酸素に溺れる


とても昨日だけでは掃除は終わらず、早々に見切りを付けて取りあえずと寝室だけに絞って掃除をしたはいいが完全に埃っぽさがぬぐえないままの家で一晩過ごし、日が昇ってからまた掃除を始めた。あの頃は届かなかった棚に視線が近いことに違和感を覚えたり、日に焼けて色が褪せてしまった家具に昨日同様に時間が経ったことを実感させられた。汚れてもいい服を着て黙々と作業をしていると楽しい発見も多く、食器棚の下から色鉛筆が転がって出てきたり、キッチンの開き戸の端に落書きを見つけたり、引き出しの奥からビー玉がコロコロと転がってきたり。残念ながら記憶には残っていなかったそれらだったけれども、記憶になくとも懐かしいとは感じるらしく胸にこみ上げるものがあった。
晴れていてよかった、と開け放った窓の外を見ながら思う。もしこれで雨でも降っていたら締め切った室内で掃除をしなければならなかったし洗濯物もそんな部屋の中で干さなければならなかったな、と思ったときにそろそろ洗濯物を干そう、と思い出す。最後に今とりかかっているソファーの周りだけやりきってから洗濯物に取り掛かろうと隙間に入り込んだ埃を小さな箒で掃く。持ってきていたバンダナで口元を覆っていたのだが下を向いて作業をしているとどうにも息が籠って少し苦しい。ある程度埃も掃いた後なのでいいか、と布を下に下げた時、箒になにか引っ掛かったのがわかった。


「(ん、なんだろう、これ)」


隙間から見れば薄らと見えるキラリとしたなにか。箒を持ち替えて利き手の指先をそうっと隙間に差し込む。触れた先はひんやりと冷えた感触で予想通り、なにかの金属らしいというのが分かった。うまく爪にひっかける様にして引き出したそれはガラスを使ったピアスのようで、ソファーに挟まっていたおかげか、割れずに色褪せずに、けれど埃を被った状態だった。中途半端に降ろしていたバンダナを口元までおろし、ふう、と息を吹きかけてみたがソファーの埃が少し舞っただけでピアスの汚れは取れそうにない。試しに指でこすれば簡単に綺麗になったので後で布で拭いてみようと思いながらもそれを暫し眺める。日の光を浴びて綺麗になった部分が薄らと輝く、色は青に近い緑、いや二色が混じっているのか。
あぁ、少し、母さんの眼の色に似ているかも。
そうクスリと笑ったとき、来客を知らせるベルが、当時と変わらない音でそれを知らせた。


 - return - 

投稿日:2017/0905
  更新日:2017/0905