闊歩する時
遠い昔に、誕生日プレゼントにと錬金術で作ったピアスを見て、あああの時のとその存在を思い出した。それまでそのピアスの存在すら忘れていた私はそれが姪の耳を飾っているのを見てやっとそれだと気が付き、その思い出を掘り返す。不思議な事にそれまで忘れていたというにも関わらず思い出したそれはなかなかに鮮明で、当時はそこまで鉱物の錬成が得意ではなかったせいで苦労してそのピアスを作ったことを思い出し、そしてそれを送った相手が私のそんな苦労など知らんとばかりに「趣味じゃない」なんて顔を顰めていたことまで思い出した。ベル、イザベラとは終始喧嘩が絶えなかった。好みも違えば興味を持つことも違う、一緒に何かをした覚えも無い。それでもやはり、私にとってあの子は唯一の妹だった。最後にあったのは私が人体錬成をしたすぐ後である。勘がいいのかなんなのか、それまで全く連絡も取っていなかったしお互いがどこに住んでいたのかすらも知らなかったのにも関わらずフラッとやってきて私にビンタをかまして出ていったのが最後だった。数年ぶりの再会で、しかも元から体の悪かった私が更に顔を真っ白にして死にかけていたというのになんて奴だと思わなくもなかったけれど、文句を言うほど私も気力がなかった。ぼんやりとあの子を見上げて、そしてあの勝気で意地っ張りなあの子が薄らと涙なんてものを浮かべているのに気が付いて、でもなにか言う前にさっさと出ていってしまったイザベラを追いかける術もなく今日まで来てしまったのだ。意地っ張りで、私のすること全てが気に入らないとばかりに顔を顰めていたベルだったが、手を上げられたのはこの時が初めてだったりする。身体の弱い私に気を使っていたのではという旦那の言葉にそれはない、なんて笑って否定していたけれど今ならばそうだったのかもしれないと思える。
お互いが大人と言える年齢になって初めて再会して、そして最初で最後の喧嘩は大人らしくどうにも言葉足らずの、それでいて一方的なものだった。そんな別れ方をしてずっと探していて、やっと見つけたと思ったらこれだ。あの子の墓の前には生前随分と嫌っていたラベンダーの花でも探してどっさりと供えてやろう、でないとこっちの気が済みそうになかった。
知らないうちに死んでいるだなんて、仲直りもさせてくれないだなんて、酷い妹だ。
ベルが結婚したことすら知らなかった、ましてや子供がいたことすら。その子が天涯孤独となろうときにすら私に頼ってこなかった当たり、随分と嫌われたもんだなと思ってしまう。そりゃ、人体錬成なんかして自分の子供を生き返らせようとなんてするような姉になんて任せられるわけがないか。そう思ったら「当たり前でしょ」と鼻で笑われたような気分になって、そういえばどこまでも人の神経を逆なでるような子だったと思い出す。それが正論だからまた質がわるい。
ああ、でもあんなにも昔に上げたピアスを未だにその娘が持っているという事はそれまでは捨てずにいてくれたらしい。案外ズボラな性格をしていたのでそれが片方しかないのはきっともう片方は無くしたのだろうけれど、捨てずにいたというだけでなんだかあの子のひねくれた性格を充分に表しているようなそんな気がした。
「いまは色々と旅をしてるけど、ダブリスってところで肉屋をやってるから今度遊びにおいで」
『いいんですか?』
「当たり前だろう、私にとってもあんたはもう唯一血のつながった親族なんだから」
昔の私に負けず劣らずの顔色の悪さに、体の線の細さ。ベルはどんなに無茶しても風邪のひとつもしない子だったから私の知らない父親に似たのか、それとも隔世遺伝で私に似てしまったのか。もうシャノンにはシャノンの生活があり、今更出張ったところでいい迷惑だろうと思い「一緒に住もう」なんて言葉は出てこなかったが、まだベルに似た笑顔を浮かべているのだからこの子は幸せなのだろうと、願うようにそう思った。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905