炎天の灯

「…あの、さ」


「うん?」


「…シャノンは、僕らが戻ってきたからここにいないの?」


音にしてしまってから率直に言い過ぎたと思ったが時すでに遅し。ウィンリィは驚いたのかタイミング悪く飲んでいた紅茶が妙なところに入ったらしく噎せてしまって慌ててその背中をさする。咳き込むたびに揺れる背中は小さくて、まだ生身だったころはウィンリィの方が少し背が大きかったから小さいと感じる違和感を久しぶりに感じる。なんだかんだ言っても久しぶりに戻ってきたのだからそう思うのも無理はなかった。
息が整ったウィンリィは少し涙目で申し訳ないことをしてしまったなと思い謝ってしまう。それにカラリと笑って「いいのいいの、びっくりしただけ」と言ってくれた彼女にホッとしつつ、答えを待つようにジッとその笑顔を見つめる。そして思いついたかのようにあ!と声をあげて手袋を付けた手をぽん、と打ち鳴らした彼女に首を傾げる。


「そうだ!私も一人にしとくの心配だし、アルシャノンのとこ行ってあげてよ!」


「え、ええ!?」


「今住所と地図書くから明日にでも行って!ね!」


「で、でも」


「あの子話せなくなってから一人で村出るの初めてでホント気が気じゃなかったの、でも私もばっちゃんも丁度付いていけそうになくて結局一人で行っちゃったし、あの子もアルには会いたいだろうし」


今度は両手を合わせてお願い!という幼馴染みにだったら兄さんも、といおうと思ったが今は足が慣れないもののままだし、なにより微調整で本人がいなくては困ると先に言われてしまってそうか、と納得してしまう。今この家にいる人間でこの場を離れられるのは確かに自分以外にはいそうにない。話を聞いているうちに僕自身もシャノンの身が心配になってきたので勢いに乗せられたまま首を縦に振って肯定を示せばぱぁっと表情を明るくして机から紙とペンを手に持ってこちらに再び向き合ったウィンリィに相変わらずのシスコンっぷりだと苦笑してしまいそうになる。
まあでも、本当にあんな状態で実家に一人で戻っているのかと思うと早くそちらに向かいたいという気持ちに急かされる。二週間もあるのだから、何日かシャノンの実家に泊まってくればいいとまで言い出したウィンリィには流石に驚いたが、一人にしておくのがそれほど心配という事なのだろう。


「エドには私から言っておくから、もし何かあったらアルが電話してくれれば安心だしギリギリまでむこうにいてくれると本当に助かるわ」


「え、うーん……シャノンに迷惑じゃない?」


「何言ってんのよ急に、あの子がアルを迷惑だなんて思う訳ないでしょ」


びり、とメモを勢いよく切って渡してくれたウィンリィにお礼を言いつつどうしてもシャノンの所に数日いてほしいらしい言葉に今度こそ苦笑が漏れてしまった。同時に彼女の言葉でそう言えば兄さんには何も話していなかったなと思い出して今度はため息が漏れそうになる。いや、でも明日僕が会いに行って様子を兄さんに伝えるだけでもいいのかもしれない。意地っ張りな兄さんだからあの様子ではすっとシャノンの事をウィンリィやばっちゃん、僕にだって聞けるわけがないのだし。シャノンがこの家にいないことには流石に気が付いているだろうが、恐らくは今頃先ほどまでの僕と同じようにシャノンが僕らを避けているのではないかと思って悩んでいるだろう。
だったら僕が会って来て一言元気だったと伝えるのもいいかもしれない、それにシャノンの家の場所を僕が覚えれば兄さんの足が治ってからだって会いに行ける。泊まるかどうかはシャノンに聞いてみなければ分からないが、ウィンリィの心配も分かってしまった僕としては断られなければその通りにしてもいいかと心変わりするくらいには僕だって心配だった。皮肉な事に食事も寝床の迷惑もかける体ではないから、その当たりは気にしなくてもいいのだし。


「そうだね…うん、あ、兄さんには僕が言うよ」


「、そう」


何度もウィンリィはシグナルを出していてくれた。
言葉にそれは俄かに含まれていた、けれども僕はそれにも気が付けずにいたのだから。
そうしてずっと後に後悔をする、未来の僕はこの時の自分を呪うほどに恨むことになるのだ。




2015.8.29


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投稿日:2017/0905
  更新日:2017/0905