炎天の灯

そんなある日だ、一本の電話が昼間にかかってきた。


「ばっちゃん!シャノン!!エドとアルが帰ってくるって!今日!」


弾む姉の声とそれに返答するばっちゃんの声と正反対に私は冷水を浴びせられたように全身から血の気が引いた。真っ先に頭に中に浮かんだのは会えないという言葉で次いで頭を過ったのは痛烈なエドのあの煌めく瞳だった。
だめだ、絶対に会えない。
そう判断した私は姉の今日来ると言った言葉を思い出して慌てる。突然すぎる。それでもなんとか部屋へ戻って戸にもたれかかる様にして息をつく。ひゅう、と空気に抜ける音が耳に届いて、思わず口に手を当ててしまう。誰も聞いてもいないのにけれどもこんな音を誰かに聞かれるのは嫌で、たまに出てしまうこの音に口を塞ぐ癖がここ一年ですっかりついていた。窓から指す昼の高い日の光に誘われてカーテンの揺れるそこへと足を進める。朝起きて開けたままにしていたのを忘れていたようで片側だけ空いた窓のその丁度隙間から、灰になってしまった丘が覗いていた。
でも、そっか。二人はここへ帰ってくるのか。
家を焼いてしまったからもう二度とこの土地に近寄ってすら来ないのかとそんな恐怖もあったのだ。音沙汰もなく一年経ってしまったのだからその不安は現実味を帯びてしまって尚更だったのだがどうやら懸念のままで終わったらしい。
だったらなおさら私は今この家にいてはならないだろう。ベッドの下から鞄を引っ張り出してガチャリと少し錆びてしまっている金具を外す。ぱかりと口を開けた中身は空で、それを一瞥した後クローゼットへと向かう。適当に何着かひっつかんで半ば投げ入れる様に鞄に詰め込んでいって空いたスペースに数冊本をねじ込んだ。鞄を閉じで金具をガチャリと止めた時にコンコンと軽いノックの音が耳に届く。返事などできないので黙って待っていれば姉が勝手に入ってきてくれた。


「シャノン、聞いてあいつら……あれ、」


ベッドの上に置いてある荷物とその横に置いてあるコートを見て姉は言葉を止める。それに気が付かないふりをしてパタパタと手を動かして意志を掲示する。
もう随分と慣れたもので少し前の様に本を見ながら確認しつつ言葉を伝えていた時とは違う。家の中では筆談をすることすらなくなっているくらいで二人には頭が上がらない。


『久しぶりに向こうの家の様子、見に行こうと思うの』


「え…あ、そっか!最近行ってなかったものね!」


『うん、そろそろ行かないと管理してくれてるおじさんに悪いから』


「でもそんなに大荷物でいくの?」


『どうせだから少し泊まってくる』


「…うん、そっか、わかった、気をつけてね!ばっちゃんには私から言っておくから」


『ありがとう』


「なんかあったら無言でもいいから電話しなさいよ、飛んでくんだから!」


ふん、とガッツポーズをして意気込む姉に“笑顔”を返しながら頷いて肯定を示す。きっと、言いたいことも聞きたいことも姉はいますべて我慢してくれたのだろう。察して、気が付いてそして苦しそうな顔をした。そんな顔を作らせてしまったのが自分だというのが堪らなく嫌で、けれども私は笑ってそんな気持ちを殺す。
メモとペンは持った?お金は?昼食どうするの?と次々と言葉をくれる姉の優しさにすべて頷いて返す。大丈夫、大丈夫だと笑顔で伝える。
うん、私は大丈夫。


「気をつけてね、本当に」


少しだけ暗い顔を表面化させた姉の顔をジッと見つめ、頷く代わりに体当たりするようにして思い切り抱きしめた。




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投稿日:2017/0905
  更新日:2017/0905