晦冥たるステージ
感情が追いつかないものの、研究所の倒壊は待ってはくれない。麦わらの一味の驚きの理由を知らない海兵達が急いで脱出の準備を開始する。ゾロは改めてがっしりとレイルスの腕を鷲掴んでトロッコへと乗り上げた。「レイルスダァああ!!」
「揃ったぁああやっと揃ったゾォおおお!」
「元気そうでよかったぜぇ!!」
チョッパー、ウソップが声を上げて喜びを表現する。チョッパーはモチャから離れることこそしなかったが、ジョバジョバと涙を流して嬉しさに震えている。ウソップもズルズルと鼻を啜った。シャボンディでレイルスが現れなったことで、あの時目の前でくまに消されたレイルスの姿を思い出してはひっそりと悔しさを感じていたウソップは、両手をあげて横にいたフランキーの腕にぶら下がった。
「……」
「こ、怖いぃ〜!!」
「なんか怒ってる〜!!」
険しい顔をしてレイルスを見下ろすゾロは、なんでこいつ腕がないんだと今更な、しかし重大すぎる事柄に慄いていた。これがルフィやサンジであれば特段気にも留めなかっただろうが、レイルスは女である。何がどうして片腕を落とす結果になるのだとゾロは顔をさらに険しくして、近くでそれを見ていた子供を泣かせた。
「レイルス〜!!」
がばりとレイルスに突撃してきたのはナミである。うっすらとその瞳には涙が浮かんでいるが、それ以上に嬉しさがあるのであろう。ぴょんぴょんと跳ねてレイルスに抱きつくナミの表情は晴れやかである。ぎゅうとレイルスの体に抱きついて、何やらゴツゴツとした抱き心地に「なんか硬い〜!」とケラケラと笑い出す。
「おい!出すぞ!!」
「それどころじゃねぇだろ!!」
「兄ちゃんだと思ってたら美女だったこんちくしょう!!」
喜びで使い物にならない麦わらの一味を横目に、G5はトロッコを動かし始める。瓦礫が降り注ぐ中、長い通路を移動し始めたトロッコの先頭でローは苛立ちを抑え込んでいた。すっかり麦わらの一味であるような扱いをされているレイルスを見てムカッとしているのである。そうは言っても、レイルスの立場を宙ぶらりんにしたのもローであったため自業自得とも言えた。
「ヨホホホ!よかったーご無事で!!」
「本当に……!サンジ、いい加減息をして」
「ッハ……!!」
わー、と子供のようにバンザイをして喜ぶブルックと、朗らかに笑みを浮かべるロビン。その横でまるで固まったように動かないサンジを見かねてロビンが能力でサンジの鼻を摘めば、まるで今まで水中に潜っていたかのようにゼーゼーと肩で息をし始めた。ブルックが心配したように声をかける。
「大丈夫ですか?サンジさん」
「美女の戯れ……ここは、天国だった??」
「ダメみたいですね」
「お前ら遊んでないでこの瓦礫なんとかしろー!!」
「にっしっしっし!!嬉しいなぁ!!レイルスも元気そうでよかった!!」
落ちてくる瓦礫をどうにかしてくれているのが麦わらのルフィただ1人であるのを見たG5が、さすが全員が賞金首なんてとんでもない海賊団をまとめ上げている船長だと感心していた。クルーが揃って感動に打ちひしがれてしまっただけで普段であれば逆なのだが。カラッと笑ってレイルスに目を向けたルフィは心底嬉しそうに口角をあげる。仲間が楽しそうに、嬉しそうにしている。なんとも言えない感情がルフィの中で渦巻いて勝手に笑い声となって溢れていた。
ナミに全身を拘束され、ゾロに腕を掴まれているレイルスは困ったように眉を下げた。まさかこんなに熱烈に再会を喜んでもらえるとは思ってもいなかったのである。ナミは両手でレイルスの頬を挟んでむぎゅむぎゅと押しつぶしながら、あいも変わらず目を引く色をしているレイルスを見つめる。されるがままに困惑しているレイルスを見ているうちに苛立ちが湧き上がってきたのだろう、ナミはレイルスの唇がぎゅむと押しつぶされるまで頬をガシリと掴んだ。
「あんたねぇ、来ないにしてももうちょっとあったでしょ!どれだけ心配したと思ってるの!?」
「ええ……」
「それに何!?再会一言目が「どうも〜」って!もっとあんでしょうが!!」
「だいたいなんですぐに名乗らなかったんだお前」
ゾロも我慢ならんとばかりに不満を声に出す。不満と言えば可愛らしいが実際には殺すぞと言わんばかりに凶悪な表情に、子供どころかG5も震え上がった。そんな2人からそろ、と目を逸らしたレイルスは唇を尖らせたまま一考する。色々と気まずかったこともあったし、忘れられているだろうという思いもあったからこそだったのだが、レイルスは空気を読んで「タイミング逃して」と嘘をついた。わかりやすい嘘にナミとゾロは内心「うわぁ」と呆れた、ばっくれるつもりだったのだろうと2人は察した。
「おい、誰か風を起こせるやつはいるか」
「いるか!そんな都合のいい能力持ってるやつが!」
そしてこの場で最も怒りを感じているであろうローはレイルスのことはとりあえず後回しにし、脱出のためにあれこれと能力を働かせていた。あまりにも長いレール、抜けた先もガスに覆われている可能性を加味してそう声をあげればG5がツッコミのように声をあげる。
「あ、私できるわよ」
しかしナミがそう声を上げたことでG5はギョッと驚く。あまりにも規格外な海賊団にG5はついていくのがやっとである。ぎゅうぎゅう詰めのトロッコの中、ナミを能力によってトロッコ前方へと移動させたローは、ナミにくっついてやってきたレイルスをガッツリと睨みつける。ゾロはつかんでいた腕が途端に空になって「あ?」と柄の悪い声をあげた。そして前方を見てナミと共に七武海の隣に移動している金色を見て、そういえばなぜあの七武海と行動を共にしているのだろうと疑問を口にする。「そういやお前同盟のこと知らなかったな」とウソップが説明したことでゾロは余計に顔を顰めた。
ギロッと凄まじい剣幕でレイルスを睨みつけるローがドスのきいた低い声で呟く。
「後でじっくり聞いてやる、それまで精々言い訳でも考えておくんだな」
レイルスは突如もたらされた死刑宣告に乾いた笑みを浮かべた。ローと目があって気がついた、ガチギレである。無理に飛び出してしまったという自覚はあるが、そんなに怒らなくても。レイルスは一体どれくらい細切れに裁断されるのだろうかと遠い目をした。ついでにローはレイルスの顔色を見て、毒ガスの影響を受けていることをすぐに見抜き、さらに腹を立てていた。親の仇でも見るような目つきの悪さであった。
投稿日:2022/0330
更新日:2022/0330