晦冥たるステージ

 レイルスがスモーカーと談話中にローはナミとロビンに問い詰められていた。本人がいればややこしくなると思いレイルスは能力で外に飛ばしたが軽率だっただろうかと勢いよく突っかかってくるナミにローは舌打ちをこぼす。飛ばした先にスモーカーが居たようだがあの状態の女に手は出さないだろうとローはタカをくくって目の前の2人に視線を戻す。
「どういうことよ!どこに隠してんのよレイルスの心臓!!」
 凄まじい剣幕で詰め寄るナミはすっかりローに慣れたのだろう、常時であれば七武海というネームバリューに気圧されて近づくことすらしないだろうがなんだかんだとルフィの我儘に流されてくれたところを見てしまっていたために、警戒も解けてしまったようである。
「隠してねぇし持ってねぇ」
「じゃあ!なんで!ないのよ!!あんたの能力でしょ!?」
「そもそも、あいつの心臓は半年前からない」
「……はぁ!?」
 そう、半年前。ハートの海賊団がレイルスを逃してしまったあの時である。ローはもとより、青雉の情報なんかで船を降りるなんてことを許していなかったのだ。そのためレイルスをバラバラにし反省させようと放置していたのだが、ローと過ごすうちにそんなことには慣れてしまっていたレイルスは自らを組み立てた。そこまではローも想定していた。だからこそ、心臓だけはローが船長室に持ち込み隠していたのだが。
「あのバカが心臓をうちの船に置いて降りたんだ」
「……まあ」
 ロビンが口に手を当てて驚きの声を上げる。これにはナミとチョッパー、サンジの介抱をしていたウソップも呆気に取られた。サンジは未だに鼻息荒く、脳裏に焼き付けたレイルスの金髪越しに見た背中を思い出して幸せにひたっている。ダラダラ鼻血を吹き出し続ける鼻の穴に大き目のツッペをぎゅうぎゅうと押し込みながら、ウソップはあんぐりと口を開いた。
 ハートの海賊団もまさか心臓を置いていなくなるなんて誰も思っていなかったのだ。レイルスが見当たらないとなった時にいつの間に心臓を持っていかれたんだとローは部屋を確認し、依然としてそこで鼓動を続けていた心臓を目にして数分間フリーズしてしまった。結局半年もの間ずっと船長室の金庫の中に、いろいろなクッション材とともに詰め込まれることとなったレイルスの心臓は、そのままペンギンに任せて船に置いてきている。ローも自分の命をかけるような作戦にレイルスの心臓を持参するほど狂ってはいなかった。
 ちなみにペンギンはたまにレイルスの心臓が動いているか定期的に確認する作業を行なっている。なんなら偶に「今日は晩飯なんだろうな〜ホルモン喰いてぇ」なんて話しかけている。船長が船長ならクルーもクルーでなかなかにエキセントリックだった。
「じゃあ、何、レイルスの自業自得……?あんたの船にレイルスの心臓があるってこと?」
「そうだ」
「レイルスー!!ちょっと来なさいー!!」

 ヒールを雪に突き刺すくらいの勢いでレイルスの前に現れたナミは、腕を組んで怒りをあらわにしていた。急にこんな態度になったナミに首を傾げるレイルスは素直に「何?」と問いかける。スモーカーはそれを横目に葉巻の灰を落とした。凍て空に紫煙が燻る。
「何?じゃないわよ!!あんた!!心臓!!半年もないままだったって何!?」
「……あー」
 聞こえてきた単語にスモーカーが信じられないものを見る目でレイルスを見る。たった数時間心臓がなかった体験をしたばかりのスモーカーにとって半年なんてとんでもない長さの間、心臓がないままなどという状態は想像に絶するものがある。それもレイルスが否定の言葉を吐かなかったことから事実らしいと知りとんでもない女だと改めてレイルスを凝視した。まさか死の外科医に取られてそのままなんてことは無いだろうな、とスモーカーは顔を歪める。海賊の心臓を100人分集め、海軍本部に土産として持ってきたような男に奪われたままなど生きた心地がしないだろう。そんな酔狂には見えないが、とスモーカーに思われているレイルスだが、その酔狂さを残念なことにレイルスは持ち合わせていた。
「まあ、その……」
「何!?」
「なくても死なないし、いいかなって」
「馬鹿なの!?」
 毛布の上から肩を掴まれてガタガタと前後に揺さぶられるレイルス。その度に長い金髪がふわふわと靡いてレイルスの背中をパシパシと叩いた。スモーカーもその様子に絶句してしまう。
「死ななかったし」
「結果論でしょ!?」
「心臓探してる時間なかったから、まあ腕と脚あればいいかなって」
「なんでそうなるの!?」
 容赦なくレイルスの体を揺さぶるせいで、レイルスの肩から徐々に毛布がずれ始めた。ブルリとレイルスの体が寒さで震える。聞きたいことも、言いたいこともたくさんあった。なのに本人がこの調子なのであればそれどころではなくなってしまってちゃんと話もできない。ナミはギッとレイルスを睨んで自分の付けていたマフラーをレイルスの首に巻きつけた。
「島3つ!!こっからよ!!」
「……というと」
「それまでにルフィが4億5000万ベリー超える!そしたら仲間!!言ったわよね!?」
「う、苦しいナミ」
「言ったわよね!?」
「……」
 首を絞められて脅されるレイルスはコクコクと頷く。確かに言っていたし、レイリーもそんなことをいって別れていたのでレイルスとしてもそのことはしっかりと覚えている。
 本当は麦わらの一味にあって、ルフィにエースの体にしたことをきちんと説明しようと思っていたのだ。ローに錬金術のことを聞かれ、真っ先に話すべきは彼だと思ったから。だからレイルスとしても一度会いたいとは思っていたのだが、未だ仲間にしてくれるつもりがあったとは、正直思っていなかった。
 しかしやけになったとは言えレイルスが自分から言った条件だ。ただ、本当にレイルスを仲間にするつもりなのかとは思ってしまうのだが。
 集団行動は向かない、独走しがち、加えて世界政府からおかしな理由で目をつけられている。規格外に強いわけでもないし彼らのように前向きでもない。レイルスは困ったように唸った。それに、当時とは状況が変わってしまっている。
「文句あんの?女に二言はないでしょ?」
「……あー」
「何よその煮え切らない反応許さないわよ!!それと、とっとと服着なさいよサニー行くわよ!!」
「それは何怒りなの?」
「サ……ゾロ!レイルス運んで!!」
「ナミさん今俺呼ばなかった!?呼びかけなかった!?なんでマリモに呼び変えちゃったのォホホォ!?」
「サンジお前は鼻血とその顔なんとかしろよ、ガキがマジでビビってるって」
「いや脚返して欲しいんだけど」
 レイルスの願いは黙殺され、ビール片手にやってきたゾロに抱えられてサニー号へと運ばれることとなった。


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投稿日:2022/0402
  更新日:2022/0402