵に描いたようなルフィのイカれ具合をこの短時間で何度も目撃し、同盟を組む相手を間違えたのではと心底思っていた。作戦におけるシーザーの重要度を何度も説明しているのにもかかわらず、この体たらく。感情だけで突っ走りこちらの話も聞いちゃいない。海賊のくせにドラッグ漬けにされた見ず知らずの子供を助けたいなどと甘いことをいう。ローも進んで殺しをしないため甘いと言われることがあるが、麦わらの一味と比べると天地の差があるだろう。ハートのクルーにそれを言えば「あんま変わらんですよ」と言われるのをローは知らない。トロッコに乗っていく巨大化させられた子供と海兵を見上げて、反対に誰1人トロッコに乗る気配のない麦わらの一味を一瞥する。
「サンジくん、ビスケットルームを通ったならゾロには会わなかったの?」
「ああ、本当なら俺がたしぎちゃんとあの美女と残りたかったんだが……」
「あら、その女海兵さんならもう着いてたわよ?」
「んなに!?本当かロビンちゃん!ならあのマリモは」
「うそ迷子?」
「あの野郎隙あらば行方不明になりやがって」
「チョッパーはどうしたの?」
「途中で子供の治療のために残ったのよ」
 建物が倒壊を始めている中でなんとも緊張感のない奴らである。ローは顔を顰めたが、何を言っても動きそうもない彼らを見て黙って見守ることにした。いざとなれば置いていく、そう思いながらもローも無理にトロッコを動かそうとしない。結局のところローの本質も麦わらの一味と対して変わらないのだ。

 スモーカーはたしぎと、部下からの報告を聞き顔を険しくさせていた。実際頭が痛くなる報告ばかりで、怒りのためか米神の血管が浮き出ている。
「その兄ちゃんのおかげで全員助かったんだ!」
「あいつのおかげで俺たちも、海賊どもも助かった!」
「それと黒足の兄貴!!」
 海賊に助けられるなど、と普段であれば怒鳴り散らしているところではあるが、己がローに助けられた後である。決まりが悪く、常時でもいかつい顔をさらに恐ろしく歪ませた。自分たちの顔のことを棚に上げて、G5海兵たちは怖いぜスモやんと内心で悲鳴を上げた。
「黒足はいいとして」
 スモーカーは本当にたくさんの言葉を飲み込んで、眉間の皺をほぐしながら疲れた声を出した。
「その片腕の男はどこにいる」
「それが気がついたらいなくてよ」
「海賊狩りのゾロも一緒にいなくなったよな?」
「あ!スモやんもガスマスクつけとけよ!!まだあるんだ!」
 そんな怪しいやつを野放しにするな、と思わなくもないが馬鹿どもにいっても仕方がない。押し付けるようにしてガスマスクを渡してくる部下に、ガキにつけさせろとだけ伝えて受け取りを拒否したスモーカーは、視線だけそのマスクへと向ける。既製品と言ってもいいほどのものだ。ガスマスクを作り出すような能力なんぞ聞いたこともない。
 海軍では秘密裏に、悪魔の実の能力者を把握している機関が存在する。敵味方、一般人を問わないために重要機密とされており、そのリストの閲覧許可は中将以上、その上大将からの許可が降りて初めて見ることが叶うという貴重なもの。
 黄猿から許可をもぎ取り、そのリストを一度見たことのあったスモーカーでも知らない能力だ。まだ知られていない能力なのかと思案するスモーカーは、慌てて子供たちに自分のつけるガスマスクを譲り始めた部下を横目に隻腕の男について思考を巡らせた。そして自ら気がつきそうにない部下たちにまた一つ舌打ちをこぼし、声をかける。
「おい馬鹿ども、助かるのがわかってんのならやることがあるだろうが」
「は!そうだった野郎ども全員助けるぞ!」
 己の指示になんの不平も漏らさずにドタバタと動き始めた部下たちに、スモーカーは一瞬目を見開くも、話に聞いた隻腕の男に感化されたらしいと気がついて葉巻を上下に揺すった。スモーカーはいつも、部下の成長のために指示をあえて言葉足らずにすることがある。己で考えて行動することが必要だからだ。敵味方問わず、全員無差別に助け始めた部下を見て聞く限り怪しさ満点の隻腕の男が、できればお尋ね者ではないことをらしくもなく願ってしまった。


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投稿日:2022/0326
  更新日:2022/0326