自己犠牲の快楽
一度避けるように逃げてしまえば、その先の答えは簡単だった。もし電話が来ないで、唐突に帰ってきたのならば避けようもなく会ってしまっていただろうけれど、意外にもエドは律儀に電話をロックベル家にかけた。結局は電話のタイミングが悪いと姉にどやされているのだけれど、私にとってその電話は色々な意味を持っていたし、考えさせられた。わざわざ、そうやって電話で知らせてくれるのは私が逃げる時間をくれているのではないのだろうか、それともエドが私に会いたくないとそう思っているのだろうかなんて、被害妄想もいいところだと自分に呆れながらも、それを完全に否定するには私に情報は何もなくて不甲斐なくもこんこんと悩んでしまった。
アルは何度も、私の実家に訪れてくれる。来ない時も勿論あったけれど、高頻度で来てくれているのはきっと気を使わせてしまっているからだと思う。それがわかっていてもなお同じ行動を取り続ける私に姉は毎度困った顔で眉を下げている。それでも姉も私にエド達が帰ってくることを絶対に隠したりはしないのだから、あの人は酷く私に優しくて甘い。
ロックベル家の墓の前に座りながら、滔々と考え込んでしまう。静かなここは思考を回し自分を顧みるのにとても最適だった。本当は二人に叱ってもらいたかったのかもしれない、そんな深層心理が透けていて自分の浅はかさにまた嫌になったけれどどうしようもなかった。本当に私はどうしようもない。
墓とは、残された人の為にあるものだとこういう時に実感する。この下に実際に二人はいないのに、こうして私が訪れているのは紛れもなく私自身のためでしかないのだと思い知る。
きっと二人がどこかから見ていたら、呆れかえってしまうだろう。けれどやっぱり優しいから窘めて私を正してくれるのだ。それが分かっていてここにこうやって考え込みにきているあたり、私はとんだ甘ったれだという事だ。
そんな逃げに逃げた私の生活はその後数年にわたり続き、遂にそうして逃げ続ける自分に対してストレスが溜まったのか、実家に戻ると直ぐ嘔吐するという現象に陥った。それでもやっぱり、会えなかった、会いたくない訳ではない。アルに会った時だって、嬉しいと思ったのも嘘ではなかったし会ったときも「会いたかったのだな」と自分の心を再度確認させられた。だけれども、アルに会った時だって結局は彼に甘えて、自分のあんな過ちを棚に上げて自分からはなにも働きかけずに身を任せていることをつきつけられるのも、本当だ。せめてはそれをアルに悟らせないことぐらいしか私にはできなかった。アルにしてあげられたのはたったそれだけの事で、それにもまた自分を嫌いにさせられる。
ずっと、ずっと考えている。会ってエドになんて言えばいい、言葉を口にできない私が彼に何を言えば、いい。言えないくせに言えないせいでエドはきっとしゃべれない私を見て傷をつけるのに。そこまでして彼に何を伝えて、そして彼にとってプラスになることがどうしても思いつけなかった。そこまでする価値が私にはあるのかと、なんどもそういう結論に至ってはそれは逃げだと叱咤する、そうやって繰り返し繰り返し考えるだけでやっていることは逃げているだけなのだから始末がない。
皆、前へと進んでいっている。姉は私を気遣ったのか、とうとう出張でエドの機械鎧を直しに出かける様になってしまった。ばっちゃんに叱られて、これではダメだと死んだような日から前に進んだと思っていた私はまたあの時に戻ってしまっていた。これじゃだめだと分かっているのだ、痛いくらいに私自身が理解している。けれどじゃあ、どうしたらいい。それをずっとずっとずっと考えているのに答えが出ない。
私は、どうしたらいい。そう思うことすら甘えなのだとそれも分かっているのだ、そんなことは分かっている。わからないのはどうしたらいいのかなのだ。どうやって誰の重荷になることなく生きていけるのかだ。そうやって外面だけ取り繕って死んでいるかのようにひっそりと無駄に生きて、時間をやり過ごしていくにはどうすればいい。
この状況を変えたいと思う以上にこれ以上人に迷惑をかけたくないという思いの方がずっと大きくて永遠に考えが纏まらなかった。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905