三脚の卓
サンジの料理のおかげで、頬にほんのりと赤みを戻したレイルスだったが、相変わらずの少食具合のままだった。サンジとチョッパーはそれでも満足そうにニコニコとしている。血色の良くなったレイルスにサンジは鼻の下も伸ばした。
「おおーいレイルス!お前宴初めてだろ!」
「そういえばスリラーバーグではゾロさんと一緒で気絶してましたもんねぇ」
ジョッキを片手にレイルスの座る箱に腰を下ろしたのはウソップで、その後ろに続くブルックは爪楊枝で歯をカシカシと突いている。見かけこそ変わったが全く中身の変わっていない2人にレイルスは思わず笑ってしまう。全員少し話してああ変わらないな、と感じていたのにこの2人ときたらファーストインプレッションでそう思わされるのだからこれにはレイルスも気がゆるむ。そうそう、これくらい緩い方がありがたい。レイルスは麦わらの一味がレイルスが想定していた何倍も深刻にレイルスのことを探していたような言動にだいぶ狼狽えていた。だからこそ気楽に接してきた2人に安堵したのだが、表面化していないだけで実はこの2人も他と対して変わらない。
「あれみろ!名物鼻割り箸だ!!」
そうして指差された先には、いつの間にかレイルスから離れたチョッパーがテーブルにしていた台の上で、鼻に割り箸を突っ込み、下唇でそれを固定している強烈な姿。レイルスはええ、と驚く。名物なのか。
一味の中で2番目に見た目が変わったのはウソップだろう。以前よりもずっと逞しい姿にレイルスは思わずジロジロと見てしまう。1番目は言わずもがなである。
「レイルスさんは2年間、あの方の船にいたんですよね?」
そう問いかけてきたブルックの指が刺すのは、宴の席から離れた位置に座るロー。レイルスが着替える前にローの能力で飛ばされて座らされていた場所だ。移動をしていなかったのだろう、近くにはスモーカーの姿も見える。
「2年、まあ2年……?」
「なんでそこ疑問符なんだよ」
「半年前に別れたから」
「あーそれなら納得ってえええええ!?」
「そ、それじゃあ半年間どこに……?」
「1人でちょっと」
がびんとウソップとブルックは口を開いた。新世界の海の厳しさはここ数日だけで十分すぎるほど痛感していたので、ケロッとそんなことを言うレイルスに絶句してしまったのだ。
「危ねぇな!」
「ほんと、無茶しましたねぇ」
「ってことはあの七武海の仲間じゃねぇんだな?」
「うん」
「よし、よし」
誘われていたことは話さないレイルス。こういうところで怒られるというのに学ばない女である。話す必要もないかな、なんて本気で思っていたのでハートの海賊団を離れた半年でそういった配慮がかなり欠落していた。自己評価がだだ下がりしたともいう。
「ヨホホ、では宴ですので……」
そう言ってヴァイオリンを構えたブルックにウソップが「お!なんか弾くのか!」と囃し立てる。ジッとレイルスを見つめたブルックはその体制のまま口を開いた。
「パンツ、見せてもらってもよろしいですか」
「なんでだよ!!」
「ヨホホホ!!」
空になっていたジョッキでブルックをぶん殴ったウソップにレイルスは心の底から同意した。なんでだ。くるくると回転しながらブルックは海兵たちの中へと飛んで行った。
「おー、派手に飛んだな」
ガッシャンガッシャンと音を立てて背後からレイルスに覆い被さった影。振り返った先にはどうしてそうなったという姿のフランキー。変貌が著しいナンバーワンの登場にレイルスはグゥと唸った。特に腕、どうなっているんだその球体はとレイルスはじろりと白い目を向けてしまう。シャボンディでナミがフランキーに向けた視線とそっくりだった。
「前にもまして軽そうだな、レイルス」
「……フランキーはどうしてそうなったの」
「スーパーだろ」
「スッゲェんだこの体!」
なぜかウソップが興奮してあれこれと説明をしてくれるも半分も頭に入ってこなかった。最初の説明が鼻を押したら髪型が変わるというものだったせいでレイルスが思考を止めたせいである。なんのための機能なのか、頭髪はどうなっているのか。なぜ鼻が押せるのか。
「お前も良ければ腕作ってやろうか」
「え!?フランキーそれって……」
「ああ……ビームが出る!!」
「つけろよレイルス!!」
「嫌だよ!」
ものすごく真剣な顔でウソップが慫慂してきたためレイルスは思わず声を荒げた。
「まあそれは冗談だが、機械の体に嫌悪はないんだろ」
「……ない」
2年前、フランキーの体にたじろぐこともなく触ってみせたレイルスのことを覚えていたフランキーはビームは無しにしても日常生活が送れる程度の機能をつけた腕をつけるのはどうかと提案する。確かにレイルスはそういったものに全く嫌悪はないが、まさかの提案にしばし沈黙してしまう。ん?と眉を上げたフランキーに嫌悪は確かにないという旨は伝えたが、レイルスはなぜかすんなりと首を縦に振れなかった。
「……あー、まだ仲間でもないし」
苦し紛れにそう呟いて、最もらしい言葉が出てレイルス自身が驚く。ウソップはその言葉に「ああ」と嘆くように項垂れる。フランキーは面白そうにニヤリと笑ってコーラを煽った。
「お前それ、ルフィの前では言ってやるなよ」
「なんで?」
「余計に暴れるだろ!」
そんなものだろうかと無理やり納得したレイルスは頷く。ウソップは本気でそれを心配している。マリンフォードのことを思い出してウソップに習うようにレイルスも少ししてから「ああ」項垂れた。
投稿日:2022/0413
更新日:2022/0413