午後の呼び声に溶けて
帰宅してすぐ、随分と家が賑やかな事に気が付く。こんなに家の中で声が溢れているのは久しぶりでばっちゃんも随分寂しかったんじゃないだろうかと扉に手をかけながら思う。深いグリーンの扉の色は冬ごろに塗り替えたばかりだからまだ鮮やかだ。あの時にはもう姉たちは行方が分からなかったのでその作業は私とデンで行った。下の方にデンの足跡がぺったりとついているのは恐らく私とデンしか知らないことでよくよく見なければそれには気が付けないくらいに紛れてしまっている。外から戻ってくるたびその痕のある場所をちらりと見るのが癖になった。戸を開ければ当たり前の様にデンが尻尾を振りながら駆け寄ってきて頭を撫でながら心の中でただいまと告げる。それに満足したのか軽やかな足取りで奥へと進むデンについていくように進めば、居間に向かってデンが一つ吠えた。「おや、お帰り」
『ただいま』
視線が一気に集まったことに怯んでしまうが軽く会釈をして視線から逃れればその一瞬で落ち着けた。二人は恐らく軍人だろう、相当たくましい体をしている。もう一人、あの坂道で目が合った彼は歳も近そうだけれども相変わらずニヤニヤと笑っていたので意図してその人にだけもう一度会釈をして目を反らした。
『買い物行ってくるよ』
「今日はあんた一人じゃ無理だろう」
『荷台押してくし、平気』
人数が急に増えたため、今家にある食材ではとてもじゃないけれど足りない。元々私もばっちゃんもあまり食べないのでそれこそ軍人さん一人の胃も満たせない気がする。まだ夕飯を何にするかさえ決めていなかったので買い物に行くのは元からの予定でもあった。ばっちゃんの言う通り彼らがどれだけ食べるか分からないけれど、私が持てる分だけでは足りないだろうというのが私とばっちゃんの総意であったらしい。パタパタと手を動かしながら財布の置いてある場所まで歩く。デンが後ろをついてきているのがわかり、デンも一緒に散歩がてら買い物に行くだろうかと思いながら財布を手に取り、横に置いてあったショルダーの中に入れてそれを肩にかける。
「誰かこの子の買い物についてってくれないかい」
そのばっちゃんの言葉に内心ぎょっとしたけれど、おくびにも出さずに「大丈夫だよ」と伝える。しかしこちらを見ようともしないばっちゃんにこれはなにを伝えようとしてもダメだと早々に諦め、だれにも気が付かれない様にため息をついた。
「、わーったよ」
「じゃねえだろ、お前がいったら村の連中にばれるだろ」
それにまさかエドが立ち上がるとは思ってもいなかったので今度は驚きを表に出してしまった。どう、したんだろう。この前急に戻ってきた時とは、エドの態度が違い過ぎる。なにかあったのだろうか。しかしすかさずエドのポニーテールをわしづかんで椅子に座らせた人の言葉から、エドは内密に帰ってきているのだという事を察する。行方不明の件といい、アルが一緒じゃないことと言い、本当にいつもと違い過ぎて目が回るような感覚だ。
「俺様が行ってやろうか?」
「却下、ゴリさん頼んだ」
どっこいしょ、と立ち上がった人は怪我もなく、エド曰く却下を下された人でもない。首が痛くなるほど高い位置にある目線にすごすごと頭を下げてお願いしますと伝えるしか私にはできなかった。
投稿日:2017/0905
更新日:2017/0905