午後の呼び声に溶けて
エドワードが、帰ってきた。早足に坂を上っていく背中をぼんやりと見つめながら、怪我がなさそうで良かったと心底思った。フードを被ってしまったせいであの金髪も今は見えないけれど、その背中が大きくなっていてこんなに時間が経ってしまったのだと再度思わされる。姉から聞かされていた話で、よく無茶をしているというようなニュアンスを感じ取っていたし、アルの鎧もよく傷が増えていたからひっそりとだけれど、心配していた。加えて行方不明となっていたのだから無事に戻ってきて本当に良かった。胸の中で一つ、不安がっていた自分が嬉しがっているのに気が付いて気が抜けるような楽さを覚える。なんとなしに見送っていれば、その中の一人が不意に後ろ向きで歩き始め、こちらに視線を寄越してきた。唐突に交わった視線にぎょっとしているうちにニヤリと笑われ、その視線もすぐに外されたが鋭い眼光は確かに私を捉えていて妙に居心地が悪くなった。前にお墓で会ったときに少し距離があったしあれを会ったと表現していいのかも微妙なところだろう。どちらかと言うと見かけた、の方が正しい気がする。目が合ったのも短い時間で、あれを再開というには些か無理な気がした。それこそ、先ほどの様に一言交わした後では。
「(本当に、エドのお父さんとそっくりな色の眼だった)」
こんな色だったのか、とエドの父親を見て思っていたけれど、改めて本人の眼の色を見てああ、と安心を覚えるような心地になった。あの時もエドの眼の色も見たけれど、今日改めて目前で見てホッとした。変わっていない、見た目は変わった様に思えたけれどエドワードは変わらずにいる。
きっと変わらずに私の事を許さずにいてくれているのだ。そう思うとどうしようもなく苦しく、痛くなった。そうさせているのは紛れもなく私だというのに、あんなに優しいエドワードに許さないことを強要したのは、私なのに。
手元からぽこ、という間抜けた音がしてはっと沈んでいた意識を浮上させる。唐突に周りの音が戻ってきたような感覚に一瞬目が眩んだが、それよりも手元で少し変形してしまっているポスターに気が取られた。慌てて形を戻せば少しだけ裏に線が入ってしまっていたが表側は大丈夫そうだったのでホッと息を吐く。
しかし、どうしようか。今更あちらの家に行ってもかえってエドに気を使わせてしまうしなにより羊祭りの準備がある。それにエドから話しかけてくれたのに私が逃げるような真似絶対にできない。ぱん、と両手で頬を叩く。じわりと熱を持つように痛みが滲んだけれど、大きく息をついてそれを逃がす。笑え、笑え。普段通りに。それくらいしか私には出来ないのだから、さあ笑え。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905