午後の呼び声に溶けて
「どこほっつき歩いてたんだい不良ビーンズ!」というなんとも腹の立つ怒声と共にロックベル家に無事にたどり着いた俺たちにばっちゃんはそれでも容赦がなかった。やれ不衛生だと風呂に叩きいれられ、怪我をしていたハインケルのおっさんに罵声を浴びせながら包帯を巻き、腹が減ったという自由なグリードに固いパンを投げつけて(ホムンクルスにパンを投げつけるなんて芸当世界中どこ探してもこのばあさんしかしなかったんじゃないかと意味もなく感心してしまった)やっと「おかえり」と一言貰えた。なんだかんやと安心したようなその顔にやはり心配かけない訳がなかったかと反省をしつつ、とりあえずは元気だと伝える。あと、機械鎧の調整を頼んだが軽いメンテナンスだけしかしてもらえず、微調整はウィンリィにと言われ、あいつもそろそろ帰ってくると伝えた。その時に明らかにホッとした顔をしたのでそりゃそうか、と初めに伝えなかったことをだいぶ反省した。俺も、ウィンリィも、アルも皆元気だ。けれど。
「…なあばっちゃん、あいつ、シャノン…病気でもしたのか」
「珍しいね、あんたがあの子のこと聞くなんて」
「まあ…それで?」
「病気っていえば病気かね…」
「そんなに悪いのか」
母さんのやつれていったあの時を思い出してしまったせいで随分情けない声が出た。そんな俺に気が付かないふりをしてばっちゃんはキセルから煙を吸い、ふうと吐き出す。するすると天井に上っていった煙だがたどり着く前に正体は失せてしまい、空気に溶けて見えなくなる。そんなに、悪いんだろうか。いったいいつからなんだ。それとも治せない病気なんだろうか。ウィンリィは、あいつは知っているのか。
「そうはいってもあの子の心の問題だ、私にはどうにもできないよ」
「…精神的にってことか」
「あんたらが行方くらませてから前以上に喰わなくなっちまったからね、まあでもウィンリィも帰ってくるんだろう?」
「、あぁ」
「なら良くなるだろうよ」
そんなに、そこまで心配されているとは思ってもいなかった。ウィンリィにとってシャノンがどこか精神的な支えであるというのは俺でも分かったし知っていた。けれどまさかシャノンもそうだったとは、知らなかった。ウィンリィよりもしっかりしていて、いつも姉を助けているようなそんな記憶があったせいかシャノンが見るからに痩せ細っていた状態をみるまで、ウィンリィがいなくなってしまうことでシャノンに与える影響と言うのを考えてもいなかった。それに、ばっちゃんの言い方であれば俺も、アルもそこに含まれているという事なんだろうか。そんな俺の考えが分かったのか呆れたようにため息とともに煙を吐いて、睨むようにこちらを見つめばっちゃんは口を開く。
「あんたもアルも、あの子にとっちゃ家族も同然なんだ、食事が喉通らなくなるくらいには心配かけてたんだからちゃんと話な」
「さっき、会った」
そこでまた先ほどの「よお」なんて声をかけたことが思い出されて悶絶する。机に突っ伏して奇声を上げ始めた俺にばっちゃんは心底呆れたとばかりに溜息を深くついてくつくつと笑った。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905