自己犠牲の快楽


「ねえシャノン!穴開けてほしいの!ピアスの!」


アルが出ていって暫くしてから戻った家で姉にそう言われた。(もちろんと言うか、酷く心配をかけてしまっていたようで駅まで迎えに来てくれた)手元と見ればシルバーのピアスのようでこのあたりでは売っていないそれにエドとアルからだろうなあと予測を立てる。案の定、姉は「貰ったの」と嬉しそうにしている。そこでふと、そう言えば私もピアスを実家から持ってきたのだったと思い出す。


『私もピアスの穴、開けようかな』


丁度ポケットに入れていたそれを取り出す。


「シャノンも?あ、それどうしたの?すごく綺麗」


ガラスかな、と私の手元を覗き込む姉にそれを差し出せばそっと丁寧にそれを受け取る。こういう所に姉の美点があると私は思う。言わずとも人の物を丁寧に慎重に扱い、まるで宝物の様に目を輝かせる。どうしたのかという問いに手を動かして詳細を伝える。といっても掃除中に見つけたもので恐らくは母の物だというくらいしか私にも分からないので何で出来ているかなどは答えられなかった。
そっと私の右側の髪を耳にかけ、そこに手に持っていたピアスを当ててうん、と満足そうに笑う姉に同じく笑い返す。そしてその姉の瞳をみて、あ、と気が付く。


「絶対似合う」


『お姉ちゃんの眼の色に似てるかも』


「え、そう?」


見つけた時は母の眼の色に似ているかもと思っていたが今姉の手にあるそれはまさしく姉の色だった。私の言葉にすこし考えた後、照れ臭そうに笑う姉を見てこれは姉の方が似合うのではないかと思った。しかしそんな私の考えは言わずとも分かったのか「私はこれがあるから」と言われてしまった。


「ピアッサー、あったよね確か…どこだったかなあ」


今からでも開けるつもりなのか早速仕事場に向かっていた姉を見送りながら、考えに耽りそうになってしまう頭を振って同時に思考も振りはらう。今考えてはダメだ、きっと暗い顔をしてしまう。
奥からばっちゃんに声をかける姉の声が聞こえて苦笑しつつ、結局自分で発見したらしい姉に今度は笑ってしまう。ちょっとムッとした声のばっちゃんに内心で謝りながら悪びれなくも大声で謝る姉の声の溌剌さになんだかんだと私はあの家で寂しかったのかもしれないなんて随分身勝手な事を思ってしまった。


「あったあった、よし開けよう」


『先に開ける?』


「いいよ、私がやってあげる〜」


どっちの耳がいい?と聞かれたのでそのまま先ほど姉が髪をよけてくれた右を指さす。オッケー、とピアッサー片手に顔を寄せる姉に痛いのだろうかとボンヤリ考えながらすべて任せる。


「じゃあ真ん中あたりに開けるよ?せーのっていうね」


『わかった』


「…………まって、これ怖い」


真剣な顔をして私を見つめてくる姉はどうやら普段手術の手伝いもしているにも関わらず思い切りが付かないらしい。


「あ、無理だ、ばっちゃんに開けてもらおう」


その言葉にそれでは私からやろうかと思って姉の耳を見て、私も無理だと直ぐに悟った。姉の耳に穴をあけるなんてどうやっても無理だ、無理だ。
その後もしばらく奮闘したが結局根を上げて二人そろってばっちゃんにお願いすることにした。




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投稿日:2017/0905
  更新日:2017/0905