埋葬されたあなたの事
結果として、ばっちゃんが埋めておいてくれた俺たちの作ったあれは、母さんではなかった。医学的に骨を計測してもらった結果大腿骨が男の物であったり、肋骨は子供の物であったりとちぐはぐな人、らしきもの。綺麗に白骨化した今の方が当時のそれよりまだ人らしいだなんて少しでも思ってしまった自分の残酷さが怖かった。俺は遺伝情報を組み込むため、くわえて魂の情報を付加させるために自分の血とアルの血を使用した。そして母の体を再現するために必要な材料も全てそろえていた。理論的には合っていたはずのそれはリバウンドと言う結果で終わったが、そもそも根本から俺たちは勘違いをしていたらしい。人を作ることは、できない。
それももともといた人間を蘇らせるなんてできるはずのないことだったのだ。だからこそいま掘り返したそれは母さんでもなく、人ですらなりえなかった。それらしく骨があり、肉が付いていただけの人形だ。破綻していたのだ、リバウンドを起こして当然だった。無いものねだりをしてそれらしい対価を払ったつもりになっていた、真理のいう通行料は俺たちが求めていたそれを作ろうとしたときに発生する本来の対価で、病気のない元気な体の俺たちの知るあの母さんを欲しがったが故に払ってしまった物だ。しかし、払ったとしてもそれは元々出来ない物、だからこそ等価交換を謳う真理は、その勝手に払われるべき賃金受け取りとてつもない情報を寄越す。
ならば、ならばアルは。身体は払ってしまったが俺が腕を払ったことで帰ってきたあいつの魂は、どうしてもどってきたのか。死んだ者は生き返らない、その真実はどうあがいても覆らないのにも関わらずアルの魂は帰ってきたのだ。
アルは死者じゃない、時間こそ経ってしまっているが身体も同じように対価を払えば取り戻せる。その考えに至るまであっという間だった。俺はアルの魂を一から錬成したのではなく、どこかから引っ張り出す錬成をしたのだ。あの真っ白い空間で、真理は通行料だといって俺の足を奪っていった。あの足は、あいつの足と取って代わっていたのだ。俺の足も腕もあいつがあの場所で持っている。だとしたらきっとアルの体も。
トラウマと戦いながらも掘り返して、本当に良かったと心底思う。もうこれに怯えて悪夢を見ることも恐らくないだろう。俺は、母さんをあんな姿にしてしまったわけではなかったのだ。違う新しいなにかを作って、そして殺してしまった。その咎は変わらないだろうけれどあれが母さんではなかったという事実だけで、産みだして殺してしまったこれと、これからも向き合っていける気がしていた。そう考えが纏まって、あいつの言っていた逃げているという言葉もあながち間違いではなかったのだろうと、そう思わされる。なるべくこれを思い出したくはなかった、夢に見た時は飛び起きるほどだった。目を、反らしたかったんだと思う。そんな甘いことを言える立場ではなかったし、そうする気もさらさらなかったけれど心の奥底では思っていたんだろう。だからこそ、ここまで体を軽く感じるのだ。
あれの墓をちゃんと作って、きちんと弔った。その時に初めて俺は俺の罪ときちんと向き合えたそんな気がした。今までだって目を反らさずに背負って歩んできた。けれどきっとそういう“つもり”だっただけだ。真実を知って、あれを改めて自分が作って殺してしまったなにかだと認知して初めて謝れた。母さんにばかり謝ってばかりいた俺が、あれに初めて向き合えた。存在すら知られずに焼け焦げた庭の端に埋められていたあれを俺は生涯忘れない。これからは母さんだけではなく、あれの墓にも毎度顔を向けることになる、きっとアルも。
「事実に勝るもんはないな」
「なんだい急に」
「いや、改めてそう実感した」
あれを埋めて、今日共に掘り起こして俺を気遣ってくれたばっちゃんには頭が上がらない。なのに何でもない風に家への道をいつも通りに進んでいくものだから、改まって御礼も言えやしない。
「今日はシチューだよ」
「まじで?」
「シャノンが準備してくれてるんだ、あんた明日にはもう行くんだろ?」
「…おう」
あんたらもいい加減にしなさいよ、そう言葉なくも空気で伝わってきたけれど、俺はまだそんな余裕はないと考えることを放棄して、そう、逃げていたのだ。
だから戻ったロックベル家で食事の時間になってもあいつが出てこなかったことになにも言わなかったし、嫌に美味いシチューを食べても、なにも言わなかった。
ロックベルの叔父さんと叔母さんのことも、ばっちゃんには話せたのにシャノンは言えなかった。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905