埋葬されたあなたの事
「アルフォンスはその体、便利って思わないんだ」「え?」
「この前は君の幼馴染みに怒られちゃったからサ」
君の意見が聞きたい。そう、壊れてボロボロになってしまった鎧をジッと見つめながらリンは僕に問いかけてくる。こうもボロボロだと中が空洞なのも丸見えである。自分の預かり知らぬところで勝手に色々と約束を取り付けていたらしく、大佐に協力するその代わりにこの体の秘密を知りたいらしい。魂の錬成をしたのは僕じゃない、そういったのにも関わらず彼はこうして際どい質問をぶつけてくる。飄々としてなにを考えているのか掴みにくい性格をしているがこういった質問をほかの誰もいない時にしてくるということは、それなりに頭を働かせているという事なんだろうけれど。
「便利、かあ…」
「眠らなくていい、喰わなくていい、疲れも知らず…今まで見聞きしたかで一番不老不死に近いからネ、期待しちゃうんだヨ」
そうじゃないと、強く言えない。まるで無邪気に本当に嬉しそうにそういって笑うリンはこの感覚を知りもしないんだから当たり前だ。
眠らなくていいんじゃない、眠れないんだ。食べなくていいんじゃない、食べられないんだ。人の温度も分からないし、外の空気がどんな匂いなのかも分からない。自分の体の様にこの鎧を動かしているしこの妙な感覚にも慣れてきてしまった。それでもこの中身が空であることは確かであるし僕が僕である証も、自分だけじゃ証明できない。こんな見てくれでいれば人目にもつく、怖がられることだって珍しくない。
ある意味この体は脆いと思っている。内部にある血印を少しでも消されてしまえばこの魂はどこかに行ってしまう。その行先を僕は知らないから、それがとても怖いことだと思う。だって魂の抜けてしまったこの鎧はただの鉄の塊に戻るだけで、それを死と呼んでいいのかすら分からない。
けれど、それが生身の体でも同じなんだろうという事は薄らと理解できるようになった。生身の体で死んだって魂がその体から離れて動かなくなるということは僕のこの状況ときっと変わらない。このままの体でもいいのかもしれないとそんな風に思うようにだってなった。それはこうやって周りに不幸をまき散らしながら旅をすることの方がずっとずっと怖い。
それでもあきらめてはいけないとそんな僕を叱咤してくれたのはグレイシアさんだった。本当の事を伝えて、それでも僕らに諦めてはダメだと、それこそヒューズ中佐の死を無駄にすると真っすぐ強い眼差して諭してくれた。僕自身も、やっぱり元の体を取り戻したいと願ってしまっているのだから、諦めるなんて道は今はまだ考えられない。
「リンのお父さん」
「ん?」
「そんなに悪いの?」
「…悪いというより、寿命かな」
少しだけ笑いを引っ込めた彼はため息を吐きながら組んでいた足をしっかりと床に降ろして膝に肘を置く。
「残念ながら、父親として関わったこともない、話すにも謁見と言う形でしか叶わない」
「なんだか想像できないな」
「だから、別に父が死に向かっていることに関しては別にどうだっていいんだ。それよりも一族の為…そっちの方が俺にとっては家族だからネ」
最後にわざとお茶らけた様にそうへらっと笑ったリンはだから可能性があるなら知りたい、と語る。誰かのために不老不死の方法が欲しい。知らずに賢者の石を求めていた僕等は自分のためにそれを得ようとしたけれど、多分リンはその全てをしっても諦めないんだろうなと薄らと分かった。多分この人はそれを背負えるんだと思う。そんな強い意志がちらりちらりと覗き見えるから兄さんもリンを強く否定しないんだろうなぁなんて漠然と思った。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905