埋葬されたあなたの事
「もしもし、シャノン?」リゼンブールから戻ってきたエドだったが早速街で喧嘩をしていると耳にして止めに行こうと向かってしまったのが間違いだった。私の思う喧嘩はエドとアルがお菓子の取り合いをして取っ組み合いになった程度の認識で、幼かった彼らが半べそをかきながら消毒液の痛みに耐えて仲直りをしている光景のままだったのだ。機械鎧を盛大に壊してくるたびに、どんな喧嘩をすればと思いながら、その認識を変えたくなくて見てみぬふりをしていたツケが一気に回ってきた。
喧嘩なんてそんな生半可なものではなかった、憲兵が数人気絶して倒れる路地裏は崩壊寸前でピリピリと肌に刺さる空気に息が苦しくなるほどだった。そんな中に彼らは立っていて、声をかけるタイミングを逃してしまったせいで父と母が殺されたという事実を知った。目の前に立つ男が自分の父と母を殺した、そのせいで私達の所に帰ってこなかったと思ったときには地面に転がっていた銃を握って、突き付けていた。でも、できなかった。父と母の仇を私はみすみす逃してしまった。どうしてなんでと頭の中で言葉が回りエドに縋り付きながら大声で泣き喚いた。軍に保護されて、色々と話を聞いてもらいながら少しずつ落ち着いて、エドとアルに本当の事を教えてもらった。
ラッシュバレーからかかってきた電話を受けて、自分のやろうとしていたことの恐ろしさをやっと理解したけれど心はまだぐずぐずと膿んだままで、また出かけるという二人を見送ってすぐにリゼンブールに電話をかけて、シャノンに変わってもらった。ヒューズさんのこともまだ消化しきれてないのにこんなことを知って、色々と限界だったのだ。本当はすぐにでもリゼンブールに戻ってシャノンに会いたかった、でもあんなにも危険なことをしていると知ってしまった今、おめおめと帰れるはずもなかった。
コツン、と軽い音が受話器から聞こえる。
「久しぶり、元気だった?」
ひとつ、また軽い音。すう、と吹きだまっていた汚いものがどこかに抜けていく感覚を覚える。ああ、受話器の向こうにシャノンがいる、そう思っただけで肩の力が抜けた。
ねえシャノン、私はお父さんとお母さんを殺した人を逃がしてしまったよ。二人とも悪いことなんて何もしてないのに、あの人もお父さんとお母さんに助けてもらったのにそれなのに殺されたんだって。こんなに酷い事ないよ、なのに私は撃てなかった、敵討ちもできなかった。今でも思い出しただけでぐつぐつと胃の奥の方からどろっとしたものが溢れてくるのに、こんなにも憎いと思うのに私は撃てなかった。シャノンだったらどうしたかな、もしシャノンが撃つというのなら絶対に止める。止めて、そして自分が撃つ。そしたら撃てたと思う。だけどそんなのシャノンを言い訳にしちゃうことになるよね、ごめん、私はやっぱり姉として失格だ。でもきっとシャノンは賢いから一時の感情でそんなことはしない。だから代わりに手を繋いでほしい、結局は撃てもしなかった銃を握った手で私もあなたをぎゅっと抱きしめたい。
「今度、ね…帰ったらアップルパイ焼いてあげる」
その時に、全部話すから。だから上手に焼けるようになるまでどうか。やっぱり電話越しじゃとてもこんな話できないからだから、その時まで待っていて欲しい。
待つしか出来ないだなんて言いながら、シャノンはそんな私を待っていてくれる。そのことが浅ましくもとても嬉しくて、悲しかった。ひとつ突かれた受話器の音に情けなくもぽろりと涙が落ちた。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905